遅咲き主婦アーティストの闘病と挑戦 人生を変えた100円の雑誌

闘病中も描いてメンタルケア

Rinさん　化学療法は3週間に一度の頻度でしたが、投薬後は体中が痛くなり、気持ち悪さでつらい症状が毎回1週間ほどは続きました。しかし、絵と向き合うことで気持ちは紛れました。私の場合、薬の副作用はつわりに似ている気がして、不思議かもしれませんが、だんだんと自分が生まれ変わっていくようなポジティブな気持ちも持てるようになっていきました。
また、想像以上に体を動かせたので、治療期間も体調をみながら派遣の仕事を続けました。いろいろな絵画のイベントに出かけ、企画展やグループ展にも出品していました。

生まれ変わるような感覚からインスピレーションを受けて描いた作品「誕生」

予想以上の精力的なご活動……！　いつ頃まで絵を描かれていたのですか？

Rinさん　手術の直前も、直後も描いていましたね。手術日が迫ってくると、利き手側を手術することになっていたため、「やっとかたちになってきた絵の道が閉ざされるかもしれない」と不安に襲われ、入院前夜は夜中まで絵を描き続けていました。その時はもう、絵を描くことが生きることになっていたのです。

入院前夜に描き上げた作品「ひかりの樹～reborn～」

Rinさん　無事手術を終えた翌日、目が覚めた私は、とにかく手が動くことを確認したくて病室で絵を描き始めました。幸い描くことに支障はなく、入院中も術後の痛みに意識が向かないように暇さえあれば絵を描いて過ごしました。

手術翌日に描いた水彩画

Rinさん　2019年春頃、大きな治療をすべて終えて通院のみとなった病院の待合室で、がんと診断された方や家族、友人を対象とした絵画・写真・絵手紙コンテストの公募チラシが目に留まり、締切間近でしたが応募しました。この時の作品が、2019年初夏、優秀賞と一般投票賞のダブル受賞を果たしました。

リリーオンコロジーオンキャンパスの受賞作品「ひとりじゃないよ」

決断の積み重ねが「今」そして「未来」を作る

Rinさん　絵を描くことで救われた私は、絵を通して「希望の光と癒し」を伝えたいと一層思うようになりました。
2019年11月からは、障がいを持つ子どもたちとアーティストたちのコラボアート・チャリティー展「ONEART」に参加しています。障がい児の新たな社会参加のかたちとして一緒に作品を作りあげたことは、まさに私のアーティスト活動の指針を体現できたひとつとも言えます。

最近では、アートのテーマ「希望の光と癒し」を追求するため、そして自分自身の体のためにもと「シンギングボウルセラピスト養成講座」にチャレンジし、2020年3月にはシンギングボウルサウンドセラピストとなりました。シンギングボウルとは、約3000年前より、ネパール仏教やチベット密教に伝わる法具です。現代では、その倍音によって人々の心と体を癒し整えるヒーリング効果で注目を集めています。
近い将来、自分が開催する個展でシンギングボウルを取り入れて、来場者には目と耳で癒しを体感し、心身ともに元気になっていただきたいと考えています。

現在治療中、または術後の方へエールをいただけますか。

Rinさん　「病は気から」ということわざがあるように、悶々と思い悩んでいると病気もどんどん悪化してしまうこともあります。私にとって心の健康を保つ方法は、まさに絵を描くことでした。治療はつらいことも多々ありましたが、闘病を一緒に乗り越えたことで家族の結束が強まるなど、悪いことばかりではありませんでした。
治療後の大きな変化としては、自分の命の時間には限りがあることを強く意識するようになり、「誰と」「どのように過ごすか」を重視するようになりました。

治療後に手掛けた7メートルの壁画

病が発覚した時、私には家でゆっくり休む選択肢もありました。しかし、自分の命と向き合ってからは「悔いを残したくない」想いが強く、失敗を恐れず、自分の直感を信じ、わくわくできることにはどんどん挑戦しようと思えるようになったのです。同じような境遇の方にとって、私の体験談が「病気と向き合いながらも自分らしく生きる」選択肢もあるということに、気づくきっかけとなれば幸いです。

入院中、清潔感はあるけれども無機質とも言える病院の白い壁を見ていて、そこにアートがあれば、入院される患者さんのつらい気持ちを癒すだけでなく、働いているスタッフの方の目も楽しませることができるのではないかと強く感じました。まだ夢の段階ですが、今後は病院内をアートで彩るような活動にも取り組んでいきたいです。

Rinさん　知識ゼロ、経験ゼロ、人脈ゼロのごく普通の専業主婦だった私が、好きなことを見つけて、これまで続けることができたのは、あの時100円の雑誌を読んで一歩を踏み出せたからです。
変化は誰にとっても怖いことですが、ダメもとでもやってみると、自分の世界は少しずつでも変えることができると思うのです。試してみて違うと感じたらそこで止めたって構いません。小さな決断と大きな決断の積み重ねが、「今」そして「未来」を作っていくのです。

▼個人依頼も可能です