認知症の高齢者は日本で増加傾向にあり、2025年には高齢者の約5人に1人が認知症になるとも予測されています。認知症の人が日常生活を送る中で、事故に巻き込まれてしまうだけでなく、事故を起こしてしまうこともあるかもしれません。そうしたケースに備えられるよう、各自治体が高齢者向けの事業を開始しています。
- 認知症患者が思わぬ事故を起こした場合、家族が損害賠償請求される可能性がある
- 認知症患者とその家族を守る「認知症高齢者等個人賠償責任保険事業」
- 自治体が契約者、住民が被保険者として保険契約を結ぶ仕組み
認知症高齢者による事故で家族が賠償請求を受ける場合も
認知症の人の中には徘徊などの症状が出ることがあり、それにより思わぬ事故を起こしてしまうこともあります。そうすると、家族が監督責任者として賠償を求められる可能性があるのです。
例として挙げられるのが、2007年に愛知県で起きた事故です。認知症の男性が線路に立ち入り、電車にはねられて亡くなってしまった事故では、鉄道会社が遺族へ損害賠償請求を行っています(請求はのちに棄却) 。
こうしたケースが発生したことをきっかけに、認知症の人とその家族を守るための取り組みとして、各地の自治体で「認知症高齢者等個人賠償責任保険事業」が開始されています。
自治体が主体となり認知症高齢者等個人賠償責任保険事業を開始
認知症高齢者等個人賠償責任保険事業は、認知症と診断された住民を対象とした事業です。自治体が保険契約者、住民が被保険者として保険契約を行う仕組みです。2017年、全国で初めて神奈川県大和市が事業を開始して以来、多くの自治体が導入し始めています。受けられる補償内容としては、民間の損害保険会社が取り扱う個人賠償責任保険とほぼ同様のものになっています。
【補償内容の一例】
- 誤って線路に立ち入り、振替輸送が必要な状態にさせるなど、電車の運行に支障をきたしてしまった
- 自転車で外出をしていたら歩行者にぶつかり、相手にケガをさせてしまった
- 買い物をしていたら店舗の商品を誤って破損させてしまった
※ここでは一例を挙げています。詳細な補償内容は必ず自治体のウェブサイトなどをご確認ください。
こうしたケースで認知症の人やその家族が損害賠償請求を受けた場合に、1億円・3億円・5億円などの上限額までの範囲で、その賠償額と同額の保険金を受け取れます。これに加えて、被害を受けた相手への見舞金や、死亡時の補償、示談代行サービスを備えることもあるようです。
加入できる条件は自治体ごとに異なりますが、その自治体に在住していること、医師による認知症の診断を受けていることは共通しているようです。この他に、自治体が用意している高齢者支援サービスへの登録を必須としている自治体もあります。
保険料は自治体が負担して個人での自己負担は不要な自治体もありますが、年額1,000円などの自己負担が発生する自治体や、あらかじめ住民税に1人当たり数百円分の上乗せをして積み立てを行っている自治体もあります。
高齢者を見守る独自の支援制度も併用して、生活の安心確保を
上述のように、自治体は高齢者支援サービスを用意している場合があります。
たとえば、兵庫県神戸市では「認知症の人にやさしいまちづくり条例」に基づいた「認知症神戸モデル」 を実施しています。65歳以上の市民を対象に、認知症の早期発見を図るため検診を無料または市の負担で受けられる「診断助成制度」、認知症と診断された後に外出先で事故にあった時のための「事故救済制度」の2本柱からなる制度です。後者では賠償責任保険制度の他、認知症の人が行方不明となった時にGPSで位置情報を割り出し、捜索に駆け付けるサービスなども提供しています。
認知症と診断された後、ご本人やご家族は生活様式を変えなくてはいけない場面も多いでしょう。自治体の支援制度を必要に応じて活用し、日常生活の安心を確保できれば、負担も軽減できるかもしれません。困ったことや不安なことがある場合は、お住まいの自治体窓口へ相談をしてみてくださいね。