「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回は「積立投資への誤解」をテーマに、投資信託と外貨建て生命保険の例を取り上げてみます。

  • 同じ投資信託で、積立投資を同じ期間続けた場合でも差が生じる現実
  • 定時定額投資の方が、定時定量投資より投資の効率が良いと考えられる
  • 外貨建て生命保険でも、定時定額投資の効果が一定程度期待できる

同じ期間、同じ商品への積立投資でも差が生じる

冒頭、新型コロナウイルス感染症により亡くなった方々にお悔やみ申し上げます。また、闘病中の方には一日も早い快癒を祈念申し上げます。

6月に入り、いわゆる自粛もいくらか緩和されましたが、街の賑わいはまだまだな印象ですね。
先ほど、新宿駅西口にあるデパートに行ってきましたが、「これが日曜日の昼下がりのデパートなのか」と思うほど来店者が少なく、筆者は思わず涙ぐんでしまいました。

水への投資 世界的に不可欠な資源への投資機会 BNPパリバ・アセットマネジメント

さて、本題に入ります。「積立投資への誤解」が本稿のテーマです。

以下の表は、ある2種類の条件で積立投資を行った場合、どれだけの利益を得られるかというシミュレーションです。

プランA プランB
① 投資信託の名称 日本株ファンド 日本株ファンド
② 投資額の合計 1,530,000円 1,514,678円
③ 基準価額の平均 9,900円 9,900円
④ 取得口数の合計 1,794,518口 1,530,000口
⑤ 損益分岐点 8,526円 9,900円
⑥ 6月5日時点の基準価額 16,223円 16,223円
⑦ 6月5日に全てを換金(約定) 2,911,246円 2,482,119円
⑧ 投資額の合計に対するパフォーマンス +1,381,246円 +967,441円
⑨ ⑦÷②×100 190.27% 163.87%

*プランAとプランBは、本稿のために便宜上、設定しました。
①投資信託の名称:実在する投資信託ですが、ここでは仮称です。プランAもプランBも同じ投資信託です。
②投資額の合計(プランAの場合):2009年1月30日~2020年4月30日まで、毎月の最終営業日に、1万円ずつの積み立て投資を12年9カ月間行っています。ノーロード(=購入時手数料がない)です。
②投資額の合計(プランBの場合):2009年1月30日~2020年4月30日まで、毎月の最終営業日に、1万口ずつの積み立て投資を12年9カ月間行っています。ノーロード(=購入時手数料がない)です。
③基準価額の平均:②の期間中の、毎月の最終営業日の基準価額の平均(算術平均)、すなわち毎月の積み立て投資を行った日の基準価額の平均です。なお、基準価額は実在する投資信託の運用会社のサイトから引用しています。
④取得口数の合計:②の期間中、毎月の積立投資によって得た、投資信託の口数を合計したものです。
⑤損益分岐点:「②投資額の合計」÷「③取得口数の合計」×10,000で計算しています。
※どちらの投資信託も、基準価額を用いていますので、信託報酬は織り込み済みですが、分配金の再投資は行っていません。
⑥⑦:「6月5日」としたのは、本稿執筆の時点で最も近い営業日という以外に意味はありません。4月30日まで積立投資を行い、投資信託の状態で取っておき、6月5日に全て換金(=解約)したというプロセスです。
⑦はプランAおよびプランBそれぞれ⑥×④÷10,000で計算しました(円未満は切り捨て)。
⑧パフォーマンス:プランAおよびプランB、ともにそれぞれ⑦から②を差し引いて算出しました。

プランAとプランBは、実は両方とも、同じ投資信託を同じ期間、積立投資を行っています。なので、③の「基準価額の平均」や⑥の「6月5日時点の基準価額」は同じです。が、⑧の「パフォーマンス」をはじめ、ほかの数字は異なっていますね。
どうして、このような違いが生じたのでしょうか?

