テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず! 
連載第31回は、数々の2時間サスペンスドラマで活躍の倉沢奈都子さん。

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つわものどもが夢の宴

倉沢奈都子さんの写真
倉沢奈都子
脚本家
日本放送作家協会会員

今も昔も内部にいたわけじゃないから断定は出来ないけど、今と比べると昔の方がテレビ局にはお金があったような気がする。その根拠の一つとして言えるのは、ある民放キー局の制作局主催の大忘年会が、昔はあったが今はない、という事。

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ここから先は「シャイニング」のラストとか「耳なし芳一」みたいな話———つまり幻影のような亡霊のような話になるがそれはかつて確実に存在していた栄華を極めた強者どもの描写である。

そのうち忘年パーティーの招待状が来るから謹んで参加するように、と制作会社のプロデューサーから言われた時私は「え?私が行ってもいいんですか?」と驚いて彼の顔を見た。彼は笑って、いいんだよ、あそこで仕事したんだから。一回でも仕事したら誰だって呼ばれるんだよと答えた。

会費はタダ。場所は大都会の一流ホテルである。当日、おっかなびっくり会場に行ったら、まあそれは宮内庁主催の園遊会か?ってくらいの規模。集まっている人数も凄いが部屋をぐるりと取り巻く食べ物コーナーが超一流店の出店ばかり。時が経つにつれて来るわ来るわ、見たことがある大演出家や大脚本家、大芸能事務所の社長といった御大連中が押し合いへし合い所狭しとグラス片手に笑うわ喋るわ飲むわ怒鳴るわ。その間を器用にぬうように、華やかな女優陣がひらひらと回遊して———。

私は正になす術もなく立ち尽くし、時々回って来るロングドレスのお姉さんのトレイから水割りを絶え間なく取り上げ、普段行けない店の料理にも手を出さず、ただただ飲んだくれ、その時の超最前線、超エリートの群れを見ていた。皆が皆、自信に満ち溢れ光を放ち私はここに居て当然という顔をしていた。

そのパーティーには後に三回呼ばれた。でも四回目の年、待てど暮らせど招待状が来ない。不安にかられて親しい局員にこっそり訊いてみたら「えー? あんなのもうやんないよ。金かかるんだよ。すごーく」と言う。あ、私が呼ばれないんじゃなくて会その物がないのねとほっとしたのだが、ちょっと寂しくもあった。まあ、節約しようと思ったら、あれは真っ先にカットされてしかるべきイベントである事は確かなのだが。

盛大なパーティーのイメージ
皆が皆、自信に満ち溢れ光を放ち私はここに居て当然という顔をしていた

ハデは必ずしもムダじゃない

それ自体がもう二十年位前の話だ。それから世の中はどんどん変わった。その頃まさか会費さえ払えば家庭で海外のドラマや映画が見放題になるとは想像だにしていなかった。配信者、なんていう言葉もなかった。今は誰でも配信出来る。みんながテレビになれる時代になってしまった。

それが良いことなのか“タレ流し”なのか私にはわからない。が、一つ言えるのは昔はとっても素敵な「選ばれし」大人たちが集まって作っていたのがテレビだったことは断言できる。例のなくなったパーティーはその証拠であった。全員誇り高くそこにいた。大テレビ局に接待されて当たり前、それだけの実績も実力のあるんだオレたちは、という栄光でキラキラしていた。

だからこそ思う。企業がこの手の経費をすぐに切ってしまうのはいかがなものかと。前記したようにこれは無駄金と言えば一番の無駄金。でもこういうクダラナイ特権意識って人を動かす原動力なんではなかろうか。

人を動かす原動力のイメージ
クダラナイ特権意識は、人を動かす原動力になることも

将来ユーチューバーになってヒットさせる力がある若い人は是非ともテレビ局目指しなさい、何故なら見たこともない夢のようなパーティーに参加出来るんだから……とオバサンは言いたかった。そして、誰にでもなれるものになってもあんまり達成感ないよ、とも。

テレビ側の人間に言わせてもらえば、ネットの中の人たちがテレビを批判するのは半分やっかみだ。そりゃ確かに今は大忘年会はない。だが確実に、あらゆる審議を通り抜け、洗練された作品がそこにはある。それが今や「老舗」のプライドである。

削られた予算の中においてもあっと驚くような作品を量産してまたパーティーやって欲しい。恵比寿あたりのせまーい店で31人でこそこそ飲み会やるような貧乏くさい大人はテレビにはいないんだよ、と胸を張って欲しい。

私は今、心からコロナの収束とテレビ局の大パーティーの復活を願っているのだった。(収束せんことにはこっちもこそこそになるからね。はい。愛のある皮肉です)。

次回は放送作家の鮫肌文殊さんへ、バトンタッチ!

一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。

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