テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず! 
連載第103回は、PBW(プレイバイウェブ:多人数同時参加型オンラインゲーム)のライター歴は、この2月で16年目に突入! ほのぼの学園生活シナリオを数多く執筆している、紅藤季音(あかふじ・きおん)さん。

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初日から素敵な出会いの連続でした

紅藤季音さんの写真
紅藤季音(あかふじ・きおん)
シナリオライター
日本放送作家協会会員

遍路旅は、僕の人生に大きな学びを与えてくれた経験のひとつです。
1週間ほどで区切り、7回に分けて、2016年8月23日(火)に打ち始め、2017年5月25日(木)に打ち終わりました。
閏年だったため、すすめられるままに逆打ちをはじめたのですが。
遍路用の地図を持っていても、道が分からないっ!!
誤解しないでくださいね。
僕、地図には強いんですよ。
それでも、初日から迷ってしまいました。
初めましての歩き遍路で、逆打ちなどするものではありません。

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いったん落ち着きましょう。

お遍路は、弘法大師・空海が修行をしたお寺をめぐる四国一周1400キロの旅です。
空海ゆかりの寺は「札所(ふだしょ)」と呼ばれ、徳島→高知→愛媛→香川の順に、一番札所から八十八番札所まで番号がついています。
加えて、奥の院や別格二十霊場、空海ゆかりの地も多く残っています。
お寺の番号の若い順に、各県は「発心の道場」「修行の道場」「菩提の道場」「涅槃の道場」と呼ばれています。
札所をお参りすることを「打つ」といいます。
お遍路は、一番から順に打つ必要もなければ、1度にすべての札所を打つ必要もありません。
何番から打っても、何回に分けて打っても、逆に打っても、何年かけて打っても、いっさいが自由です。
そしてお遍路さんには、地元の方々が「お接待」をしてくださいます。

お遍路旅をする人々のイメージ
お遍路旅は四国一周1400キロを歩いて巡る
Amehime / Shutterstock.com

話を戻しましょう。

僕は愛媛在住のため、愛媛の端の札所から出発することにしました。
JRとバスを乗り継いで、午前9時に、四十番札所・観自在寺を出発します。
逆打ちですので、反時計まわりに高知の三十九番札所を目指していました。
しかしながら。
歩くべき道に赤線の引かれた丁寧な地図を読みながら進むも、途中で道を見失ってしまったのです。
建物もまばらな山あいの、軽トラックがやっと通れるくらいの細い道でした。
運よく、畑仕事をされていたお母さんがおられたので道を訊ねると、この道その道あの道と、3つの行き方を示してくださいました。
それだけでなく、お母さんは、県境まで車で送ってあげる、と申し出てくださったのです。

自分の「全行程を歩く」という決意と、遍路の「お接待は基本的にお断りしない」という心構えのあいだでちょっとだけ迷いましたが、僕は後者を選びました。
楽しくお喋りをしているあいだに車は農道を越えて、早々と県境へ。
お礼を伝えて納札(おさめふだ)をお渡しして、お別れしてそれから。
川を越えるための橋へ向けて歩いていると、車が止まってくれました。
運転席の窓を開けてお母さんが、宿毛まで買いものに行くから送ってあげる、と申し出てくださったのです。

ここまで連れてきていただければ、札所はすぐそこです。
洋服店のお母さんにみかんジュースをご馳走していただいたり、近所の方が札所の入口までご一緒してくださったり、親切な方ばかりでした。

ご縁を大切に生きていきたいです

7回に分けての逆打ち遍路も、遂に最終日
嵐のバス停にある売店で、お母さんがみかんジュースをお接待してくださいました。
津島では、真珠の核入れ作業をされているお母さんが声をかけてくださり、作業場で珈琲とドーナツをいただきました。
作業も見学させていただき、ご家族の流れるような技術に感動しました。
ただ、真珠養殖も例にもれず、後継者不足に悩まれているとのことでした。
素晴らしい技術が途絶えませんようにと願いながら、その場をあとにしました。

さぁいよいよ。
出発地点、四十番札所・観自在寺へ戻れば、道のりがまるく繋がって終わりです。
バスとJRを乗り継いで、自宅へ帰りました。

遍路旅をとおして、本当にさまざまなことを学びました。

諦めずに結願できたことは、自分の自信になっています。
たいへんなことや苦しいことに遭っても、遍路旅の日々を想い出すと乗り越えられると思えます。

お遍路旅を終えるイメージ
お遍路旅を通して、目の前の日々の大切さに気付いた

お接待やたくさんの声かけは、人の温かさを教えてくれました。
と同時に、自分に向けられる言葉や気持ちに、素直に「ありがとう」を言えるようになりました。
これまでの態度を謙虚と言えば聞こえはよいのですが、折角の評価と評価をしてくださった相手を否定しているのではないか……と思うようになりました。

旅すがら縁のあった方々とは、若しかしたら二度と会えないかも知れません。
ただこれは、毎日顔を合わせている方々にもあてはまることです。
いつなにが誰にあってもおかしくはないのだという当たり前のことに、改めて気付かされました。
そのため、逢いたい人に逢う、したいことをする、みたいなことを大切にしようと思っています。

これからも学んだことを活かして、遍路旅でいただいた恩を周りの方々にお返ししながら生きていきたいと考えています。
そしていつか、もう一度、今度は順打ちの歩き遍路旅に出たいです。

あ。
このエッセーのテーマは「お金」でしたね。
ちょうど50日の逆打ち歩き遍路旅、費用は確か60万円ほどかかったと記憶しています。
勿論、旅程はお遍路さんの数だけあります。
おひとりだって、まったく同じにはならないでしょう。
遍路旅を経験されたいみなさまのご参考になりましたら、幸いです。

次回は森田歩さんへ、バトンタッチ!

是非、読んでください!

・宮崎県美郷町の「西の正倉院みさと文学賞実行委員会」が主催されている文学賞に、放作協審査員としてかかわらせていただきました。
素敵な作品がラジオドラマとして公開されています。

・フロンティアワークスのクリエイティブRPG「三千界のアバター」に、マスターとして参加しております。

愛媛の口コミ情報サイト「KITONARU」にて、地元の情報を発信しております。

一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。

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