定時定額投資と定時定量投資

プランAは、前稿や前々稿でもご覧いただいた「定時定額投資」です。

その2 積立投資の目的は損益分岐点の引き下げ

定時とは「毎月、決まった時期」(=本稿では毎月末)に、定額とは「毎月、決まった金額」(=本稿では毎月1万円)ずつ、積立投資を行っていくというものです。

このプランAに対し、プランBの方は「定時定量投資」です。
定時は同じく「毎月、決まった時期」(=本稿では毎月末)ですが、定量とは「毎月、決まった口数」(=本稿では毎月1万口)ずつ、積立投資を行っていくというものです。

プランAの定時定額投資と、プランBの定時定量投資。それぞれの積立投資のイメージは以下の表の通りです(抜粋した投資日には特に意味はありません)。

投資日
(積立日)
プランA プランB
投資額(円) 基準価額(円) 取得口数(口) 投資額(円) 基準価額(円) 取得口数(口)
2018/9/28 10,000 16,755 5,968 16,755 16,755 10,000
2018/10/31 10,000 15,228 6,567 15,228 15,228 10,000
2018/11/30 10,000 15,521 6,443 15,521 15,521 10,000
2018/12/28 10,000 13,917 7,185 13,917 13,917 10,000
2019/1/31 10,000 14,433 6,929 14,433 14,433 10,000
2019/2/28 10,000 14,860 6,729 14,860 14,860 10,000
2019/3/29 10,000 14,843 6,737 14,843 14,843 10,000
2019/4/26 10,000 15,577 6,420 15,577 15,577 10,000

プランAは、投資額はずっと1万円で変わりませんが、基準価額の変化によって1万円で買える口数が変わるので、取得口数はバラバラです。
一方のプランBは、取得口数はずっと1万口で変わりませんが、1万口当たりの金額を示す基準価額は日々変化するので、投資額はバラバラです。
プランAもプランBも、ともに同じ投資信託ですので、基準価額は同じです。

プランA=定時定額投資の方が……

どちらも同じ積立投資なのですが、定時定額投資のプランAの方がパフォーマンスが良い、つまり効率の良い投資だと筆者は判断しています。
最初の表の「③基準価額の平均」が同じなのは、プランAとプランBは同じ投資信託ですから当たり前なのですが、「②投資額の合計」はプランAの方がプランBより15,322円上回っていますので、③と②だけを比較すると、プランAの方が投資の効率が悪いように見えます。

しかし、「⑤損益分岐点」ではプランBに比べて、プランAの方が1,374円下回っています(積み立て投資における損益分岐点については前々稿を参照してください。ひと言で申し上げるなら、「ある時点の基準価額が損益分岐点を1円でも上回ればプラスになり、同じく1円でも下回ればマイナスのパフォーマンス」という意味です)。
「損益分岐点は少しでも低い方が換金(=解約)のタイミングが広がる」というのが、筆者の積立投資に対する考え方です。(もし、筆者の損益分岐点に対する考え方にご賛同いただければ)プランAの定時定額投資の方が、投資の効率が良いと言えるのではないでしょうか?

そして、プランA=定時定額投資の効果の程が覿面てきめんに表れているのが「⑧投資額の合計に対するパフォーマンス」です。
プランA、プランBともにプラスのパフォーマンスですから、どちらも元本割れはなく、ともに目出度しめでたしな結果と言えます。しかし、⑧投資額の合計に対するパフォーマンスはプランBに比べ、プランAの方が413,805円も上回っています。やはりプランAの方が効率が良いといえるのではないでしょうか?

定時定額投資はどんな投資商品? 定時定量投資は?

