新NISAで人気を集めている投資信託のひとつが、全世界株式を対象とするインデックスファンドの『eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)』、通称『オルカン』です。ファイナンシャルプランナーの西﨑努さんは、『オルカン』を活用した資産運用は継続しつつも、投資について理解を深め、「自分らしい投資」を実現するために、「プラスアルファの投資」を提案します。

  • 世界株式のインデックスファンドへの投資は、資産形成における有効な手段のひとつ
  • 「プラスアルファ」としてインデックス投資では積めない経験を個別銘柄などで実現
  • アクティブファンドを選ぶ際は中身を見て、「自分がやりたい投資か」を判断する

『オルカン』への積立投資はそのまま続けていい

リーファス 代表取締役社長 西﨑 努
リーファス
代表取締役社長
西﨑 努

米国株投資が流行したのは、新型コロナウイルス禍が発生したあとでした。中でも、米国を代表する株価指数であるS&P500指数に連動するインデックスファンドは、投資初心者でも買いやすいということで、多くの個人投資家が買い求めました。実際にこの時期は米国株が大きく上昇したため、2020~21年に米国株式のインデックスファンドを買った人の大半が利益を手にすることができました。

インデックスファンドの人気は今も続いています。2024年1月には新NISAが始まったことも後押しとなり、『オルカン』と呼ばれる、全世界株式の株価指数への連動を目指すインデックスファンド(正式名称は『eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)』)も人気を集めています。

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【図表1】『オルカン』の基準価額と純資産総額の推移
『オルカン』の基準価額と純資産総額の推移
出所:三菱UFJアセットマネジメント

旧つみたてNISAや、今のつみたて投資枠で『オルカン』に積立投資をしてきた方は、基本的にはそのまま投資を継続していいと思います。投資信託には信託報酬と呼ばれる、保有している最中に支払うコストがありますが、その信託報酬が比較的安いことがインデックスファンドのメリットです。そして何より、世界の株式市場全体が長きにわたって成長を続けてきたという実績があります。『オルカン』のような世界株式を対象とするインデックスファンドが、長期の資産形成において有効な手段であることは間違いないと思います。

ただ、S&P500にしろ『オルカン』にしろ、投資先が海外なので、結果として外貨に投資することになり、為替変動リスクを取ることになります。もちろんリスクを取るからこそリターンが得られるのですが、そのバランスが適切かどうかは注意しなければいけません。

インデックスファンドでは経験を積めない投資

インデックスファンドでの積立投資は、長期の資産形成のために機械的に投資するものだと考えています。

「相場が上がっているから。一度売った方がいいか?」
「価格が下がったから、買い増しした方がいい?」
「お金が余っているから、追加投資すべきか?」

といったことを考えず、一度決めたら定時・定額の積み立てを淡々と続けるのが、積立投資のあるべき姿だと思います。

一方で、投資先が外国株式に偏るのが気になるということで、『オルカン』にプラスアルファで別の対象に投資することを考える際は、まずは円建て資産に投資するか、あるいは外貨建て資産にするのかを検討する必要があります。新NISA開始時にはインド株に投資するファンドも注目を集めていますが、確かに将来の経済成長が期待される国とはいえ、さすがに投資初心者には扱いが難しいように感じます。

個人的には、プラスアルファの投資には、インデックス投資とは別の投資手法を選ぶのが良いと思います。インデックス投資では経験が積めない投資、と言い替えてもいいでしょう。たとえば、為替変動の影響を直接受けない日本株の個別銘柄です。今後の成長が期待できて、値上がり益を獲得できそうな企業を選んで投資します。人によっては、配当収入が期待できる高配当株や、投資を楽しむために株主優待を狙う方法もあると思います。

東京
例えばNISAのつみたて投資枠で『オルカン』への積立投資を続けながらも、成長投資枠で日本株の個別銘柄に投資することで、インデックス投資では得られない知識や経験、そして利益の獲得を期待できる
seaonweb / Shutterstock.com

個別株への投資は、利益を出すためには相場や企業業績を見る必要があるため、投資を通じて多くの知識や経験を得られることもメリットです。

そもそもインデックスファンドも、その中身は株式の個別銘柄です。米国のS&P500指数は、指数を構成する500社のうちのわずか7社で時価総額のおよそ3割を占めているのですが、そうした事実も意外と知られていません。日経平均株価では、ユニクロなどを運営するファーストリテイリング1社だけで約10%も占めています。インデックス投資といえども、個別株の知識もある程度は身に付けておいた方がいいと思います。

