資産運用や投資は「博打」と考えていませんか? 「異なるもの」と答える人でも、投資と投機、博打の3つの明確な違いを説明できる人はあまりいないのではないでしょうか? 今回は、似て非なる3つをあらためておさらいします。

投資は目的と期間を定めて行う

寺本名保美
寺本名保美
トータルアセットデザイン
代表取締役

資産運用というと、「それって博打でしょ?」と言われてしまうことが良くあります。株式投資比率を引き上げた国の年金運用についても「博打のようだ」という表現を目にすることもしばしばです。確かに今の国の年金運用はやや振れ幅の大きな資産配分になってはいますが、それは「リスクの高い投資」であっても投機や博打ではありません

また、ヘッジファンドが「投機的だ」と言われることがあります。確かに彼らの運用手法の一部は投資より投機に近いものも含まれますが、博打ではありません。似て非なるこの3つの言葉の違いを少し振り返ってみましょう。

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「投資」とは「将来における一定の目的の元で」「資金を何かに投じて」「将来において何等かの利益を回収」する行為のことを指します。当初目的通りの回収ができれば「投資の成功」であり、目的を達成できなれば「投資の失敗」となります。

従って「投資」には必ず「目的(目標)」と「期間」が定められ、その目的と期間に応じた「投資対象と投資プロセス」が選択されます。これは金融投資であっても、設備投資であっても、人材投資であっても基本的には共通の概念となります。目的の達成確率が高い投資を「確実な投資」・「安全な投資」・「リスクの低い投資」と言い、達成確立の低い投資を「不確実性の高い投資」・「危険な投資」・「リスクの高い投資」と言うことがあります。

投資計画
投資は目的と期間を設定し、計画を立てるもの

一方で、投機というのは、売買可能な金品などを使った「値ざや稼ぎ」のことを言います。目的は唯一「売買益」のみであり、「投資」のような具体的な目標や期間が定められたものではありません。

わかりやすい例を挙げるなら、「不動産投資」と「不動産投機」でしょうか。「不動産投資」を行うにあたっては、投資する不動産から期待される「賃料」が前提となります。期待される賃料が投資後何年間維持され、何年後に投資資金の回収が可能となり、その間の維持費や税金などのコストの前提を置いて、期待投資収益を計算し、そこから投資物件の値段の妥当性を検討します。

これに対して「不動産投機」は、購入した不動産価格が上昇することを前提に、値上がり益目当てで購入することで、投資後の賃料などが目的ではありません。1990年代前半に不動産バブルが崩壊するまでの日本の不動産市場はまさに投機市場であり、買えば上がり、売れば次を買い、上がれば売る、という短期売買を日本中で繰り返していました。不動産バブルの崩壊後、ようやく不動産市場に「収益還元法」と呼ばれる「投資手法」が導入され、不動産市場が投機市場から投資市場へと変化していったのです。

博打は当たらない限り全額損失

次に博打について考えましょう。「博打=ギャンブル」とは、一般的に主催者(胴元)が存在し、胴元の元に集められた掛金総額から胴元の手数料を差し引いた残金を少数の勝者に分配する仕組みです。ギャンブルにおける「掛金」はクジ引きを買っているのと同じで、当たらない限りは全額が損失となります。胴元が受け取る掛金総額のどの程度の比率が払い戻されるかを還元率と言いますが、公営ギャンブルである競馬や競輪ではおおよそ75%と定められ、パチンコが85%程度、宝くじは50%を切る還元率と言われています。もし大金持ちが2019年の年末ジャンボ宝くじを全額買い占めたとしたら、その人は掛金の半分を確実に失うことになるように、ギャンブルというものは掛金の総和が確実に損失となる仕組を持った分配ゲームのことを指します。

競馬
公営ギャンブルである競馬や競輪はおよそ75%の還元率

こうして並べてみると、投資と投機と博打(ギャンブル)とが明らかに異なることがお分かりいただけると思います。

株式投資などを解説するサイトや本の中には、「何も考えずまず少額から始めてみよう」とか「無くなってもよいと思える金額で始めてみよう」といった表現をよく見かけます。経験してみないとわからないこともありますし、怖いと思っている人を投資に誘導するには「まずは少額から」という気持ちも込めての表現だとは思うものの、こういう言い方そのものが、投資を投機やギャンブルと混同させるきっかけになっているような気もします。

資産運用は「投資」です。投資であるためには投資の「目的と期間」の設定が必要です。まず始めて見る前に一度立ち止まり、何のための投資なのかを考える時間を持つことが、投資で成功するための最大の秘訣であると考えています。

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