テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず! 
連載第120回は、放送作家の藤村果樹園さん。

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高級なすき焼き肉をいただいて

藤村果樹園さんの写真藤村果樹園
放送作家
日本放送作家協会会員

つい先日、我が城の家賃1週間分と同等の価値がある「すき焼き肉」をいただいた。
それは高島屋と書かれた紙に包まれており、箱の中には牛の個体識別番号を示したカードが入っていた。

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アイリスオーヤマの高級鍋と、ニトリの高級IHクッキングヒーターを用意して準備万端。すき焼きの焼き方は、正しい方法を知っている。知っているのだけれど……。どうして知っているのだろうか。現状のぼくは、米を炊けて、パスタを茹でられる自分を誇らしく思っており、それ以外の調理に関する高等テクニックなど有していない。そんな自分がすき焼きの焼き方だけ正しい方法を知っているのは、不思議だ。

迷宮入りするかと思われたこの謎も、ある出来事を思い出したことで、いとも簡単に解消することとなった。というわけで今回は「すき焼きの焼き方をいつどこで知ったか」というはなしを書こうとおもう。

祖父の苦笑い

生前に整形外科医だった祖父は、初孫のぼくをとてもかわいがってくれた。

「果物はメロンが好きだもんね」「寿司はいくらが好きだもんね」「中華はフカヒレが好きだもんね」と、なぜかぼくの好物を勝手に決めて、よく与えてくれた。本当にそれが自分の好物かと錯覚をした時期もあったが、実際にはどれもとくに好きではないし、食にはあまり興味がなかった。

中学生だったある日。祖父と食事に行く道中で、ぼくは祖父にお願いをしてみた。
「食事はマックで十分なので、ぼくの分の食事代を現金でもらうということはできないでしょうか」その頃のぼくはギターにはまっていて、機材を購入する金がなかったのだとおもう。祖父は「なにを言っているんだ」と苦笑いしていた。ぼくのお願いはあっけなく却下された。

その日の食事は、すき焼きだった。お店の人が隣で焼いてくれるタイプの某有名店。脂の多い肉は、2枚ほど食べればもう十分。ぼくはそれ以上に、食が細い祖父の分まで食べなければならず、きつかったのを覚えている。祖父はあまり食べられない分、ぼくに食べさせて喜んでいるようだった。

まだ焼くのか」と絶望しながら、ぼくは、すき焼きを焼くプロの技を見ていた。

すき焼きを作っているイメージ祖父と行った高級なすき焼き屋で、ぼくは絶望しながらプロの技を見ていた

あの日、ぼくは祖父から食事代を現金でもらおうとして、失敗した。

そして今、ぼくはここに、あの日の食事のことを書いた。
ありがたいことに、原稿料をいただけるらしい。
祖父の苦笑いが浮かぶ。

次回は放送評論家のこうたきてつやさんへ、バトンタッチ!

ぜひご覧ください!

note | 藤村果樹園
https://note.com/kajuen

一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。

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