「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回は60歳以上の方を対象に、「現金の価値を維持する投資」について説明します。

  • 国内外の株式・債券の「4資産分散」は、大勝ちはないが大負けもない
  • 4資産分散投資でも、インフレに負ける時期や元本割れをする時期がありうる
  • 4資産分散投資を長期間続ければ、インフレに勝つ可能性が高まる

目的は「現金の価値を減らさない」こと

このご時世、60歳代以上の方で「老後資金は十分」という方が、もしいらっしゃったらうらやましい限りです。
筆者は3月に続き、4月も仕事が皆無、つまり2カ月続けて収入がゼロになってしまいました。フリーランスゆえの悲哀ですよね。
さて、そんな筆者の愚痴はともかくとして。

60歳代以上の方で、「老後資金は十分」という方のための資産運用で肝要なことは、「貯めてきた現金の価値」を、長期にわたって減らさないことです。
「現金の価値」を減らさない。つまり、時間の経過とともに築き上げてきた現金資産を守ることができるのか、否かという点です。別の言葉でいうなら「インフレ対策」です。本稿で長きに渡って述べてきたことです。

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その具体的な方法として、「食事と同じく、バランスの取れた、バランスファンドがお勧め」ということも、これまでに書かせていただきました。

バランスファンドについて、簡単におさらい

バランスファンドは「運用で大きく増やしたい」という方よりも、「運用で減らしたくない」という方に向いています。ただし、「減らないわけではない」点にも、あわせてご留意ください。(ちなみに、筆者は「大きく増やしたい」方です)

さてこのバランスファンド、投資信託協会の分類では「資産複合」と呼んでいますが、要するに、異なる資産をいくつか組み合わせて1つのファンド(=投資信託)を作るという、いわばハイブリッドな投資信託です。組み合わせる資産は、株式(国内・海外)、債券(国内・海外)、REIT(不動産)・コモディティ(商品)などです。

特に、株式と債券という伝統的な資産の組み合わせは、その性格が真逆な点が多いことから、「相性の悪い資産の組み合わせは良い組み合わせ」として、連載第10回でも紹介させていただきました。

相性の悪い組み合わせ……その結果は?

突然ですが、下記のリンク先をご覧いただけますでしょうか。年金積立金管理運用独立行政法人、世に言うGPIFのホームページです。

分散投資の意義①1位になる資産は当てられない – GPIF

ここで紹介されているのは、2003年から2018年にかけての株式と債券の毎年のリターン、つまり毎年の運用の成績表です。
株式と債券という伝統的な資産について、それぞれ国内と外国がありますので、分類は「国内株式」「外国株式」「国内債券」「外国債券」の4点です。さらに、これら4点を25%ずつ組み合わせて1つにした「4資産分散」がありますので、表には計5点が載っています。この5種類の資産について、1年ごとに、リターンが高い順番に1位から5位まで並べられています。

いかがでしょうか?
「4資産分散」は2003年から2018年にかけて、ほとんどの年で「3位」にいることが分かりますね。
つまり、「大きな勝ち」を得ることもありませんが、「大負け」もありません。
「相性の悪い資産の組み合わせ」の結果と言えるのではないでしょうか?

相性の合わない組み合わせ……本当にインフレ対策になるのか?

株式・債券の4資産分散が「大きな勝ちを得ることもなく、大負けをすることもない」ということは分かりました。しかし、問題は異なる資産を組み合わせるバランスファンドが、本来の目的である「インフレ対策」、つまり時間の経過とともに「築き上げてきた現金資産」を守ることができるのか否かという点です。
そこで、以下の表を作成してみました。

インフレ、預金、架空ファンドを20年間運用した場合の運用実績のシミュレーション

インフレ
(2%)
預金
(0.01%)
架空ファンド
ファンドA ファンドB ファンドC
2000年2月末
(スタート)
1,000万円 1,000万円 1,000万円 1,000万円 1,000万円
2005年2月末
(5年経過)
1,104万円 1,000万円 1,080万円 990万円 1,180万円
2010年2月末
(10年経過)
1,219万円 1,001万円 1,080万円 980万円 1,190万円
2015年2月末
(15年経過)
1,346万円 1,002万円 1,870万円 1,570万円 2,210万円
2020年2月末
(20年経過)
1,486万円 1,002万円 2,110万円 1,760万円 2,500万円

