環境(E)や社会(S)、企業統治(G)を重視して銘柄選択するESG投資への注目度が世界的に高まっています。ESGをきっかけに資産形成に関心が向かう投資初心者や未経験者もいるようです。東京証券取引所が運営するサイト「東証マネ部!」の編集責任者である永井庸介さんにESG投資の現状や、実践する手段などについて教えていただきます。
- 世界のESG投資残高は巨額で、日本では個人からの資金流入も増えている
- ESG関連商品には投資信託やETFがあり、それぞれにメリット・デメリットがある
- 商品を検討する際には、中身や実績、リスクをよく確認し総合的に判断する
ESGへの関心が高まりつつある
7月下旬に複数のメディアが、「世界のESG投資額35兆ドル 2年で15%増」と報じました。これは世界持続可能投資連合「Global Sustainable Investment Alliance (GSIA)」が、2年に1回、調査・公表しているESG投資額に関する統計報告書の最新版、「GLOBAL SUSTAINABLE INVESTMENT REVIEW 2020」を公表したことを受けてメディアが取り上げたもので、世界でESG投資が引き続き拡大していることが改めて明らかになりました。
筆者は「東証マネ部!」サイト の運営やETFの個人投資家マーケティングの業務を通じて実際に個人の方と接する機会も多いのですが、近年、日本の個人の間でもESGの認知度が向上しており、加えて、「ESGをきっかけに資産形成に関心が向かう」という、従来には見られなかった新しい潮流が生まれつつあることも実感しています。
特に2019年末以降のコロナ禍をきっかけに、人々の間で、社会問題や環境課題を「自分ごと化」するという意識の変化が見られ、こうした変化も背景に、投資の未経験者あるいは初心者から、「ESGという観点があるならば、投資を始めることを真剣に検討してみてもよいかもしれない」という声が、セミナー等においても確認できるようになりました。
このような新たなトレンドは、日本の社会課題である、人生100年時代における資産形成・管理の解決のヒントになり得るとも捉えていますが、同時に注意を払うべき点として、投資の初心者が「ESG」をほとんど理解しないままESG投資に飛びつくことは健全な行動ではありません。
そこで本稿では、GSIAがレポートを公開したこのタイミングで、「ESG投資の現状」「ESGの投資手法・考え方があるか」という基礎知識について理解を深めていただき、ESG投資を個人が実践する場合の商品の選択肢にどのような種類があるのか、筆者が担当しているETFの分野を含めて解説していくこととします。
ESG投資の現状
「ESGの概念」については、既に当サイト内の記事【最近よく聞く「ESG投資」、デメリットはないの?】にて、解説されているため、そちらを参照いただくこととし、まずは7月に公表された「GLOBAL SUSTAINABLE INVESTMENT REVIEW 2020」に掲載されているESG投資額の最新データから現状を見ていきましょう。
2020年(2019年末時点)の世界全体のESG投資額は、前回調査した2018年比で15%増の35.3兆ドル、日本円で約3800兆円となりました。3800兆円という額の大きさは、想像することすら難しいほどですが、東京証券取引所市場第一部全体の時価総額が約700兆円であることを踏まえると、世界のESG投資残高がいかに巨額で無視できない規模まで成長しているか理解できるかと思います。
次にESG投資額の動向をエリア別に分解してみると、アメリカで前回比42%増の17.1兆ドル、日本が32%増の2.9兆ドルと順調に伸びた一方、欧州においては15%減の12兆ドルという結果になっています。欧州の減少は、2021年3月に執行されたEUのサステナビリティ情報開示規則(SFDR)により、実態を伴わないESG投資「グリーンウォッシュ」を防ぐルールが整備されることを見据え、「名ばかり」のESG投資の排除が進んだことが影響したとみられます。これにより、世界全体のESG投資の増加率はやや減速したように見えますが、ESG投資全体の規模は引き続き拡大傾向と言えます。
こうした世界のESG投資の拡大は、主には機関投資家がESG投資に向かう動きを反映したものと考えられ、日本でも同様に機関投資家の動きが目立ちますが、コロナ禍以降、日本の個人投資家の間でも、社会課題への意識の高まりと相まって、ESG投資に限定的ながら個人の買いが入っていると考えられ、実際にESGの投資信託の販売が、従来と比べて幅広い層へ広がっているという声も聞かれています。