「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回はJ-REIT(Jリート)や不動産を経営する側の視点に立って、「REITの資金調達」について考えてみます。

  • REITは配当性向の高い投資商品であり、内部留保が少ないのが特徴
  • REITの資金調達手段は債券と融資のため、金利の影響を受けやすい傾向
  • 内部留保が少ないREITは金融危機の影響を受けやすい

新型コロナ感染症が落ち着きを見せているようです。オミクロン株も深刻ではない旨、報道されていますが、街に出ると、マスクをしていない人もチラホラ見かけます。油断はできませんね。

ところで、本稿では、いつもの投資家の目線とは逆に、「資金調達」という視点で、REITを考えてみたいと思います。

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以下、REITが資金調達するのがどういうことかを、フィクションを例に見ていきます。

信用力の高い企業による大型出店

商業施設を運営しているAという会社は、郊外の広大な敷地を購入し、これまた広大なお店を作ることを考えました。そこで、A社は自らの信用力を活かし、複数の金融機関から多額の資金の借り入れを起こすことに成功しました。

借り入れた資金によって、広大な敷地を購入し、描いた絵図の通り、巨大なお店を作り、開店準備が進められています。地元自治体からは、大きな駐車場を擁するこのお店が地域のランドマークとなることを期待されていました。

建設中
A社は自らお金を借りて土地を買い、ビルを建設し、広大な商業施設のオープンを目指した(写真はイメージです)

大型出店に伴うA社のいくつもの課題

しかし、そんな華やかさとは裏腹に、A社には、いくつもの課題が浮上してきました。
課題の一つ目は、多額の借り入れを起こしたため、A社のバランスシート(貸借対照表)は、いわゆる他人資本がふくらみ、自己資本比率が著しく低下してしまいました。

トラリピインタビュー

会社の自己資本比率って、気にしたことありますか?

加えて、いかに今が低金利とは言っても、借り入れの額が大きければ、毎年、多額の利子を払わなくてはなりません。中には変動金利で借りてしまった金融機関もあるようですので、将来の金利の上昇というリスクも心配です。

さらに、広大な敷地は、将来、地価が下がった時に、その差額を損失として計上しなければならないリスクがあります。逆に、地価が上がれば、担保としての価値が上がり、さらなる資金調達の可能性が広がりますが、同時に固定資産税などの租税公課も増えることになります。
そして何といっても、巨大なお店は減価償却費、つまり「現金の支払いのない経費」を毎年計上しなくてはなりません。

そもそも巨大な建物をA社が店舗として経営したとしても、売上が振るわないかもしれません。しかし、A社自らが所有している以上、お店の撤退の判断が鈍ってしまい、赤字を垂れ流し続けることになるかもしれません。そして、もし土地や建物が担保に入っていて、A社自らお店を経営することが借り入れのそもそもの条件になってしまっていては、A社は撤退という判断すらできません。

A社がREITを活用すると

そこでA社は、自らの社名を冠したREIT(A-REIT)を起ち上げることにしました。

まず、購入した広大な敷地と建てたお店を、丸ごと、そっくりA-REITに売却します。

この売却によって、多額の借り入れを全額返済することができ、低下した自己資本比率を回復。同時に利払いや金利上昇のリスクから解放されました。
そして、A社は将来の地価下落の心配も、固定資産税などの租税公課が増える可能性もなくなり、さらに現金を伴わない経費、すなわち毎年の減価償却も不要となりました。

【図表】土地とお店を売却して、A社は自己資本比率が回復
REITのバランスシート

そもそもREITは資金を集めるための器ではあることは、別稿に記した通りです。

証券取引所で夢の大家さんに? J-REITとは

その一方で、A社は、今度はA-REITのテナント(=店子)として入居し、家賃を払うことになります。
売上などによって家賃の額が変動する契約にしておけば、売上が伸びなくても、少しは安心できます。また、A社自らが所有するお店ではなくなりましたので、お店の経営が上手くいかなくても、違約金を払って撤退することもできます。もちろん、A社の撤退や違約金などはA社とA-REITとの契約しだいです。
A社の撤退後は、A-REITの方でA社以外の新しいテナントを募れば、A-REITも新たな家賃収入を得ることができます。

「どこかで、似たような話を聞いたことがあるかも?」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、筆者が考えたフィクションですよ。

まとめに代えて

全てのREITが、本稿に書いた筆者のフィクション通りということではありません。本稿では、いつもの投資家とは立場を逆にして、REITの側の視点に立って書いてみました。

株式会社が発行する株式も、REITが発行する投資口も、ともに自社の資金調達のために発行します。決して、株主や投資主のために発行するわけではありませんし、株主や投資主はお客様ではなく、出資者にしか過ぎません。

株式会社もREITも、「事業を始めるため」、また「事業を拡大するため」に資金調達を行います。「事業の拡大(=REITの場合は新しい物件の獲得)」は企業やREITの成長につながり、そして企業やREITの成長は、長期的には株価に反映していきます。

投資家として、企業やREITの成長に欠かせない資金調達の方法を知っておいて損はないと思います。

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