テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第116回は、関西を中心にテレビ・ラジオ番組の構成、上方落語の執筆・落語会のプロデュースなども手掛ける北村京子さん。
もう、あくせく働かない
……と書けば「そんなにお金持ちなんですか?」と問われるが、そんな訳はない。
今年還暦を迎える私。人生の終着が遠くにだけれど見えて来たいま、さてここからどのような生き方をしようかと考えた。
31歳で普通のOLから放送作家に転職して、30〜50歳代は有り難い事に次々と仕事をいただき、数ヶ月間1日も休みなく仕事をし続けた事も。おかげさまで、贅沢をしなければなんとか細々と生きて行けるだけの蓄えも出来た。
放送作家という仕事は楽しいけれど、さて、このまま走り続けていいものか? いや、もうあくせく働かなくていいんじゃないか? 好きな事だけをして生きてもいいんじゃないか?
「好きな事」を色々と考えた。
私は、関西の放送作家でNo.1を自負する「ゴルフ好き」。もう「ゴルフバカ」と言ってもいいくらい。で、今後は何か“ゴルフ”に関わる事をやりたいと思った。ゴルフ番組の構成はやったし、極端な発想だけどゴルフ場で働く? キャディになるには体力はない。クラブハウスでの接客やコース管理などには興味がない。
あ! コース売店スタッフ(いわゆる「茶店のおばちゃん」)って楽しそう! (またまた、突拍子もない発想だけど)という思いから、即!ネットで求人を探した。
条件としては高級なゴルフ倶楽部。なぜならお客様が上客だから。
ラッキーな事に幾つか探した中で、アルバイトで採用してくれるゴルフ場が見つかった。
(面接官)「時給は国で定められている最低賃金です」。(私)「いいんです! 生活のために働く訳ではないので」と言うと不審がられた(笑)。まだ、本業もあるので、週に2日だけ働く事で折り合いが付き、2023年4月から働き出した。
想像通りのお仕事
なぜ「茶店のおばちゃん」が楽しそうと思ったのか? それは、自分がラウンドしている時に立ち寄る茶店の“おばちゃん(スタッフさん)”と喋るのが楽しいから。トイレを借りて、飲み物を購入するくらいの短い時間に「いい天気ですね」とか「暑いですね」とかの挨拶をする程度だけど、何度も通ううちに気心も知れてお話しも弾む。勿論ラウンドも楽しいけれど、茶店のおばちゃんとお話しをする楽しみもある。
で、ふと「こっちが楽しいんだから、そんな客を待ち構える茶店のおばちゃんって、1日楽しく仕事をしてるんじゃないのかな?」と思った。
元々、接客や人を喜ばす事、おもてなしなどが好きな私。働き出して感じたのは「想像通りのお仕事」「めっちゃ楽しい」だった。
ゴルフは7〜8分間隔で1組がスタートする。と言う事は、茶店にも7〜8分間隔でお客様がやってくる。土日やハイシーズンはお客様が多いけれど、平日や雨の日は激減する。お客様が来ない間は、の〜んびり緑の風景を眺めたり、プレーしている人たちを見たり。なんてゆったりとした職場なんだろう。
メンバーさんからは「おっ!新入りさんか?」なんて聞かれたり、地方から来られたお客様からは、茶店の設えを褒められたり(古民家風の素敵な庭園も兼ね備えている茶店)。
飲み物の販売や室内・トイレの掃除など、色々な仕事もあるけれど、お客様との会話を一番に楽しんでいる。
中には偉そうな客もいるけれど、ほぼ紳士・淑女な方々ばかり。
人間ウォッチングをするには最高! 色んなネタが落ちている。
……と、茶店のバイトをしつつ、自らの視点は作家のままである事に気づく。何か面白いネタはないか? 話題になる事はないか? を自然に探している自分。職業病だな……これは。
生活のためにではないアルバイト。楽しみしかない。
次回は足立聡さんへ、バトンタッチ!
是非ご参加ください!
「心斎橋大学」
放送作家協会関西支部のメンバーが中心になって後進を育成しているスクールです。
作家になりたい、何か書いてみたい方は是非、受講してください。
関西圏以外にお住まいの方にはZOOMでの受講も対応しています。
https://www.shinsaibashi-daigaku.jp/
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。