投資初心者が個別株投資を始めるなら、自分が働いている業界から入っていくのがいいでしょう。自分がよく知っている業界なら、業績の予想もしやすいと思います。

「業績相場」で力を発揮するアクティブファンド

個別株投資はハードルが高いという場合は、投資信託を活用する手もあります。すでに保有しているものと別のインデックスファンドを買ってもいいですが、アクティブファンドを選ぶのもいいかもしれません。

アクティブファンドとは、ファンドマネージャーと呼ばれる運用担当者が銘柄を厳選して、市場平均を上回るパフォーマンスを目指す投資信託のことです。

【図表2】アクティブファンドとインデックスファンドの違い
  アクティブファンド インデックスファンド
どうやって
運用するか
投資する対象(株式、債券など)を人の手で選ぶ 市場平均への連動を目指して運用するため、投資する対象はあらかじめ決まっている(選別を行わない)
値動きの
傾向
市場平均(日経平均株価など)と異なる値動き。市場平均を上回ることも、下回ることもある 市場平均とほとんど同じ値動き
運用コスト
(信託報酬)
高い傾向 低い傾向

インデックスファンドが最も有利な状況は、「金融相場」といわれる、ほぼすべての株式が値上がりしていくような相場です。最近では、コロナ禍を受けて各国の中央銀行が金融緩和を行った2020年夏から2年間ほどの相場がそうでした。この時期は米国株も世界株も、全体として右肩上がりを続けました。

その金融緩和が終わり、米国では2022年から物価上昇を抑えるために利上げが始まりました。実際に2022年以降の米国株式市場は「金融相場」ではなくなり、S&P500指数は上昇と下落を繰り返すようになりました。

【図表3】S&P500指数の推移(終値、2018年1月~直近)
S&P500指数の推移(終値、2018年1月~直近)

企業業績が株価に与える影響が大きい相場を「業績相場」といいます。少し前ならFANG(Facebook、Apple、Netflix、Google)の各社の株価はすべて上昇していましたが、今は企業ごとにばらばらの値動きを見せています。最近は米国が景気後退するのではないかという懸念が拡大しており、株式市場全体が上がっていくという期待はしづらい状況です。

アクティブファンドへの投資が特に有効なのは、今のような業績相場ではないかと思います。『オルカン』やS&P500のような、成長する企業もそうでない企業も混ざり合ったインデックスファンドより、成長しそうな企業のみに投資するアクティブファンドの方が、価格が上がりやすい環境といえます。実際に、直近の値上がり率上位の投資信託を見ると、アクティブファンドが並んでいます。

「自分のやりたい投資」を基準にファンドを選ぶ

アクティブファンドはよく「インデックスファンドよりコストが高いから不利だ」と言われます。確かに信託報酬を比べると、インデックスファンドは最も安いものでは年率0.1%以下で、アクティブファンドの多くは1%を超えます。しかし、もしアクティブファンドがインデックスファンドと比べて、費用差分以上の成果が期待できるのであれば、アクティブファンドを選ぶことが合理的だといえます。

とはいえ、すべてのアクティブファンドが市場平均に勝てるわけではありません。むしろ、日米限らず多くのアクティブファンドがインデックスファンドに負けてきたという現実もあります。また、同じような名前の投資信託でも、その中身は商品ごとに異なります。アクティブファンドを選ぶときは中身を見て、運用方針を理解することが大前提になります。

アクティブファンドの中身は、月次レポートを見るとたいていのことがわかります。まず、どんな銘柄に投資して、どういう理由で銘柄を選んでいるか。「成長株に投資するファンド」といっても、その「成長」が意味するところはファンドによってまちまちです。継続的な成長率を重視するものもあれば、短期で大きく成長する爆発力を期待して銘柄を選ぶものもあります。

運用方針についてはレポートや投資信託説明書(目論見書)、あるいは運用会社のホームページで確認できます。ファンドマネージャーがどんな目的で、どういった考えのもとで銘柄を選ぶかを確認することが重要です。

そして、アクティブファンドの運用方針を確認したうえで、「自分がやりたいと思っている投資」に合うかどうかを判断します。このファンドマネージャーに、自分の資産運用を任せられるかどうか。自分の意志を、このファンドによって実現できるかどうか。そのような基準でファンドを選ぶことが大切だと思います。

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