定時定額投資(プランA)および定時定量投資(プランB)ともに、積立投資です。本稿では比較を行いやすくするために、どちらも投資信託でシミュレーションを行いました。
投資信託による積立投資の仕組みは、定時定額投資に当たります。

そして、プランBでお示しした定時定量投資は、実は平準払い(=月払いor年払い)の外貨建て生命保険などが該当します。もっとも、外貨建て生命保険は通貨が外貨というだけで生命保険であり、「投資」という表現は語弊があるのですが。
とはいえ、外貨建て生命保険を利殖目的で契約する方もいらっしゃるそうですから、「投資」という表現も、当たらずとも遠からずといえるのではないでしょうか?

この定時定量投資の仕組みがある外貨建て生命保険をもって、「積立投資の効果が十分に得られる」と考えていらっしゃるとしたら、それは「積立投資への誤解」かもしれません。積立投資の実力がより発揮されやすいのが、投資信託の積立投資のような定時定額投資だからです。

外貨建て生命保険は定時定量投資?

外貨建て生命保険は先述の通り、通貨が外貨、つまり払い込む保険料や、解約した時に受け取る解約返戻金、そして保険事故が起きた時の保険金の全てが外貨という生命保険です。
外貨建て生命保険も生命保険ですから、(投資信託とは異なり)将来の見積もりを作ることができますが、その見積もりも全て外貨です。なので、外貨建て生命保険では、日本円での払い込み金額や受け取り額は、将来の為替しだいです。

ところで、外貨建て生命保険で払い込む保険料はずっと定額ですが、それはあくまで「外貨で定額」ということです。
外貨建て生命保険の保険料は、日本円で払い込むこともできます。日本円の銀行口座から日本円で引き落とされて、それを保険会社が外貨に換え、保険料に充てるのです。
毎月の保険料が100ドルとすると、1ドル=100円ならば日本円では1万円、1ドル=110円なら1万1000円というように、為替レートによって日本円での金額は変化します。したがって、外貨建て生命保険の保険料として引き落とされる日本円(=つまり通帳に記帳される引き落とし額)は、毎月異なります。為替しだいだからです。

このように考えると、外貨の保険料は、投資信託の定時定額投資における「投資信託の取得口数」とよく似ていることに気付きます。
外貨建て生命保険は定時定額投資の商品ではありますが、為替を考慮すれば、定時定量投資と類似しているともいえるかもしれません。

まとめに代えて

投資信託と外貨建て生命保険は、リスクも目的もそれぞれ異なりますから、単純な比較はできません。が、先ほども述べましたが、利殖目的で外貨建て生命保険を検討される方もいらっしゃるようです。利殖の手段として、生命保険だけでなく、投資信託の積み立てを加えることを検討してみてはいかがでしょうか?

ところで、なぜ、本稿では外貨建て生命保険を取り上げたのか? なぜ本稿のタイトルを「積立投資への誤解」としたのでしょうか?
それは、筆者がかつて受講した外貨建て生命保険のセミナーで、「外貨建て生命保険こそが、ドルコスト平均法の原点です」という趣旨の説明を受けたからです。

外貨建て生命保険の「外貨」といえば、もちろん「ドル」もあります。なるほど、ドル建ての生命保険だからドルコスト平均法……。これは違うのではないでしょうか?
ドルコスト平均法の「コスト」とは投資の元本、つまり投資額を意味し、平均法とは(筆者の主張する)損益分岐点の引き下げを意味すると理解しています。
外貨建て生命保険が果たして「ドルコスト平均法」に当たるのかというと、実は、筆者はやや無理があるのではと考えています。積立投資には変わりないと思いますが。

本稿の中盤でも述べましたが、最初の表のシミュレーションでは、定時定額投資および定時定量投資、そのどちらもがプラスパフォーマンスの結果になっています。なので、定時定量投資を否定するつもりはありません。

「投資信託はイヤだけど、外貨建て生命保険や変額保険なら良い」という方、実は意外と多いのではないでしょうか? 「投資」と聞くと抵抗してしまうけれど、「保険」なら安心できるという方も、投資信託を食わず嫌いせず、投資信託の積立投資を選択肢のひとつとして検討していただく価値はあると思います。

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