ESG投資の手法

さて、一括りにESG投資と言っても、その投資手法にはいくつかのタイプがあり、具体的にはGSIAが下表の7つに分類しています。

【図表】ESG投資の手法
ESG投資の手法
『ESG情報開示実践ハンドブック(日本取引所グループ)』より

直近の調査結果で投資残高が最大になり、最も広く普及しつつある手法が「4. ESGインテグレーション」です。企業価値の判断やポートフォリオを構築する際に、「財務情報」に加えてESG要素を考慮し、総合的に投資先を判断するという手法ですが、どのESG要素をどのように活用するのかについて幅があり、自由度が高い手法とも言われます。

次いで残高の規模が大きいのが「1. ネガティブ・スクリーニング」で、年金基金などの機関投資家が「非人道的兵器に関わっている銘柄には投資をしない」とするケースなどは典型的なネガティブ・スクリーニングであり、イメージしやすいかと思います。

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その他、規模はまだ大きくないものの、個人が想像しやすいのは「5. サステナビリティテーマ投資」でしょうか。気候変動に関する「クリーン・エネルギー」や「水」などをテーマに、関連する企業の株式や債券に限定した投資を行う手法を指し、直近の調査結果ではその投資額が大きく伸びました。ESG投資と一括りに言っても、このように様々な手法があることをまずは理解しておきましょう。

ESG関連商品としてのESG-ETF

では個人がESGに関心を持った場合、ESG投資を実践するにはどのような金融商品が考えられるでしょうか。ESG関連商品には「公募の投資信託(以下、『投資信託』と表記)」「ETF」「債券」などが存在しますが、その中で個人にも比較的認知度が高いのは「投資信託」でしょう。国内のESG関連の投資信託は2010年頃から登場し始め、過去4年間ほどで急増しており、中には純資産残高が大きいものも出てきています。

現在では商品数も多く揃い、その商品特性も多種多様であるため、実際に商品を検討・選択する際の留意点としては、商品名だけで判断するのではなく、どういう観点でESGの要素を織り込んでいるか、目論見書等を見ながら確認し、自身のESGに関する考え方と合致するのか冷静な視点で考えてみることが重要です。加えて、パフォーマンスやコスト、リスク面などの要素も商品ごとに異なりますので、総合的に考慮して判断することになります。

投資信託以外には、上場商品という選択肢があります。東証にはESGに紐付く「ETF(上場投資信託)」「ETN(上場投資証券)」「インフラファンド」「グリーンボンド・ソーシャルボンド(プロ投資家向け)」などが上場しており、日本取引所グループのウェブサイトにて確認できます。近年ESG-ETFの商品ラインナップが拡大しており、下表のとおり、「E」「S」「G」それぞれのテーマを個別に、又は総合的に考慮した指数に連動するETFがありますが、それ以外にも一般の指数に連動しながらESGのスクリーニングをかけた商品も上場しています。

【図表】ESGに紐付く東証ETFラインアップ
ESGに紐付く東証ETFラインアップ
JPXサイトより筆者作成、ESGのスクリーニングをかけた商品も含めて表示

ここには記載していませんが、東証ではなく海外の取引所に上場するESG-ETFも存在しています。このようにESG-ETFは多くの種類があるため、商品選択の際には投資信託と同様、単に「ESG関連だから」という理由で飛びつくのではなく、ESGの中で自分は何を重視するのか、特定のESGテーマなのか総合型なのか、あるいはESGのスクリーニングをかけた商品を使うのか、慎重に検討する必要があります。

ESG投資の選択肢として、ETFと投資信託を紹介しましたが、その特性はそれぞれ異なります。ETFが優位な点としては、「信託報酬(運用コスト)が投資信託に比べて安く」、「投資信託が1日1回しか値段が付かない一方で、ETFは株式と同様、取引時間中はリアルタイムに市場価格で取引できる」ことです。こうした使い勝手の良さを背景に、ETFは世界中で利用が進んでおり、調査会社のETFGIによると、ETP(ETF、ETN、ETCなどの総称)の残高は、2021年5月末で9.2兆ドル(約1,000兆円)まで拡大しています。

ただし、ETFがあらゆる場面で万能かというとそうではなく、「積立投資のしやすさ」や「商品ラインナップ数の多さ」という観点では、現状、日本ではETFよりも投資信託の方が使い易く優れており、こうした点を重視する場合には投資信託が有力な選択肢となるでしょう。

ESG投資のパフォーマンスは?

最後にESGのパフォーマンスについて少し触れておきます。ESGの評価と株価パフォーマンスの関係性については、これまで様々な研究がなされてきましたが、その結論については、必ずしも合意形成がなされているとは言えないのが現状です。

ESGパフォーマンスのイメージ
ESG評価と株価のパフォーマンスの関係性についての結論は、まだ出ていない

国内のESG投資をリードするGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が選定するESG指数のうち、「MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数」、「FTSE Blossom Japan Index」等については、2017年4月から2021年3月までの年換算のリターンではTOPIXをアウトパフォームするデータは出ているものの、これは過去の短期間のデータであり将来的にそうなるという保証はなく、また、そもそもESG投資のパフォーマンスには長期の検証・モニタリングが必要です。さらに、ESG投資と一括りに言っても、その手法や商品性は多種多様であり、連動する指数によっては逆の結果になっているケースもあることには注意が必要です。

ここまで述べてきたように、近年ETFや投資信託等でESG商品のラインナップが拡充するなど、個人にもESG投資が実践しやすい環境が整いつつあります。ESG投資の有効性については引き続き、検証が進んでいくことになりますが、コロナ禍以降、サステナブルな社会の実現に向けた動きが加速する中で、人々のESGへの意識も高まり、それが資産形成の関心にも繋がるという一連の流れは一過性のトレンドではなく、世界の標準的なトレンドになりつつあると考えられます。

その際に皆様がもしESG投資を実践しようと考えた場合には、繰り返しになりますが、「ESG」と名がつけばどの商品でもいいと飛びつくのではなく、ESGに関する最低限の知識を理解し、自身のESGの考えに合った商品がどれなのか慎重に検討したうえで、パフォーマンスやリスク面等も踏まえて総合的に判断することが重要です。その点を十分に念頭に置きながら、今後のESG投資の動向に着目してみてください。

※本記事は、情報提供のみを目的としたものであり、特定商品、ファンドへの投資勧誘を目的としたものではありません。投資に関する最終決定は、ご自身の判断でなされるようにお願いします。なお、本稿中、意見に関わる部分については筆者個人の見解によるものであり、筆者が所属する東京証券取引所の公式見解を示すものではないことをお断りしておきます。

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