香港におけるデモが長期化しています。きっかけであった「逃亡犯条例」については、2019年9月4日に香港特別行政府が撤回を表明したものの、デモは収まる気配がありません。今回は香港という地域を通して透けてみえる今の中国の光と影について少しお話をしたいと思います。

アジアのシリコンバレー「広東省深圳」

寺本名保美
寺本名保美
トータルアセットデザイン
代表取締役

今回の香港のデモが始まる4カ月前の2019年2月、習近平指導部は特別行政区である「香港・マカオ」に中国本土の広東省を繋いだ「粤港澳大湾区(ビックベイエリア構想)」というものを発表しました。この大湾区構想の要となっているのが「広東省深圳(しんせん)」という地域です。香港と中国本土の堺にある広東省深圳は、今世界で最もエネルギッシュでホットな経済地域と言われているところです。米国との貿易問題となった中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)や中興通訊(ZTE)もここに本社を置き、数多くのベンチャー企業が集まっていることから「アジアのシリコンバレー」とも呼ばれています。

深センと香港の地図
香港と中国本土の堺にある広東省深圳は世界でいま最もホットな経済地域

40年前に経済特区に指定された深圳は、当初は世界の組み立て工場として成長し、次にスマホなどのハイテク分野の製造拠点に進化したあと、この数年はハイテクイノベーション都市として急成長を遂げ、2019年末には香港のGDP(国内総生産)を初めて超えたとされています。米国のシリコンバレーがイノベーションに特化し製造分野を持たないのに対し、深圳は従来からの製造業拠点としての機能を維持しているため、イノベーションの実装・実用化が非常に早く、この点において本家シリコンバレーを超えているという人もいます。隣接する香港の国際空港や香港金融センターでの資金調達は深圳の経済発展に寄与しているのと同時に、香港経済にとっても深圳の躍進は大きな恩恵でもあったと言えるでしょう。

デモ隊が主張する「一国二制度」の揺らぎ

さてこの大湾区構想は、こうした深圳を中心とした香港マカオ・広東省経済を、一つの経済圏として位置付け、世界有数の都市群を建設するということを謳っています。先述したように、今でも深圳と香港の経済は密接に結びついています。深圳と香港がそれぞれ自立的に相互補完をしている現体制があるにもかかわらず、あえて大湾区構想を打ち出してきた中国政府の思惑がどこにあるのかと考えると、今回の香港デモが主張する「一国二制度」の揺らぎのようなものが多少なりとも理解できるように思います。

JETRO(日本貿易振興機構)が翻訳した「粤港澳大湾区発展計画綱要」には何度も「一国二制度」の方針を維持するという文言が見られますが、一方でその序文には「香港とマカオが国家の発展大局に溶け込むことを支援し、香港とマカオの福祉を増進する。香港とマカオの長期的な繁栄と安定を確保し、祖国人民とともに民族復興の歴史的責任を負うことによって祖国の富国繁栄の偉大な栄光を共有することに向け、本計画を作成する」(強調は筆者による)という文脈があります。香港の人々からすれば、このフレーズは香港を中国本土の一部として取り込むことを意図していると感じてもおかしくはないでしょう。

建国70周年を前にした習近平指導部にとって、70周年の目玉構想ともいえる大湾区構想が香港の離反でとん挫するようなことは、どうしても避けたいことでしょう。今回の香港デモが「国家の対局に溶け込む」ことへの抵抗であるとするのであれば、事態収束への道のりはかなり厳しいものになるかもしれません。

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