豊かな人生とは何をもって言うか、その指標はお金だけでしょうか? ビジネスを成功させた人に聞くと「人に恵まれた」エピソードが必ず語られます。コロナ禍を体験し、先が見えない世の中だからこそ「人と繋がる」ことの大切さが身に沁みます。“人”という字が支え合っているように、人と出会って何を学んでいくかは、人生において大切な自己投資になります。この連載では、専門知識や経験に秀でたスペシャリストの視点で、豊かな生き方の極意を語ってもらいます。第21回は異世代のチームビルディングで、新たな世界を切り拓こうと実践している大学生・石塚玲央さんにお話を伺いました。(聞き手=さらだたまこ)

石塚玲央さんの写真

石塚 玲央(いしづか れお)さん
明治大学情報コミュニケーション学部4年生

「違いがあるからこそこの世界はオモシロイ」をコンセプトに、様々な創作活動に携わっている。自らクラウドファンディングで資金を集め11月に処女作の絵本『なぜかみんなデベソである』を上梓する。12月2日を「デベソ」の日として2027年に起業する予定。現在、ベテラン俳優・嵐圭史さんの活動をデジタルとSNSで培ったスキルでサポート中。

ミレニアル世代とガラパゴス世代の邂逅

前回の連載でミレニアム世代がエンタメ市場にイノベーションをもたらすというお話をお伝えしましたが、今回は、デジタルやSNSを駆使するミレニアム世代が、超アナログでガラパゴス世代のエンタメシーンにイノベーションをもたらすというひとつのケーススタディを紹介したいと思います。

誰もがスターに! 無名な消費者がエンタメを変える

それは、ベテラン俳優・嵐圭史さんと大学生・石塚玲央さんとの出会いがもたらした新しい展開です。

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俳優・嵐圭史さんは1940年東京生まれ。歌舞伎俳優の家に生まれ育ち、俳優座養成所を経て1959年前進座入座。看板俳優として活躍し、紀伊国屋演劇賞、芸術選奨文部科学大臣賞などを受賞多数しているベテランの俳優さんです。舞台だけでなく、映画や大河ドラマテをはじめとしたテレビの時代劇にも数多く出演しています。

嵐圭史さんの写真
嵐圭史さん

一方の石塚玲央さんは大学生。「2年間の休学期間があって、実質6年経ったのですが、卒業はしますよ」と、わりと悠然と構えています。将来に関しては、ゆくゆくは起業を考えていて、就活などもしないで、今はこれまでに培った人脈を通じて、クリエイティブな活動をしています。

そんな中で、嵐圭史さんと出会ったのです。
「嵐さんは82歳。インターネットなどとは無縁の生活で、スマホは持っているけど、携帯電話として使うだけ。受信したショートメールは開いて読めるけど、自分から送るとなると、文字を打ちこむだけで30分くらいは悪戦苦闘すると聞きました。そんな嵐さんも、時代に抗えず、そして、今は、個人事務所を構えて活動しているので、一人でも多くの人に知ってもらうために、SNSなどを活用していきたいと考えていらしたようです。で、誰か手伝ってくれる若い人を探していて、人づてに紹介されたのがきっかけです。一方の僕は、時代劇とか昔ながらの商業演劇などには全くうとくて。当然嵐さんのことも知らなくて」と石塚さんは言います。

80代のベテラン俳優と20代の大学生……。
「接点は皆無に近かったけど、“違いがあるからこそこの世界はオモシロイ”というコンセプトに生きているから」と、石塚さんは嵐圭史という役者さんの世界を一から知ろうと探求を始めます。
「超アナログなのは僕のじっちゃん、ばっちゃんと同じ。でも、嵐さんにお会いしてみたら、すごく前向きで、新しいことに意欲的で、しかも、僕の話にちゃんと耳を傾けてくれて……僕もお役に立ちたいと思いました」

既成概念を打ち破る異世代の化学反応

それから間もなく、嵐さんはこの9月にInstagramFacebookを開設します。
FacebookにはLive配信の機能があって、アカウントがあれば誰でも動画を生配信できます。

9月のある朝、Facebookで嵐さんと石塚さんが画面越しに対談する様子が生配信されました。
筆者も、その配信をリアルタイムで聴いてみましたが、すごいことができる時代になったものだと、唸ってしまいました。
おしゃべりのプロではない大学生が、ベテラン俳優の嵐さん相手に、ものおじひとつせず、堂々としたインタビューぶり。

石塚さんは手慣れた理由を「コロナになってから、リモートでおしゃべりする機会が増えて、Live配信もその延長にある感覚」だといいます。
「SNSで知り合った見ず知らずの人でも、タイムラインで互いにコメントしあって、ある程度親しくなってきたら、今度リモートで話しますかってことになって、リアルでは会ったことのない人とでも、話は結構弾むんですよね」と。

なるほど!
筆者はラジオの深夜放送で育った昭和ど真ん中世代。
電波に自分の声を乗せておしゃべりするなんて、夢の憧れでした。
ラジオに出演するのは、選ばれし一部の人だけ。
そのためにアナウンサー養成学校に通って、いくつものオーディションを受けてようやくラジオに出演できた……という経験をしています。