赤字は「インフレに対して負け」。赤太字は「インフレ負けに加えて元本割れ」

(ファンドA~Cの資産配分)

ファンドA ファンドB ファンドC
日本株 25.0% 37.5% 12.5%
先進国株 25.0% 12.5% 37.5%
日本債券 25.0% 37.5% 12.5%
先進国債券 25.0% 12.5% 37.5%

ところで、そもそも投資とは「未知の未来への投資」なので、将来の運用成績をお示しすることはできません。過去の実績ならばお示しすることはできます。
ただし、今回は「架空ファンド」でのお示しになります。ファンドA・ファンドB・ファンドCはそれぞれ別々の「相性の悪い資産の組み合わせのファンド(投資信託)」をモデルとしたものですが、あくまで架空のファンドとして話を進めていきたいと思います。

さて、上の表の説明を続けます。
まず、インフレと預金については、左側の西暦は無視していただいて、()内の経過を時間軸としてご覧ください。
インフレは「品物の値段」の推移だと思ってください。
インフレ率2%の世界では、品物の値段は、その性能や数などは変わることなく、値段だけが毎年2%ずつ上昇していくのです。1,000万円でスタートした場合、20年後には、何と1,486万円です。
性能や数は変わることがないのに、値段だけが486万円もアップするのは、インパクトが大きいですね。

一方、預金も同じく1,000万円で始まっていますが、時間が経ってもほとんど増えませんね。インフレに完全に負けている、つまり額面は守られていても(元本割れはなくても)、預金の価値は時間の経過とともに下がり続けているのです。

一方、架空ファンドはいかがでしょうか?
インフレ、預金と同じく元本1,000万円で始めています。時間軸は()内の経過ではなく、西暦でご覧ください。「過去の実績」ですから。
ファンドA~Cは「相性の悪い組み合わせ」、つまり株式・債券という伝統的な資産にこだわりましたが、それぞれ組み合わせの割合が異なります。
いずれのファンドも「インフレに負けている」時期があり、ファンドBに至っては「インフレ負けに加えて元本割れ」の時期もあります。

が、いずれのファンドも15年を経過すると、インフレに対しても、元本に対しても、なかなかの「勝ち」を得ているのが分かります。
これなら、一部を取り崩しても、未だ「インフレ対策」の効き目がありそうですね。
まさに投資は「時間が味方」。投資でパフォーマンス(=好成績)を得るためには、やはり長期投資が効果絶大と言えそうですね。

「よし、これなら、投資をやってみよう!」という読者の皆さまの心の叫びが聞こえてきそうです。だとしたらありがたいお話ですが、投資を始めるには、やはり、準備というのか心づもりというのか……はい、必要なことがありますので、お近くのファイナンシャルプランナーにご相談を。

先述の通り、以下はあくまでも過去の実績を基に作成しております。
「築き上げてきた現金資産」を守ることができるのは、元本割れをしない預金か、一時的に元本割れもありうる「相性の悪い資産の組み合わせ」によるバランスファンドと、どちらが有効でしょうか? それぞれの傾向をつかんでいただくことはできましたでしょうか?

まとめに代えて

60歳代以上の方で、「老後資金は十分」という方のための資産運用は。その目的は「現金の価値」を減らさない、つまり「インフレ対策」、時間の経過とともに「築き上げてきた現金資産」を守ることができるのか、否かという点です。
預金と「相性の悪い資産の組み合わせ」によるバランスファンドと、どちらが目的にかなっているでしょうか?
もちろん、減ってしまう可能性もあるわけですから、お手持ちの現金の全てをファンドにつぎ込むなどということはないように。

(次回は4月20日を予定しています)

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