株式投資をしていると、PERやPBRといったアルファベット3文字の用語をよく聞きます。今回取り上げるのは、「EPS(=Earnings Per Share)」です。「1株当たり純利益」を意味するEPSは、投資判断にどのように役立てることができるのでしょうか。ファイナンシャルプランナーの恩田雅之さんが解説します。

  • 株主にとっては、純利益の総額より「EPS(1株当たり純利益)」が重要
  • 「純利益」には稼ぐ力と関係ない特別利益も含まれる点に注意
  • EPSに応じて予想株価も上下する。配当の増減、継続にも影響

企業の稼ぐ力をみる指数「EPS」

米国や欧州などの中央銀行が、金融政策の正常化に向けて利上げの検討に入りました。今後、量的金融緩和などによるカネ余りを背景とする「金融相場」から、個別企業の業績が株価を左右する「業績相場」へと移行していくことが想定されます。

業績相場では、企業の成長性への期待よりも稼ぐ力を重視した投資が増えてきます。2月は決算発表が多くなる時期でもあり、今回は企業の稼ぐ力をみる指数である「EPS(1株当たり純利益)」について取り上げます

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EPS(1株当たり純利益)とは

EPS(1株当たり純利益)は、その企業の純利益を発行済み株式数で割って求めます。

EPS(1株当たり純利益)=純利益÷発行済み株式数

株主にとっては、純利益の総額より1株当たりの純利益が重要になります。発行済み株式数は企業により発行数が異なります。単純に純利益の総額を比較しても企業毎にどれくらい稼ぐ力があるかの評価が難しいので、投資家は1株当たり純利益を計算して企業比較を行います。

仮に、A社、B社とも純利益の総額が1億円とした場合、それぞれの発行済み株式数がA社100万株、B社50万株としてEPSを計算すると、A社のEPSは100円(1億円÷100万株)、B社は200円(1億円×50万株)です。投資家から見ると、1株当たりの純利益の多いB社が魅力的になります。

EPSで企業を比較する時の注意点

EPS(1株当たり純利益)で企業を比較する時は、純利益の中身と自社株買いや増資の有無について確認するようにしましょう。

純利益には稼ぐ力と関係ない利益も含まれる

純利益は「営業利益+営業外収益・営業外費用+特別利益・特別損失-法人税」で構成されます。そのため営業利益がマイナスでも特別利益などで純利益がプラスになる場合があります。特別利益は、本社ビルや工場の売却などから得られる一時的なものです。つまり、企業の稼ぐ力とは関係ない利益も含まれるということです。そのため、EPSをベースに投資先を選ぶ際は、営業利益も併せて確認しておく必要があります。

自社株買い+消却でEPSは増加する

企業が株式市場等から自社株を購入することを自社株買いといいます。購入した自社株は消却することが多くそれにより発行済み株式数が減少します。自社株の消却を行うとEPSを計算する時の分母(発行済み株式数)が小さくなり、それにより純利益が変わらなくても1株当たり純利益は増加します。

例えば、純利益1億円の会社が発行済み株式数100万株のうち10万株を自社株買いして消却すると、EPSは自社株買い前が100円(1億円÷100万株)、自社株買い後が約111円(1億円÷90万株)と1株当たり純利益は約11円増えます。

新株発行でEPSは減少する

新たに株式を発行し資金を調達することを増資といいます。新株発行による増資を行うと発行済み株式数は増えます。純利益の総額が変わらなければ1株当たり純利益は減少します。

仮に、純利益1億円、発行済み株式数100万株の会社が増資で10万株新たに株を発行した場合、増資前のEPSは100円(1億円÷100万株)、増資後は約91円(1億円÷110万株)と1株当たり純利益は約9円減ります。

EPSの増減は予想株価や配当に影響を与える

EPS(1株当たり純利益)の増減は予想株価や配当に影響を与えます。

予想株価は、EPSにPER(株価収益率)を掛けて求めることができます。PERは現在の株価が1株当たり純利益に対して何倍まで買われているかを示す指標であり、「株価÷EPS」で算出されます。例えば株価が1,000円でEPSが100円ならPERは10倍です。

予想株価=EPS(1株当たり純利益)×PER(株価収益率)

仮にPER10倍が変わらず、EPSが100円から120円に増えた場合、予想株価は、1,000円(100円×10倍)から1,200円(120円×10倍)に上昇します。逆にEPSが80円に減ると予想株価は800円(80円×10倍)に下落します。このようにEPSの増減は予想株価に影響を与えます

次に配当に対する影響についてみていきます。通常、配当は純利益の中から支払われます。純利益からどれだけ配当に回したかを示すのが配当性向です。

配当性向(%)=1株当たり年間配当÷EPS(1株当たり純利益)

仮に配当性向が60%と変わらずEPSが100円から120円に増えた場合、配当が60円(100円×60%)から72円(120円×60%)と12円増加します。逆にEPSが80円に減った場合は48円(80円×60%)に減少します。


EPS(1株当たり純利益)が高ければ配当も出しやすくなる

ただし、配当については過去の利益を積み上げた利益剰余金を回すこともできるので、純利益が減益になっても前期と同額の配当を出す企業も多いです。

以上、ファンダメンタルズ分析のベースになるEPSの内容や注意点についてみてきました。

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