ベンチャー企業といってもその中身は千差万別。本連載では、さまざまな業界で活躍するベンチャー起業家たちの仕事や生き方に迫ります。第2回は、オフィス向けのICT(情報通信技術)事業やシェアオフィス運営などを手がける株式会社MJEの大知昌幸社長に、起業までの歩みや、起業家として目指す未来についてお話を聞きました。

大知昌幸さん

大知 昌幸さん
株式会社MJE 代表取締役社長

1978年奈良県奈良市に生まれる。2002年流通科学大学卒業。光通信を経てYahooの子会社に出向、2006年MJEの前身グッドライフOSを起業。2017年社名変更。189センチの長身から溢れる活力に満ちた雰囲気と、話し始めればすぐに惹き込まれる関西人特有の柔らかさを兼ね備える一方、現在も大阪府立大学大学院でMBA取得に励まれるなど、知的好奇心も旺盛な若手起業家である。

株式会社MJE(ホームページ
社名MJEは「Makes Japan Energetic」の頭文字。社名には、サービスやコミュニケーションを通じて日本を、世の中を元気にする、という願いが込められている。近い将来の株式公開を視野に顧客の成長過程に応じ「ワークプレイスにおける生産性向上」を事業の提供価値として、「業務改善」「経費の最適化」の角度から事務機の提供など様々なソリューションを提供するICT事業と、「機会創出」の角度から「billage」と名付けたシェアオフィス運営などを行うSS事業を通じ「企業の成長をサポートするサービスカンパニー」として躍進を続けている。「注目の西日本ベンチャー100」にも選出された。

光通信とヤフーの子会社で学び、IT起業家に刺激を受ける

最初に、起業の動機など教えてください。

大知 とにかく自分の力を試してみたいと強く思っていました。就職活動の際、最初にお世話になる光通信の説明会で、完全実力主義、完全成果主義という話をうかがったのですが、話をうかがった瞬間どきどきしたのを今でも覚えています。ここで自分がどこまでできるか、やってやろうと希望に燃え光通信に入社しました。

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最初に配属された部署はオフィスのITソリューションをサポートし、システムを作ったりビジネスフォンのシステムを販売したりする部署だったのですが、そこで実績を上げ、3年後には希望していた経営戦略企画室に配属されました。

経営戦略企画室、それはどんな部署だったのですか。

大知 事業提携や合弁企業の立ち上げ、ベンチャー企業の発掘、資金調達のサポート、ファンドの組成などを行う投資銀行的な性格を持った部署でした。時代は2004年の冬から2005年の秋頃、ちょうどライブドアがニッポン放送やフジテレビに買収を仕掛けていたりした頃になります。その頃、ヤフーの連結子会社と仕事上の縁ができ、新規事業を立ち上げるプロジェクトリーダーとして結局その会社に出向することになりました。

光通信では、とにかくやりきるという事を学びました。「不可能の向こう側にこそ、可能がある」という言葉が今も好きなのですが、そんな精神ですね。そこで鍛えられトップセールスとなり、完全実力主義の会社で好きな部署で好きな仕事に取り組んでいたのですが、ヤフーの子会社に出向してそこで初めてまた違う魅力のある企業文化に出会いました。人を尊重するとか、クリエイティブな発想を重んじるとか、自由さとか、なかなか一言では言い切れないものですが、また別な魅力に満ちた文化でした。そこに浸り込む中で、もう一度元の場所に戻るのか、戻れるのか、と葛藤が生じたのです。

また、そこでは時代の大きなうねりのなかで、エネルギーに満ちたIT系のベンチャー経営者やその影響を受けたベンチャー企業の人々に毎日出会って刺激を受けていました。グリーやDeNA、サイバーエージェントなどがライブドアと同じように話題になっていた時代です。アドレナリンがでまくっているという感じです。
子供の頃から私は人一倍、目立ちたいとか、負けたくないとか思う子供だったのですが、彼らから刺激を受けて、自分で起業するという選択肢が自分の中に芽生え、大きくなっていったのです。出向から1年半が経っていました。

そして起業された。

大知 同じタイミングで光通信から出向していた数人のメンバーと語らい、起業しました。新規事業立ち上げ支援の経営コンサルティング会社という形で、ヤフーの子会社から業務委託を受けるというスタートです。グッドライフOSという社名でした。ただ、すぐにもう一度原点に立ち還ろうと考え、私はその仕事を東京の仲間に残して関西に戻り、光通信で最初にしていたようなオフィス機器の販売やオフィスの生産効率向上のサポート、事業の起ち上げのサポートを始めました。会社の基盤を創ろうと考えたのです。それが、現在のICT事業の源流です。時代の後押しもあったでしょうし、少しずつメンバーも増えていき、事業は順調に伸びていきました。

