世界を騒がせたシリコンバレー銀行破たんのニュース。ウクライナ戦争などの影響で国際情勢が不安定な中で、アメリカの金融機関の破たんは、株式市場にも大きな影響を与えています。この問題が、2008年のリーマン・ショックのような金融危機に発展することもありうるのでしょうか? 投資信託会社のレポートをもとに読み解きます。
- 米国の利上げで債券価格が下落したことが、SVBが破たんした要因となった
- 金融業界への懸念から「リスクオフ」が進み、株価は不安定な状況が予想される
- 破たんはSVBの固有の問題であり、世界的な危機にはならないという見方が優勢
シリコンバレー銀行の破たんは米国で過去2番目の規模
アメリカで、2つの銀行が相次いで破たんしました。3月10日には「シリコンバレー銀行」(以下、SVB)。そして、3月12日には「シグネチャー銀行」の業務が停止し、アメリカ金融当局の管理下に入ったと報じられました。
SVBは総資産が全米で16位の銀行で、リーマン・ショックが起きた2008年に破たんした「ワシントン・ミューチュアル」以来、金融機関の破たんとしては過去2番目の規模とのこと。とはいえ、アメリカでは金融機関の破たん自体はそこまで珍しいことではないようです。シグネチャー銀行の総資産は全米29位とのことでしたが、日本だったら、このクラスの金融機関が1社でも破たんすれば大騒ぎになりそうです。
SVBの破たんを引き起こしたのは、アメリカの金利の上昇でした。SVBの本拠であるカリフォルニア州のシリコンバレーにはIT企業をはじめとする若い企業が多く、SVBにはこれらの企業から多額の預金が集まっていました。そして、集まった預金を米国債などの債券で運用していました。その総額は、SVBが持つ資産の半分以上におよんでいたといいます。
ところが、その債券の価格が大きく下落してしまいました。原因はアメリカの利上げです。2022年から始まった急激な物価上昇を抑えるため、アメリカの中央銀行にあたるFRB(米連邦準備理事会)は政策金利の利上げを行いました。金利が上がれば、債券価格は下がります。
利上げは景気を冷え込ませる効果を伴います。経営状況が悪化したシリコンバレーの企業は、SVBなどの銀行から預金を引き出そうとしました。SVBには引き出しに応じられるだけの現金が手元になかったため、値下がりした債券の売却を余儀なくされ、多額の損失が確定してしまいました。
それを見てSVBの先行きに不安を抱いた企業から、さらに預金の引き出しが殺到するという悪循環に陥りました。SVBは増資(株式の発行)によって危機を乗り切ろうとしましたが、株価が暴落していたために増資もできず、ついには破たんに至ってしまったというわけです。
SVBが破たんする前後で、日米の株価指数は以下のような動きになりました。
SVBに関して、投信会社のレポートでは何が語られていたか?
アメリカの銀行の破たんを受けて、今後の株価がどうなるか、世界経済の先行きがどうなるのか、気になるところです。投資信託会社のアナリストは、SVBとシグネチャー銀行の破たんによる影響をどのように見ているのでしょうか?
「リスクオフ」の動きが強まり、株式が売られる
米金融市場では、他の金融機関もSVBと同様、米長期金利の上昇で保有有価証券に含み損が膨らみ、将来的に売却損が生じる恐れがあるとの懸念が広がり、リスクオフ(回避)の動きが強まりました。
米シリコンバレー銀行の破綻が金融市場に与える影響について(2023年3月13日、三井住友DSアセットマネジメント)
リスクオフとは、リスク性資産と呼ばれる株式を売却して、リスクが低い(値動きが小さく、景気が悪化しても価格が下がりにくいとされる)債券、あるいは現金などに資産を移すことです。今後も、米国株は上昇が抑えられる、あるいはじわじわと下落していく可能性が考えられます。
株式市場などでは疑心暗鬼でリスク回避姿勢が強まると想定されます。一方で、FRBによる利上げ加速懸念などは後退するでしょう。
米国銀行の経営破綻について(2023年3月13日、大和アセットマネジメント)
先週末の米シリコンバレー銀行の破たん以降、3月21-22日に開催されるFOMCでは市場への影響を考慮して利上げが一時、棚上げされるとの見方も一部にあったとみられます。
米国株上昇、銀行懸念やや後退で利上げ継続か(2023年3月13日、アセットマネジメントOne)
アメリカの利上げがどうなるかも重大な関心事です。もともと、利上げはインフレを抑えるための政策ですが、景気が悪くなれば自動的にインフレもおさまっていくと考えられるため、そうなればFRBは利上げをする必然性がなくなります。銀行の破たんの影響は、目先では政策金利の利上げを抑える方向に働きそうです。
国内株式市場でも、米銀行の経営破綻が、金融システム全体に波及するとの懸念から銀行株を中心にリスク回避の売りが進んでいます。
シリコンバレーバンクが経営破綻(2023年3月14日、ニッセイアセットマネジメント)
リスクオフの流れは日本にも及んでいるようで、3月9日の時点で2万8500円を超えていた日経平均株価は、一時は2万7000円を切るところまで下がりました。
SVBの破たんは「個別要因」で、影響は限定的か
SVBやシグネチャー銀行の破たんの影響で、ほかの銀行でも預金の引き出しが殺到しているようです。バイデン大統領が預金者の保護に言及したり、アメリカの大手銀行が中小規模の銀行の支援を表明したりと、国を挙げて金融市場の正常化に取り組んでいる状況です。
今回の問題が大手金融機関にも波及して、リーマン・ショックのような金融危機へと発展してしまう可能性はあるのでしょうか?
週末のうちに迅速な破綻処理が行われ、早期にFRBとFDICによる対策が打たれたことや、シリコンバレー銀行の破綻は流動性管理などの固有の問題から生じたものであり、連鎖的な金融システムの信用不安になる可能性は低下したと考えています。
今後、市場においてもグローバルな金融システム不安にはつながらないというのが現時点の大方の見方です。株式市場のセンチメントが悪化している中での銀行破綻であることから、投資家が警戒スタンスを継続すると思われるため、グローバル金融市場のボラティリテイは高い状態がしばらく続くとみています。
シリコンバレー銀行(SVB)破綻による金融市場への影響について(2023年3月14日、明治安田アセットマネジメント)
当面は、SVB破綻の余波に目配りが必要ですが、米大手銀についてはリーマン・ショック後に課せられた厳しい健全性審査をクリアし続けていることもあり、金融システム不安に発展する可能性は低いとみます。
米シリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻で動揺広がる金融市場(2023年3月13日、三菱UFJ国際投信)
SVBなどの破たんは、各銀行の個別の要因であり、ほかの金融機関には必ずしも当てはまらないという見方が、今の時点では優勢のようです。とはいえ、経営が比較的健全な金融機関であっても株価が下がり、「取り付け騒ぎ」が起きてしまっている現実があるので、騒ぎがおさまるまでは楽観視しすぎない方がよさそうです。
ところで、ヨーロッパでは大手金融機関クレディ・スイスの経営不安が叫ばれています。世界経済に与える影響という意味では、こちらの方が大きくなるかもしれません。