テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第98回は、劇作家として活躍している滝本祥生さん。
小さな劇団をやっています
普段はあまり考えないようにしているお金について、このエッセイ執筆にあたりいろいろ考えてみました。
お金の計算が苦手な私も、コロナ禍で時間を持て余す中、珍しく真剣に考えたことがありました。
私の活動の軸は演劇で、20年近く小さな劇団をやっています。
所属劇団員は私を含めて3人。うち1人は休団中なので、実質たった2人で活動しています。私が作・演出を担当し、もう1人は俳優。公演の時は他の劇団や事務所から客演の俳優さんを呼んで上演をしています。
日本のほとんどの劇団は、主宰者が作家と演出家を兼任していることが多いと思います。
劇団活動は、たぶんいいものだと思います。
まずは好きなように脚本を書くことができて自由です。脚本の直しもしなくてもいいかもしれません。俳優やスタッフに意見されたときも、「このままで」とわがままを通すこともできます。
演出も自分でやるのですから、思い描いた通りの舞台が作れます。稽古場では「演出家が一番エライ」と、気弱な私をスタッフさんたちが持ち上げてくれたりもします。
しかし、その分の責任がかかります。
劇団の主宰者のほとんどは作・演出を担当していますが、ほとんどが雑用係も担当しています。
俳優を集め、スタッフを集め、劇場や稽古場を予約し、チラシを作り、契約書や請求書を整理し、小道具をつくり、打ち上げ会場も探します。
私は、もともと他劇団の制作をしていた経験もあって、人に頼めばいいこともつい自分でやってしまいます。そんな私に雑用は尽きません。
なぜ人に頼まないかと言うと、人に頼むとその分の費用が掛かるからです。なぜ費用をかけたくないかと言うと、赤字は自分で支払うからです。
もちろん集団ごとにいろいろなやり方はあると思いますが、うちの劇団では赤字は主宰負担にしています。
そういうわけで今までに支払った赤字額は……創作意欲に影響しそうなので、考えないようにしています。
オリジナルグッズをつくってみよう!
全てはお客さんが増えれば解決することですが、コロナ禍で観劇人口が目に見えて減ったと感じる昨今、なかなか簡単ではありません。
そこで、自分なりに観劇料金以外で収入を得る方法を考えてみました。
チケット収入以外でお金を得る為にまず考えられるのはオリジナルグッズの販売です。
オリジナルグッズと言っても小劇団ですので、販売する物は普通に「上演台本」になります。
最近はネットで何でもできて、ついこの間までは100冊単位でないと注文できなかった小冊子の印刷も、今では地方の印刷会社にPDFファイルで入稿すれば、1冊から3~400円くらいで作ることができます。
それを1000円程度で販売すれば数百円の利益になります。
その他には「パンフレット」の販売。これもネットで発注すれば高画質の写真入りの冊子を、1冊400円くらいで発注することができます。
こちらも売値は1000円くらいが妥当でしょうか。
つまり、台本やパンフレットが1冊ずつ売れるたび、数百円の儲けになります。
でもパンフレットの場合は1ページごとに写真を撮り文章を編集しなければならないので、自分で作るとなるとかなりの労力を要します。手間賃を考えると数百円の利益では割にあいません。
どうすれば簡単に、大きな利益が上げられるのか。
考えてわかったことは、なぜいたるところでTシャツが販売されているかでした。
コンサートやイベント会場でよく見かけるオリジナルTシャツは、演劇公演でも販売されていることがあります。劇場のTシャツ。何気なく見過ごしてきましたが、その理由を考えたことはありませんでした。
Tシャツはちょっとした絵柄やロゴさえば、簡単にそれっぽく見えます。
細かい構成や誤字脱字の確認の必要もないTシャツ。
原価は1000円程度ですが、オリジナリティと存在感を考えれば3000円くらいの価格設定が妥当でしょう。それを色違いで購入してもらえば儲けは倍、お揃いでオリジナルタオルもおすすめすれば。一気に数千円単位の利益が得られます。
作るのが簡単なうえに利益率も高い。なるほど、だからみんなTシャツを売っているのか。何気なく見過ごしてきたTシャツにもちゃんと理由があったのでした。
何も考えずに演劇ばかりやって来た私が、世の中を少し理解した機会でした。
そんなことを考えつつ、次はオリジナルTシャツを作ってみようかな、需要はあるかななどと考えながら今日もせっせと雑用をこなし、必要なら赤字も支払います。Tシャツよりもまずはいい作品を、コロナ禍でもたくさんのお客様に見てもらえるように、お客様に劇場へ戻って来てもらえることを願っています。たぶんそれでも演劇はいいものだと信じて。
いつかオリジナルTシャツを販売していた時はぜひご購入ください。
次回(2023年1月8日)は、放送作家でコラムニストの山田美保子さんへ、バトンタッチ!
ぜひ、ご覧ください!
脚本・演出を担当した動画をYouTubeチャンネル「ビーレッツのリーディングドラマチャンネルにて配信中です。
朗読動画「ブロッコリー」
脚本・演出 滝本祥生
撮影・編集 能登秀美
制作 江口愼一
企画・製作 B.LET’S
劇団B.LET’Sのホームページはこちらから
まもなく連載100回! 山田美保子さん、高須光聖さん、鈴木おさむさんが登場!!
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。