いまの仕事を辞めてまで介護することは良い選択ではない

厚生労働省の「平成29年(2017年)雇用動向調査」によると、離職者734.5万人のうち、介護や看護のために離職した「介護離職者」は、1.2%の約9万人となりました。離職理由に占める介護・看護の割合は小さいものの、2007年に比べ、およそ2倍に増えています。このまま介護離職者が増えれば、国内の労働力不足の問題をより深刻化させ、経済が減速する懸念も生じます。

親が病気やケガで健康的な生活を続けることが難しくなった場合、一番近い存在の家族が介護の担い手になろうと考えるのは当然です。とはいえ、“介護は家族がするもの”という強い固定観念からすべての責任を抱え込み、いまの仕事を辞めてまで介護に専念することは、肉体面はもちろん、経済的な観点からも介護者にとって良い選択とはいえません。

総務省が2018年6月に公表した「介護離職に関する意識等調査」では、介護離職をしたことがある人の中で、67.6%の人が「仕事を続けたかった」という希望を持っていましたが、そのうち、「現在仕事がある」と答えた割合は30.2%にとどまっています。介護が必要となるころの親を持つのは、40代、50代が中心です。この世代の再就職は、金銭面や待遇面などについて雇用側とのミスマッチが生じやすく、若年層の再就職に比べて、難易度が高まることも考えられます。

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家族の負担を軽減し、社会で介護を支える「介護保険制度」

2000年に施行された介護保険制度は、介護に関する家族の負担を軽減し、社会全体で介護を支えることを目的にした制度です。介護サービスの確保を図るとともに、政府が目指す「2020年代初頭までの介護離職者ゼロ」のためには欠かせない仕組みといえます。

介護保険制度では、40歳から保険料を支払います。被保険者は、65歳以上の方(第1号被保険者)と、40歳から64歳までの医療保険加入者(第2号被保険者)に分けられます。第1号被保険者は、原因を問わず要介護認定または要支援認定を受けた時に介護サービスを受けることができます。第2号被保険者は、加齢に伴う疾病(特定疾病)が原因で要介護(要支援)認定を受けた時に介護サービスが受けられます。利用者の負担は、費用の1割あるいは2割負担です。

要介護度は、要支援1~2、要介護1~5の7つです。「要支援1~2」の場合は、要介護状態になることを予防することを目的とした「介護予防サービス」を、「要介護1~5」の場合は、介護が必要な人への生活の支援や身体上の介護などを行う「介護サービス」が利用できます。

介護保険適用の介護サービスを受けるためには、以下の手続きが必要です。

トラリピインタビュー

①申請

市区町村の窓口で「要介護(要支援)認定」の申請を行います。
申請の際、第1号被保険者は「介護保険の被保険者証」、第2号被保険者は「医療保険の被保険者証」の提示を求められます。また、要介護・要支援認定申請書、マイナンバーが確認できるもの、主治医の情報が確認できるもの(診察券など)なども必要です。

※地域には、介護に関する相談窓口である「地域包括支援センター」があり、一部では申請の手続きを代行しています。

②要介護認定の調査、判定

◆認定調査・主治医意見書

市区町村の職員などの認定調査員が自宅を訪問し、心身の状況について本人や家族から聞き取り調査を行います。調査の内容は全国共通です。また、市区町村から直接、主治医(かかりつけ医)に医学的見地から、心身の状況について意見書を作成してもらいます。

◆審査・判定

認定調査の結果と主治医の意見書をもとに、保険・福祉・医学の学識経験者による「介護認定審査会」で審査し、どのくらいの介護が必要か判定します。

③認定結果の通知

原則として、申請から30日以内に市区町村から認定結果が通知されます。

④ケアプランの作成

要介護1~5と認定された方は、「在宅」か「施設への入所」のいずれかのサービスを利用します。
在宅で利用する場合は、居宅介護支援事業者と契約し、その事業者のケアマネジャーに依頼して、介護サービス計画(ケアプラン)を作成してもらいます。施設への入所を希望する場合は、希望する施設に直接申し込みます。要支援1~2と認定された方は、地域包括支援センターで担当職員が介護予防サービス計画(介護予防ケアプラン)を作成してもらいます。

⑤サービスの利用

ケアプランに基づいた利用者の負担は、費用の1割または2割(※)です。

※第1号被保険者は、原則合計所得金額160万円(単身で年金収入のみの場合は年収280万円)以上の所得を有する方は、2割負担。第2号被保険者は、所得にかかわらず1割負担。

仕事と介護を両立させるための制度整備が進む

国は、仕事と介護を両立させるための制度にも力を入れています。
2017年10月1日に施行された「育児・介護休業法」の一部を紹介します。

①介護休業制度

介護が必要な家族1人について、介護が必要な状態になるたびに1回、通算して93日まで(短時間勤務などを使った期間であれば、それと合わせて93日)休業できる制度。労働者から会社に申し出ることで利用できます。介護休業期間中は、要件を満たした場合、雇用保険から休業前の賃金の67%がハローワークから支給されます。

②介護休暇制度

介護が必要な家族1人につき、1年度に5日まで、対象家族が2人の場合は1年度に10日まで、介護休業や年次有給休暇とは別に1日単位で休暇を取得でき、労働者から会社に申し出ることで利用できます。

③介護のための短時間勤務等の制度

事業主は以下のa~dのいずれかの制度をつくらなければいけないことになっています。労働者は、介護休暇と通算して93日の範囲内で利用できます。

a 短時間勤務の制度
b フレックスタイム制度
c 時差出勤の制度
d 労働者が利用する介護サービス費用の助成その他これに準ずる制度

④介護のための所定外労働の制限(残業免除の制度)

対象家族1人につき、介護の必要がなくなるまで、残業の免除が受けられる制度を新設。

介護保険サービスを上手に活用すれば、介護離職をせずに仕事と介護を両立させることも可能です。まずは、ご家族の介護認定を受け、ケアマネジャーと相談しながら両立可能なケアプランを考えましょう。

ご自身の会社の支援制度や自治体のサービスなどを確認することもお忘れなく。

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