コロナ禍からの需要回復により世界的なインフレが鮮明になり、主要国の中央銀行は軒並み利上げに踏み切ることになりました。特に米国は歴史的な速度で利上げを行っており、世界的に株価が調整局面を迎えるなど、金融市場にも大きな変動が起こっている状況です。日本の中央銀行である日本銀行の金融政策も、転換点を迎えるかもしれません。今回は、日銀の金融政策について解説します。

  • 主要国は金融引き締めに転じるも、日本はいまだに金融緩和を継続
  • 日銀・黒田総裁は、引き続き金融緩和が必要と主張
  • 急激な金融政策の転換は副作用が大きいため、総裁が交代しても緩和が続く可能性

米国の利上げで世界経済の潮目が変わる

2020年3月のコロナショック以降、世界の経済は目まぐるしく変化しています。当初は、ロックダウンなど、経済活動自体が停滞してしまうような政策が次々と行われ、グローバル経済は完全に停止することを余儀なくされました。

そこで世界各国の中央銀行は、コロナショックが深刻な経済危機に発展しないよう、大規模な金融緩和を実施しました。ゼロ金利・マイナス金利政策に加えて、中央銀行が国債などを買い入れることで市場に大量の資金を供給する「量的緩和」を行ったのです。その成果もあり、コロナショックで急落した株価は、2020年春以降、V字回復に成功しました。

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その後、2021年後半になると景気に過熱感が出てきたことに加え、2022年2月にはロシアによるウクライナ進攻が行われたことで原油などのエネルギー価格が高騰し、インフレが現実のものとなりました。急激なインフレは、経済に悪影響を及ぼします。そのため、米国をはじめとする各国の中央銀行は、金融緩和から金融引き締めへと政策を転換しています。

米国の中央銀行であるFRB(米連邦準備理事会)は、2021年秋から量的緩和の縮小を進めてきましたが、2022年春には、目先で経済的な痛みが多少伴ったとしても急激なインフレを抑制するために、急ピッチで政策金利(フェデラルファンド金利)の利上げをすることを決めました。

利上げが投資環境に与える影響とは?

実際にFRBは、2022年3月に0.25%、5月に0.5%、6月・7月・9月に0.75%ずつと、過去にないほど速いペースで利上げを実施しました。その結果、長期金利(米国の10年国債の金利)は10年以上ぶりに4%超えとなりましたが、ウクライナ情勢が落ちつかないことなども影響し、いまだにインフレは収まっていません

米国金融引き締めのイメージ
米国の中央銀行であるFRBは、これまでにないペースで利上げを実施する

一般的に利上げは景気の過熱を抑制する効果があるといわれています。金利を上げることによって、お金を借りる人が減少し、リスクを取って株式や債券に投資するより現金で保有していた方がいいと考える人が増えます。市中にいきわたる資金が減ることになり、株価は上昇しにくくなります。世界経済の中心である米国が、今後も金融引き締めを強めていくとすると、世界的な株安も続く可能性が高いでしょう。

利上げすると株安になる? 金利と株価の関係

日本の景気はまだ回復途中?

米国を筆頭に世界各国で金融引き締めが行われていますが、日本だけが金融緩和を継続している状況です。

日本は2013年の安倍晋三首相時代に、アベノミクスと呼ばれる経済政策を実施、その目玉として大規模な金融緩和を実施しました。デフレ脱却と経済成長を目指し、前年比+2%の物価上昇目標を設け、その達成のために、日銀は「量的緩和」といわれる市中への資金供給を行ったのです。

アベノミクスの金融緩和
アベノミクスの目玉の一つである大規模な金融緩和は、10年経った今も継続中

「テーパリング」と「利上げ」を分かりやすく解説

2022年に入り、諸外国に比べればそのペースはいくらか遅いとはいえ、日本にも確実にインフレの芽が出始めました。そこへ32年ぶりともいわれる1ドル=150円台という円安・ドル高が重なり、いよいよインフレが顕在化してきました。2022年10月に総務省が発表した9月の消費者物価指数は、前年同月比+3%、前月比でも0.4%上昇しました。アベノミクス当初は、2年で物価上昇率+2%を目指していましたが、10年間金融緩和を継続し、ようやく目標に掲げていた2%を上回ったわけです。

しかし、現在のインフレは、円安と世界的な資源価格の高騰がもたらしたものであり、経済活動の活発化や需要の拡大で物価が上がっているわけではありません。さらに賃金が上昇していないこともあり、日銀が望んだ緩やかなインフレとは、異なるものといえるでしょう。しかし日銀の黒田総裁は「まだ緩和は必要である」と主張し、世界中が金融引き締めに舵を切る中、日本だけが依然として金融緩和を継続しています。

円安のイメージ
32年ぶりとなる1ドル=150円台の円安でさらに物価上昇が進む

現状は円が売られすぎ、ドル安円高トレンドに転換へ

2023年4月の日銀総裁で金融政策を変更する?

日銀の金融政策の転換について注目が集まる中、黒田総裁は2022年9月の会見で賃金の上昇を伴う形で物価目標を安定的に実現することが必要だとしたうえで、「当面、金利を引き上げることはない」という考えを改めて強調しました。

恐らく、黒田総裁の在任期間中は、金融引き締めに転じる可能性は低いでしょう。黒田総裁の任期は2023年4月までです。

ただし、日銀総裁が変わったとしても、次の総裁はすぐに急激な金融引き締めに向かうことは難しいかもしれません。日本はアベノミクス以降、低金利を前提とした社会構造となっており、企業経営、不動産価格など、あらゆる面で低金利の環境に依存しているからです。急激な金利上昇は劇薬になりかねないため、次の総裁もある程度緩和的な金融政策を継続する可能性もあります。

日銀がいつ引き締め的な政策になるかはわかりません。しかし日銀の金融政策は、株式市場にも大きな影響を与えます。今後とも注意深く見守っていくことが必要でしょう。

そういえば……日本銀行ってなにしてるの?

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