昨今の長期金利の上昇を背景に、個人向け国債が注目を集めています。なぜ金利が上がると個人向け国債が評価されるのでしょうか。個人向け国債変動10年の仕組みと魅力について、ファイナンシャルプランナーの恩田雅之さんが解説します。

  • 変動金利の債券は、金利が上昇すればそれに伴い受取利子が増えていく
  • 個人向け国債では、金利上昇による債券価格の下落の心配がない
  • この2点が個人向け国債変動10年の魅力。最低金利保証もあるが信用リスクに留意

日銀の長期国債買い入れ額が過去最高の16兆円超に

6月に日銀の長期国債買い入れ額が過去最高の16兆円超になったニュースを見ると個人向け国債変動10年への投資を検討してもいいかと考えてしまいます。

6月、日銀は長期金利(10年国債の利回り)の上限金利を0.25%に抑えるため指値オペを盛んに行いました。指値オペとは、日銀が金利の上昇(債券価格の下落)を抑えるために原則無制限で該当する国債を買い取る金融政策です。現在日銀が設定している指値は0.25%になります。

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それでは、個人向け国債変動10年の仕組みや魅力の説明の前に、債券の利回りと価格の関係についてみていきましょう。

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債券の利回りと価格の関係をおさらい

ここでは、固定金利の債券の利回りと価格の関係についてみていきます。

固定金利の債券は発行時の利率が満期(償還)まで変わりませんので、利率が2%、額面金額が100円の債券でしたら、税引き前の利子は2円になり、これが満期まで継続します。

債券価格が額面金額と同じでしたら、利回りも2%(2円÷100円×100%)です。

債券価格が90円に下がっても利子の2円は変わりませんので、利回りは約2.22%(2円÷90円×100%)に上昇します。また、債券価格が110円の上昇した場合は約1.82%(2円÷110円×100%)に下がります。債券価格も株式同様、買う人が多ければ上昇します。逆に売る人が多ければ下がります。上記のように日銀が金利を抑えるために盛んに指値オペをおこなっているということは、日本国債を売る人が多くなっているということになります。

利回り上昇・債券価格下落
利回り低下・債券価格上昇

この関係をしっかり押さえておきましょう。

上記の説明では、利回りと債券価格の関係を簡単に説明するための単年により比較を行っています。実際の債券は満期まである程度の期間がありますので、利回りや価格の振れ幅はもっと大きくなります。

個人向け国債変動10年の3つの主な仕組み

個人向け国債変動10年の主な仕組みとして以下の3点が挙げられます。

  1. 適用利率は半年ごとに見直される
  2. 最低金利として0.05%が保証されている
  3. 中途換金しても額面金額での売却が可能

それぞれ詳しくみていきましょう。

1.適用利率は半年ごとに見直される

半年ごとの見直しは、直近の10年債平均落札利回りを基準金利として、基準金利×0.66が半年ごとの金利になります。7月募集の第148回の基準金利は0.25%、適用利率(税引き前)は0.17%(0.25%×0.66)になっています。

2.最低金利として0.05%が保証されている

個人向け国債固定5年、固定3年も同様に保証されていますが、固定5年、固定3年の場合は発行時の金利が0.05%の場合、満期までその金利が適用されます。

7月募集の固定5年(第138回)の基準金利は0.03%、固定3年(第146回)基準金利は-0.07%でしたので、最低金利の0.05%が適用利率になっています。
適用利率の算出式は5年固定が「基準金利-0.05%」、3年固定が「基準金利-0.03%」です。

3.中途換金しても額面金額で売却が可能

一般の国債と違い個人向け国債は発行から満期まで価格の変動がないため、中途換金しても額面金額での売却ができます。ただし、中途換金には下記の制約条件があります。

  • 発行後1年間は原則中途換金が不可。
  • 中途換金時に直前2回分の利子相当額(税引き後)が差し引かれる。

この中途換金の制約についても、上の最低金利と同じく個人向け国債固定5年、固定3年も同様です。

金利上昇すると受取利子が増えるが価格は下がらない

現在、米国のFRBはインフレの抑制を第一優先に金融政策を行い、政策金利を引き上げています。この影響により今後日本の金利も上がっていく可能性があります。

その場合、変動金利の債券では、金利が上昇すればそれに伴い受取利子が増えていきます。また、個人向け国債では金利上昇による債券価格の下落の心配がありません。この2点が個人向け国債変動10年の魅力になります。

ただし、金利下落局面では固定金利の方が有利になる点は押さえておきましょう。また、固定5年、固定3年も含めて安定した投資が期待できる個人向け国債にも信用リスクがある点も押さえておきましょう。(一般的な国内債券は価格変動リスクと信用リスク、外国債券には価格変動リスク、信用リスク以外に為替変動リスクやカントリーリスクもあります)

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