MJEオフィス

同じビジョンを共有し、強い信頼関係に結ばれた仲間

それから2017年、ちょうど起業から10年の節目でMJEへの名称の変更、もう一つの事業であるSS事業を始められます。その理由は何だったのでしょうか。

大知 起業して10年が経ったとき、これでいいのか、と何か違和感を感じ、それが大きくなりました。創業の際、仲間たちと「美しい会社を創ろう」と誓いあっていました。それが何なのか、もう一度しっかりとしたビジョンを打ち立てて、そこに向かっていかなくてはいけないと感じていました。

MJEという社名は今でも鮮明に覚えていますが、その頃の幹部と琵琶湖の湖畔で合宿をして、ああでもない、こうでもない、と議論を交わし、そこで生まれたビジョンであり社名です。
それまで感じていた違和感は、いつの間にか顧客サイドではなく売り手の論理が優先しているのではないか、というものでしたが、ここで、日本を、世の中を元気にする、そのために自分たちのサービスを通じて顧客を支えていく、サービスだけではなく自分たちに触れていただくことでも、活気を与えていく、元気になってもらう、そんな集団になるんだ、とチームの意思も統一されたのです。

個人的な話になりますが、小学生から高校までサッカーに夢中でした。身長が高いので、「ポジションはキーパーだったのですか? いやゴール前でターゲットとなるセンターフォワードでしたか?」と良く聞かれるのですが、ポジションはセンターバックやボランチでした。どちらもチームの意思統一に欠かせないポジションです。

小学校は奈良の公立の小学校だったのですが、不思議と私の世代に良いメンバーが集まり、奈良県としては珍しいのですが、全国大会でベスト4まで勝ち上がるという快挙を達成しました。私は副キャプテンでセンターバックでしたが、考えてみればその頃から「強いチーム、良いチームを作るにはどうすればいいのか」を考えていたように思います。
そのための条件の一つは、例えば絶対に倒したいライバルの存在です。ただ、それだけではなく強いチームが成立するには、メンバーが同じ目的を持ち、お互いに強い信頼に支えられているということが必要なのです。この合宿の答えが全てではありませんが、「同じビジョンを共有し、強い信頼関係に結ばれた仲間が作り出す会社」という組織の在り方を現在も、そしてこれからも追求していこうと思っています。

「出会い」をプラスに変えていく姿勢

大知 もう一つのご質問、大阪や東京で展開している「billage」、シェアオフィスの提供ですが、同じ10年の節目に社会課題そのものに対して我々が提供できるソリューションは何か、を考えていました。そのころ読んだのが、日本の起業率の低さや創業後に生存する企業の少なさに関するデータでした。アベノミクスに絡む何かの論文だったと思います。確かそこには、起業後10年以内に94%の企業が廃業する、という衝撃的な数字が書かれていたと記憶しています。生き残る6%の企業と廃業する94%の企業、その違いを考えた時に、自分が起業時に大阪に戻り徒手空拳で事業を切り拓いていったときの経験を思い出しました。

その時は、ワンルームマンションを借りるお金さえ厳しい状態でした。礼金や敷金、毎月の家賃や最低限必要な機材、起業しようとしたとき、誰もが経験する最初のハードルです。私はその時、たまたま同じ奈良県出身で現エスクリの渋谷社長の知遇を得ていて、彼が経営していた建設会社の大阪支店に、それなら俺のところに来いよ、という感じで間借りさせてもらえました。そこには同じような境遇の経営者が何人か集まっていて、大阪での最初の仕事は彼らの紹介してくれた案件から始まりました。
後で本を読む中で、スタンフォード大学のクランボルツ教授の「計画的偶発性理論」に出会うのですが、そこには個人のキャリアの8割は予想しない偶発的な出来事によって決定されると書かれています。出会いが何よりも重要ですし、その出会いをプラスに変えていく姿勢がもう一つの鍵となります。

ともかく私は、その渋谷さんとの出会いに救われ、そこで出会った皆さんに助けられました。私が展開するシェアオフィスをbillage、綴りこそbですが、村と名付けたのは、そういった意味です。

起業家が出会い、助け合える空間を提供したい

インキュベーターとして起業家を助けたい、育てたいということでしょうか。

大知 欧米発のシェアオフィスと少しだけ違う視点で、この事業を育てていきたいと考えています。確かに、社業全体を通じてインキュベーターとして社会に貢献したいと考えていますが、私たちがもっとも支えたいと考えているのは、個人事業者やフリーランスのような本当に一人ひとりは小さな事業者です。政府も目標として5%程度の開業率を欧米並みの10%程度にしたいと数字を掲げていますが、そのような開業率を目指した場合、情報通信環境の発達をベースにして、やはり個人に近い事業者たちが増えていくのだと考えています。また、そのような零細な企業群こそが、活力ある個々人こそが、実は社会の活性化、日本の活性化を支えていくと考えています。

私たちは彼らにbillageという高い機能性を持つだけではなく、出会いがあり、お節介もあるような、自由なしかし相互に助けあえる雰囲気を持つ空間を提供していきたいと考えています。また、それは働き方改革が叫ばれ、働き方そのものの再構築が求められる中で、既存の大企業の従業員の方にも利用していただける空間、21世紀の新しいオフィスのあり方でもあると考えています。

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