今回のテーマは「介護保険の分かりにくさ」です。
もともと日本では、介護を含め高齢者の暮らしは家族が支えるのが基本でした。年金も介護保険も必要だとは考えていなかったわけです。
がらりと変わったのは高度経済成長以降。核家族化と高齢化が進んだことで、支える家族が身近にいない高齢者がどんどん増えていきました。
現在の公的年金制度が誕生したのは1961年。高齢者を家族で支え合うのが難しいのであれば、社会全体で公平に支え合うべきだと、国として考え方を変えたのです。
自治体によって異なる介護保険料
2000年に公的な介護保険がスタートしたのも、同じような発想が底辺にあります。自分だけで親の介護をすることは無理だから、40歳を超えた国民みんなで保険金を出し合って、介護が必要な高齢者を助けよう。こうして誕生した社会保障制度です。
さて、この介護保険ですが、加入者の保険料だけで賄っているわけではありません。半分は公費(国や自治体の負担)が投入されています。加入者の保険料と公費から、介護が必要な高齢者に保険金(介護サービス費用)を給付するというのが介護保険という制度の基本です。
仕組みそのものは、難しいものではないのですが、その先がちょっとやっかいです。実際にかかる保険料や得られる介護サービスは、人によって異なります。郵便のように全国一律のメニューがあるわけではありません。
介護保険の費用が分かりにくい理由は、大きく2つあります。
ひとつは、介護保険制度が地域保険であること。自治体によって保険料や介護サービスが異なるのです。
かなり古いデータになってしまいますが、厚生労働省が公表している2003年4月1日時点での自治体ごとの保険料を見てみると、例えば、65歳以上の人の月々の保険料を取っても、同じ東京23区でも杉並区は3000円ですが、中央区は3740円です。保険給付額も杉並区が18083円、中央区が20183円と平均額には差があります(2018年時点の保険料はこれより高くなっています)。厚生労働省老健局では「地域における保険料と給付水準には深い関係があります。」とうたっています。
自治体ごとに財政や高齢化率など置かれている状況が違うため、介護に対する取り組み方も微妙に違うのです。策定する介護保険事業計画が異なるため、それに応じて費用体系も違うというわけです。
予防介護を重視するのか、終末期介護を手厚くするのかなど、自治体によって重きを置く視点が違うため、中には、家族の意向に沿った介護保険事業計画のある自治体に転居するといった話も聞かれます。
もうひとつの分かりにくさは、要介護認定によって受けられる介護保険サービスが異なること。介護保険は、利用できるサービスにかかる費用の1割(所得水準によって2割、もしくは3割になる人もいます)が自己負担になる制度です。要介護・要支援度数が決まらなければ、費用負担を含めた介護プランも立てられません。
そして、要介護認定には、申請と一定の審査が必要になるのですが、その内容が、また分かりにくく。次の機会に解説します。