なので、メディアは違っても、不特定多数の人が見聴きする配信も放送も同じで、構えてしまいます。
まして、ベテランの俳優さんがゲストで、インタビューするとさらに肩に力が入ってしまうものです。

でも、SNSを駆使できるミレニアム世代なら、配信も普段感覚なんでしょうね。
前回の連載で話題になった「誰もがネクストアーティストになる時代へ」というのをまさに実感した次第です。

異世代であっても円滑なコミュニケーションがはかれるのは、石塚さんが大学でコミュニケーション学を専攻していることもあるだろうけど、嵐さんと出会った時点ではうとかったという「時代劇」や「商業演劇」などについても、その後関心を高めて、勉強したことがうかがえるインタビュー内容であったり、また未知なる世界を知ろうという探求力がしっかり表れていて、異色の対談に違和感を覚えなかったのだと思います。

一方の嵐さんも、初ライブ配信に備えて、事前に石塚さんと何度も練習をしてから本番に臨んだといいます。
「嵐さんも、新しいことが学べて楽しいと喜んでくださり、とても嬉しいです」
と石塚さんもライブ配信が無事終わり、「嵐さんの往年のファンという方からの反応もあって嬉しかった」と安堵していました。

嵐圭史さんのデジタルデビュー記念日
嵐圭史さん事務所のスタッフのみなさんと記念すべきデジタルデビューミーティング

アナログ世代のポテンシャルを高める貪欲なチャレンジ

SNSデビューを果たした嵐圭史さんに、石塚さんはさらなる提案をしました。
それはクラウドファンディング

「ネットに疎い世代には、クラウドファンディングという言葉もまだなじみがない。そして仕組みもわからない。でも、もともと多くのファンに支えられているベテランのアーティストのみなさんにとって、クラウドファンディングを使いこなせば鬼に金棒じゃないですか?」と石塚さん。

筆者もそう思うことが多いのです。
ベテランで、テレビでもおなじみの芸能人……なのにSNSをやっていない。舞台公演やライブのお知らせはフライヤーと手書きの手紙のコピーで封書の宛名書きも手書き……。
何かネットで情報を得ようとしても本人発信のものが皆無で、しかも、コロナ禍になってイベントの集客に苦労をしてるという話は決して珍しくないのです。

嵐圭史さんもコロナ禍では、なかなか幕を開けられずにジレンマを覚えた経験をしていたそうです。

そこで、石塚さんはこの秋に上演される芝居に向けてクラウドファンディングを提案したといいます。
「クラウドファンディングというとピンと来ないでしょうが、チケット先行予約に、いろいろ特典をつけたもので、さらに今回都合が悪くてチケットは買えないけど特典は欲しいとか、単に応援したいとかいろんなプランのある予約だと説明したら、わかりやすかったみたいです」

実は石塚さんは、自身でもクラウドファンディングで処女作の絵本を上梓することを実現している最中(この秋に発売になる!)なので、その経験があるから嵐さんも納得したのだといいます。

「もちろん、嵐さんにとって初めての試みなので、どれくらいの成果があるかは未知数ですが、ファンのみなさんにも喜んでもらえて、そして、舞台製作の経費をその分かけることができたらWin-Winですよね」と。

ミレニアム世代の申し子が、アナログ世代のポテンシャルを高めることはいろんな切り口があると思います。

そして、何よりも「人生の大先輩に、自分一人では絶対学べないことを教えてもらえるのがこの出会いの最大の魅力」だと石塚さんも実感しています。

「今どきの若者は……」とか「年寄りには話が通じない」という既成概念を一度取っ払って、異世代のチームビルディングが何ができるか?
それは大きなイノベーションのヒントになると期待しています。

ジェネレーションギャップがイノベーションを生み出す
異世代の感性の違いこそ、新しい創造を生み出す!

【石塚 玲央さんの絵本が発売】

『なぜかみんなデベソである』表紙

自らクラウドファンディングを行って資金を集め、出版する処女作
の絵本『なぜかみんなデベソである』(2022年11月3日発売予定)
詳細は「れおっちのブログ」で

【嵐圭史さんの公演情報】

瀬戸内寂聴生誕100年記念 瀬戸内寂聴原作(「秘花」より)『世阿弥』

〇大阪―国立文楽劇場にて
2022年10月29日(土)昼の部:14:00-/夜の部:18:30-
2022年10月30日(日)昼の部:14:00-
〇東京―国立劇場小劇場にて
2022年11月3日(木)昼の部:14:00-
2022年11月4日(金)昼の部:14:00-/夜の部:18:30-
2022年11月5日(土)昼の部:13:30-
〇京都―呉竹文化センターにて
2022年11月18日(金)夜の部:18:30-
2022年11月19日(土)昼の部:14:00-
〇名古屋―青少年センターにて
2022年11月21日(月)昼の部:14:00-/夜の部:18:30-

詳細はこちらから
主催:(株)圭史企画 070-8497-4348

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