「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回も、前回に引き続きJ-REITの考察。首都圏以外の不動産に投資するREITについて考えてみます。

  • 首都圏以外の限られた地域の不動産に特化して投資するJ-REITがある
  • 『福岡リート』に投資するのは、福岡が「伸びる地域」と考えるから
  • 首都圏の地震リスクに備えるための、地域特化型REITという選択肢

もし、首都圏で巨大な地震が起きたら……

不動産投資というと、収益性という点では、やはり首都圏でしょう。ですので、前稿でご説明したJ-REIT(Jリート)が保有する物件の多くが、一説には7割以上が、首都圏に集中していると聞いたことがあります。

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ところで1か月ほど前の10月7日、首都圏を大きな地震が襲いました。特に、首都圏の鉄道網は、地震の当日のみならず、翌日まで大きな影響が続きました。地震による鉄道網の混乱は東日本大震災以来のこととして注目されるとともに、首都圏の脆弱性が再び露わにされました。

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言うまでもなく、首都圏は人口が集中し、企業の本社も集中する街でもあります。もし、首都圏で巨大な地震が発生したら、日本の経済、そして不動産は、どのような影響が起きるのでしょうか?

筆者も東京に住み、東京で仕事をしています。時々、仕事やレジャーで地方に出掛けることもありますが、生活と仕事の基盤は東京です。首都圏での大きな地震は最悪、その基盤が奪われてしまうことも考えられます。

できるか?……J-REITによる国内資産の「地理的分散」

J-REITの中には「地域特化型REIT」と言われる、「限られた地域のみの物件を保有している」REITがあります。

筆者は地域特化型REITの一つ『福岡リート投資法人』に投資しています。福岡リートは文字通り、福岡を中心に九州地方に多数の物件を保有していますが、「首都圏の物件」を保有していません。ですので、首都圏で大きな地震が起きたとしても、福岡リートの建物に被害が及ぶ可能性は低いと考えています。
首都圏での大きな地震による被害を想定しての、いわばJ-REITによる国内資産の「地理的分散」です。

福岡市
J-REITの中には首都圏の不動産に投資せず、福岡市を中心に九州地方の物件を保有する『福岡リート投資法人』のような銘柄もある

もちろん、首都圏で大きな地震が起きれば、首都圏も福岡も、日本全体が経済的に大きな損失を被るでしょう。
しかし、経済の復興は地震による被害が少ない地域から始まるのではないか……。
もし、この考えが正しいのならば、首都圏から遠く離れた福岡から日本経済の復興が始まる、と筆者は判断しています。

J-REITによる国内資産の「地理的分散」は、J-REITを株式などに対する「保険」として活用するイメージです。果たして、この判断が妥当か否かは、首都圏が大きな地震に襲われてみて実証されることになりますが……そうならないことを祈っています。

さて、保険のようなイメージというだけで福岡リートに投資したわけではありません。

首都圏以外の都市で、福岡は「伸びる地域」なのでは?

僭越ながら、首都圏以外の大都市で「伸びる地域」は福岡だと思っています。

福岡は何といっても、空港が街のど真ん中にあります。山陽新幹線と九州新幹線が乗り入れている博多駅から、福岡空港駅までは地下鉄でわずかに2駅です。
そして、福岡から韓国までは何と船で日帰りできるそうですし、中国や台湾、沖縄なども近いです。加えて、東京はもちろん、日本の標準子午線(兵庫県明石市)から、はるかに西に位置しますから、日没が遅く、午後の日照時間が長いです。日照時間が長いということは、福岡は昼間の経済活動には有利なのではないでしょうか?

さて、福岡の地理的な魅力に惹かれたとしても、個人の裁量で福岡の不動産に投資するのは、金額的なことも含めて、なかなかに勇気が必要です。福岡は東京に比べて地価が安い傾向にあるとはいっても、不動産投資には、やはり数百万円から数千万円の巨額な金額が必要ではないでしょうか?

そこで、REITが選択肢に入ってきます。たとえば、福岡リートなら現在、1口当たり15万~20万円で投資することが可能です(ちなみにJ-REITは1口以上、1口単位で投資することができます)。しかも、福岡リートは博多駅の近くにある代表的な商業施設やオフィスビルなどを保有しています。

【図表1】福岡リート投資法人のポートフォリオ(保有物件数)
地域 商業施設 オフィス その他
福岡都市圏 5 10 7
九州(福岡除く) 6 0 4

「その他」の物件は物流施設やホテル、賃貸マンションなど。データは2021年10月25日現在

やはり数は少ない……首都圏を含まない地域特化型REIT

地価はもちろん、人口や企業、つまり日本の経済は首都圏に集中していますからね。そうした事情もあり、首都圏の物件を保有していないJ-REITは多くはありません。ですが、筆者のような「地震リスクのヘッジ」として、あえて首都圏以外のJ-REITを望まれる方もいらっしゃるのではないでしょうか? 本稿で述べた福岡リートの他の地域特化型REITは、『東海道リート投資法人』くらいなのではないでしょうか?

静岡や愛知を中心にした東海も「伸びる地域」を感じますよね。首都圏と関西圏に挟まれた静岡と愛知の両県には、あわせて9つの新幹線の駅があります。新幹線の車窓から見える富士山も美しいですが、工場や住宅もまた、途切れることなく続いています。まさに「伸びる地域」を印象付ける風景です。

まとめに代えて

さて、本稿では筆者が持っている福岡リートをべた褒めしています。が、現実は筆者が投資して以来、福岡リートの投資口価格はずっと投資元本を下回ったままです。しかし、株式に比べると、一般的にJ-REITは配当利回りが高いので、気長に回収しようと思っています。

また、福岡をはじめ、九州にも地震がないわけではなく、過去には福岡や熊本で大きな地震がありました。そして、台風などの暴風雨による被害は、首都圏のそれよりもリスクが高いと思われます。

そして、実は「REITならではの弱点」もあります。ですので、その弱点ゆえ、実はREITの買い増しをためらってもいます。

投資はあくまでも自己責任です。J-REITは不動産などの実物資産への投資でもあります。せめて、物件の外観を確かめに行ったり、それが無理なら、J-REITのホームページから、保有する物件の詳細を確認なさってから、投資の是非を判断するようにしましょう。

【図表2】福岡リート投資法人の投資口価格の推移
福岡リート投資法人の投資口価格の推移
2015年1月~2021年9月、月足
【図表3】家計地震保険の保険料率(イ構造、保険期間1年、保険金額1000円につき。単位:円)
地域 都道府県 基本料率
首都圏 埼玉県 2.04
千葉県 2.75
東京都 2.75
神奈川県 2.75
九州地方 福岡県 0.74
佐賀県 0.74
熊本県 0.74
大分県 1.18

※イ構造……耐火建築物、準耐火建築物および省令準耐火建物等
出所:損害保険料率算出機構「地震保険基準料率のあらまし」(2021年1月)

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