テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず! 
連載第46回は、食通としても知られる放送作家のすずきBさん。

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憧れのテレビ業界はバブリーだった

すずきB さんの写真
すずきB
放送作家
日本放送作家協会会員

僕がやっと台本を書けるようになった駆け出し放送作家の頃、お世話になっている番組の経理のお姉さんに会った時こう言われた。「すずきBさんってあなたなの? そんなにたくさん食べる人には見えないわね(笑)」。
当時「領収書の裏書き」といって、食事に行ったメンバーを書いて出すルールがあった。僕はその番組の一番下っ端の作家だったので、あらゆるスタッフが「すずきBと台本打ち合わせ」と僕の名前を勝手に裏書きし、食事しながら打ち合わせしたことにされていた(笑)。

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そう、当時はそれらしい裏書きさえあれば領収書の食事代が平気で落ちる、いい時代だった。お姉さん曰く、焼肉や中華や居酒屋など、一晩で7軒ぐらいすずきBが食事に行ったことになっていて、「ものすごく重宝されてる作家さんか、ものすごく食いしん坊な作家さんなのね」と思ってたらしい。ま、昔から食いしん坊な作家ではあったのだが。

居酒屋はしごのイメージ画像
焼肉や中華や居酒屋など、一晩で7軒ぐらいすずきBが食事に行ったことになっていたことも

そもそも僕の業界入りは、大学2年のとき早稲田大学テレビ放送研究会というサークルで堀田延さんという先輩に出会ったことがキッカケだ。
堀田さんは、学生でありながら「ビートたけしのスポーツ大将」などの台本を既に書いていて、僕も放送作家になりたいと言ったらテレビ局に連れてってくれ、「さんまのナンでもダービー」というこれから立ち上げる特番の会議に参加させてくれた。

最初はリサーチ兼ADからのスタートで、小汚い池に潜ったり過酷な仕事もさせられたのだが、学生バイトの分際で、毎晩のように「叙々苑」の焼肉や「香妃園」の中華をご馳走になって六本木のキャバクラで朝まで飲ませていただいた上、タクシーチケットを束でもらえて乗り放題だった。

「ウンナンの炎のチャレンジャー これができたら100万円」という番組を手伝わせてもらっていたときの番組スタッフ忘年会では、海外旅行や最新家電など豪華商品がアホみたいに飛び交うビンゴ大会が終わると、さらに番組タイトルにちなんで、勝てば100万円の現金がもらえるジャンケン大会が始まったり(確か大道具さんが持って帰った)、番組最高視聴率(21%だったかな)を更新すると、スタッフへのご褒美で、今じゃ絶対ありえない夢のような別世界で超バブルな食事会を用意していただけた。

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「ギャラあと出し」というテレビ業界の悪しき慣習

テレビに予算と勢いと夢があった時代、我々も番組に関わってること自体が幸せで、取材される側の飲食店もテレビに出れば有名になって繁盛する憧れのメディアみたいなところもあった。「ギャラなんて要らないです」という料理人も実際多かったし「ギャラあと出し」にキレる人は周囲にはいなかった

ただ一般的に、ギャラは「こんな仕事をこんな予算感でお願いします」と先に出して発注するのが普通のように思うが、テレビの場合、仕事を終えたオンエア後に伝えられる。それに慣れてしまっているので気にせず僕も30年近く過ごしているのだが、最近、ある有名シェフの出演交渉を託され(注:食いしん坊作家はそんな仕事も頼まれます)、いつものようにギャラ未定状態でお願いするとハッキリこう言われた。

今テレビに出ることって、料理人にとってリスクしかないんですよね。すぐネットで書かれて炎上するし、拘束時間もけっこう取られる。なのにギャラがいくらか分からない状態で出演を引き受けるかどうか判断しなきゃいけないって……、テレビってなんか変ですよね? え、Bさんもギャラあと出しでずっと仕事してきたんですか? びっくりです。Bさんが、ぜひテレビ業界の悪しき慣習を変えてください」と。

テレビ番組撮影のイメージ画像
テレビに予算と勢いと夢があった時代、番組に関わっていること自体が幸せだった

その昔、出演していただくお店や店主に対し、「宣伝費0円でテレビに出してあげるんだから」的な、上から目線を持つスタッフが一部存在したのは確かかもしれない。我々、放送作家にしても「番組に関わらせていただいて光栄です、ギャラはお任せします」という姿勢で構えるのが当たり前で、仕事のオファーが来たとき「先にギャラを教えてください」なんて言った日には、「あいつはカネにうるさい面倒な作家だから」と干されかねない。

ギャラあと出しのみならず、番組がいつ終わるのか、自分がいつクビになるのか、いつレギュラー0本になって収入0円になるのか、全く先が見えないのが放送作家

しかしながら振り返ってみて思う。そんなこと気にしないで、“テレビに関われている幸せ”がそこにあるから、僕も何とかこの仕事を続けてこれたんだなと。田舎の親戚や両親や高校の同級生から「あの番組、見てるよ、すずきBって出てたね」と言ってもらえるのは、やっぱり昔も今もテレビなのである。

だから、すいません、僕などがテレビ業界の悪しき慣習を変えられそうにありません! これから放送作家を目指す皆さん、どうかそこだけはご理解のほど。

次回は、エッセイスト・放送作家のさらだたまこさんへ、バトンタッチ!

是非、ご覧ください!

12月28日(火)22時から日本テレビで、ウッチャンナンチャン司会の「ウンナンのニッポン全国大表彰! 国民的オブザイヤー2021」という特番が放送されます。ぜひご覧ください。

勝俣州和さんのYouTubeをお手伝いしてます。ラーメンをイチから作る動画や芸能界ケンカ最強伝説などオススメです。ぜひ観てください。
YouTube「勝俣かっちゃんねる

インスタグラムで食日記を書いてます
@suzukibbb

すずきB公式サイト
http://www.suzukib.net/

一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。

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