米国株は調整を警戒されながらも高値圏を維持しています。一方、日本株は春先の日経平均株価30,000円台をピークにじわじわと下がってきました。株式市場の見通しについて、エコノミストのエミン・ユルマズさんに聞きました。(取材:2021年7月30日)
チャイナショックの再来を懸念
足元の株式市場をどう見ていますか?
エミンさん 気になるのは、中国株の不調です。アメリカ上場の中国株は高値から半値まで下がりました。株式市場のリスクはここにあると思います。2015年に起きたチャイナショックの再来を懸念しています。
中国では、クレジットインパルスの低下が顕著です。クレジットインパルスとは、国内総生産(GDP)に対する新規貸し出しの伸びを示す指標のこと。与信拡大にブレーキがかかり、市場の流動性が失われつつあります。
その象徴と言えるのが、不動産大手の中国恒大集団(チャイナ・エバーグランデ・グループ)。昨年9月にはデフォルト(債務不履行)の懸念があることを中国当局に自ら訴え、そこから株価が約65%下落しました。
同社は1300もの開発プロジェクトを推進する一方で、電気自動車やスポーツなど事業多角化を進めてきました。不動産事業の不調を乗り切るために、本来であればアセットを縮小してデレバレッジすべきだったのに、さらに多額の負債を抱えてしまったわけです。これはまさに日本のバブル期と同じで、末期症状だと思います。
今までなら政府が救いの手を差し伸べたはずですが、習近平政権は「潰れるところは潰れてもかまわない」という構えのようです。民間企業に対して共産党の統制を強めようとする意図は明らかであり、それはIT・教育業界に対する規制強化からもうかがえます。これまで中国がバブル崩壊を免れてきたのは政府の支えがあったからこそで、いよいよ厳しい局面に差し掛かってきたように思います。
2015年のチャイナショックは、中国景気の減速から世界経済の減速懸念が強まり、世界同時株安を引き起こしました。そのリスクがまた高まっているということですね。
エミンさん そうですね。あとは、アメリカにもリスクがあります。2021年第2四半期(4~6月)の実質GDP成長率は前期比年率6.5%となり、事前の市場予想の8.5%を下回りました。
また、半導体大手の米テキサス・インスツルメンツが示した第3四半期の売上高見通しは市場予想を下回るもので、世界の半導体需要がピークを打ったのではないかという懸念もあります。半導体は自動車やスマートフォン、パソコン、家電など身の回りのあらゆるモノに使用されています。今後、グローバルの製造業購買担当者景気指数(PMI)が減速へ向かうことになるかもしれません。
中国の融資縮小による流動性の枯渇、アメリカの成長鈍化、これまで株式市場を引っ張ってきた半導体関連銘柄の業績ピークアウト。こうした現状を踏まえ、秋以降の株式市場は荒れる可能性があると見ています。
今秋は国内外で政治リスクが高まる
国内の注目ポイントはありますか?
エミンさん 今秋の総選挙に注目です。選挙に向けて何らかの刺激策がなされ、プラスに働くこともあるでしょう。一方で、コロナ禍で国民の不満が高まっていることも事実です。私は日本政府のパンデミック対応は悪くなく、むしろ良いほうだと思っていますが、1年半以上続くコロナ疲れの矛先は政府に向かわざるを得ません。
これは日本に限らず、フランスやドイツ、イギリスなどいろいろな国で政権交代が起こる可能性があります。実際、アメリカでは昨年政権交代がありました。パンデミックがなければトランプが間違いなく勝っていたでしょう。
政権交代は、アベノミクスが始まったときのようにポジティブに受け止められることもあります。一方で、政権の弱体化をマーケットは嫌います。政治が不安定になると政策の見通しも立ちにくくなるためです。政権交代が起こらずとも、自民党が議席数を大幅に減らすようなことになれば注意が必要でしょう。