宮崎県延岡市で保険業や資産運用のアドバイスに携わる小田初光さんが、地方で暮らす生活者のリアルな視点で、お金に関するさまざまな疑問に答えます。今回は、35歳で独身の、家族から心配されているという人からの相談。単身者ならではのリスクに対して、どのような備えが必要かを考えていきます。

  • 単身者の割合は増加。一人暮らしには貧困、介護、孤立という生活リスクがある
  • 若い一人暮らしの人は家の購入や病気への備え、介護の準備を早めに考える
  • 中高年の一人暮らしは病気のリスクに注意。運用でお金を増やすことも考えたい

一人暮らしの貧困率は高くなっている

【質問】
35歳の一人もんですが、仕事は汗もかきながらちゃんとやらしてもらっています。ただ、ばあちゃんから不憫だと、顔を見るたびに言われます。そんなこと無視しちょったけど、今度は親もそれらしきことを言うようになりました。一人の何がいけないの?

そうですか~、言われちゃいましたか~。「不憫だ」と近親者は漠然と言いますが、これにはれっきとした理由があります。「一人だからお金がかからない」と感じがちでしょうが、そうではありません。

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直近の国勢調査(2020年)では、単身世帯の比率は全体の4割に達し、ここ3年のコロナショックもあり一人暮らしが増加の一途をたどっています。一人暮らしの増加は、それぞれの生き方や家族の在り方が変化したことの反映だと思っています。

今回の相談のようなことは、私の家族間でもあります。父は一人暮らしの結婚していない弟に、何かあるたびに強くあたっています。その都度言い争う結果となりますが、父のように高度成長時代生まれの、「家族を持って一人前」という考えは今では全く通用しないのですが、父には到底理解できるわけもありません。特に、これまでは同居家族の助け合いなどが生活を保障する役割を担ってきたのは間違いない事実で、単身世帯の増加に伴い、一人暮らしの生活面のリスクにはどのようなものがあるのかなどを考えていく必要があります。

一人暮らしにも様々で、

① 一度も結婚していない人の一人暮らし
② 中高年(40歳以上)に増えている一人暮らし
③ 高齢者(65歳以上)の一人暮らし

があります。そこで今回は、一人暮らしの増加の実態を知ったうえで、一人暮らしの人が抱えるリスクを考察していきます。

まずは、お一人様の考えられるリスク。貧困、介護、孤立という生活リスクが増加していきます。一人暮らしは必ずしも家族のいない人ではありませんが、少なくとも同居人はいません。特に、結婚していないお一人様は、そうしたリスク対応が難しくなってきます。①一度も結婚していない人の一人暮らしの方は、早めに将来の家計についてどうするかを考えたいところです。

単身世帯の貧困の実態として、厚生労働省の「相対的貧困率」という指標があります。世帯ごとの可処分所得(使えるお金)から世帯規模を調整した「等価可処分所得」を算出して、同所得の中央値の50%未満(貧困線)で生活する人々の割合を示すものです。データを見ると、一人暮らしの貧困率が圧倒的に高い現実があります。特に家計は深刻で、収入に対して家賃、水道光熱費など、生活するための支出が多くなるためです。配偶者などがいれば分担することもできますが、一人暮らしでは収入減などがあると、家計は成り立ちません。

国民生活基礎調査(貧困率)よくあるご質問(厚生労働省)PDF

一人暮らしの若い人はどんな備えが必要か?

一人暮らしの人が将来のために考えておきたい項目として、以下の3つが挙げられます。

1)将来の資産確保のため、賃貸でなく持ち家がいいのか?

年を取るほど、家賃が低い物件は契約が難しくなります。若いうちにどうすればいいのか、考えましょう。地方のワンルームマンションだと、500万円から購入可能です。最悪の場合、売却して現金化できます。

マンション賃貸契約が難しくなる前にマンションを買っておくと安心(写真はイメージです)

2)病気、ケガのリスク

働けるうちはいいのですが、働けなくなったらどうするか? 健康保険の傷病手当金で給与の約60%を受け取れますが、最長で1年半です。長期療養に備える方法としては、民間の医療保険、就業不能保険などありますが、あくまでも健康保険の不足分として考えていきたいものです。

医療保険の場合、30歳での加入で終身型・65歳払込、入院日額3000円、入院一時金10万円だと、保険料35年で約97万円、月々2300円程度でしょうか。なるべく保険料を抑え、将来に備えて預貯金に回しましょう。

3)自身の介護(認知症も含めて)

まさか自分は大丈夫と思っていませんか? 「2025年問題」とは、日本人の3人に1人が65歳以上の高齢者になることで起きる様々な問題のことです。わずか2年後でこれですから、10年、20年後を考えるとゾッとします。高齢化社会は他人事ではなく、自分で備えておかなければなりません。特に、お一人様は自分で完結させる必要があります。施設への入居などに備える資金に加えて、民間の介護保険も検討の余地があります。

施設入居費用は、1000万円くらい用意しないといけません。年金だけでは当然足りませんので、預金の取り崩しも必要です。また、民間介護保険を利用する場合は、介護一時金200万円だとすると、保険料は35年分で、先ほどの医療保険の97万円に加えて、約67万円が必要になります。

介護施設
介護施設に入居するには多額のお金がかかる

そして、自身が亡くなった時も考えて、介護などと同時に備える死亡保障。お墓や葬儀など死後の整理が必要なので、最低200万円くらいは用意しておきましょう。資金不足のために、少なくとも民間の死亡保険を100~200万円分、加入しておくと安心です。

一人暮らしの中高年・高齢者の人はどんな備えが必要か?

次に②中高年の一人暮らし、③高齢者の一人暮らしですが、②③の両方とも、家の問題は、その時点で家計がどうなっているのかによりますが、持ち家志向の場合、多額のローンは現役で働く年齢を想定して組まないと、払えなくなります。また、お一人様といっても熟年離婚など、様々な事情で家族もいるケースもあることから、持ち家ありの場合は相続なども想定しておかないと、家族が争うことになります。

そして②③ともに重点を置かなければならないのが、病気、ケガ、介護、死です。今後も働き続ける前提でも、①一度も結婚していない人の一人暮らしと同様にリスク対応が必要ですが、②③の大きな注意点は、病気などに保険で備えるにしても、高齢者は保険料が高額になり、病歴によっては引き受けてもらえない点にあります。

やっぱりお一人様は、家計が厳しくなる現状を踏まえて、対策を講じていくしかありません。健康であり、長く働き続けていけば収入は増え、年金も増額できますが、一般的に平均年収が約300万円の会社員は、65歳から受け取れる老齢厚生年金額は40年間勤めても月額約12万円。配偶者がいれば加算分がありますが、お一人様には加算分はありません。預貯金や保険だけでは将来が心配です。「お金に働いてもらう」運用は避けて通れません。

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