「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回は、個人投資家の投資対象としてたびたび注目を集めるインドについて、その将来性やリスクを考えます。

  • 日本にとってインドは未知の部分が多い国。日本企業も進出の失敗が相次ぐ
  • インドの人口は間もなく中国を抜き世界一に。平均年齢が若いことも魅力
  • インドは識字率が高くない。地域ごとに異なる複雑な行政が外資を妨げてきた

本稿を執筆している今はまさにG7の真っ最中。もし「G7史」なるものがあれば、今回のG7広島サミットは多くのページが割かれるのではないでしょうか?
筆者が最も驚いたのは、ウクライナのゼレンスキー大統領とインドのモディ首相が会談したことです。なぜならば、ストレートに言えば、インドは「ロシアの制裁逃れを助けている国」だからです。インドがロシアから購入している原油の量は、ウクライナ戦争前に比べ、10倍になったとか。そもそも、そのような国の元首が「よくも、日本に来れたな」という思いの方もいらっしゃるのではないでしょうか?

さて、そんなG7も世界経済への影響力がだいぶ低下しています。その理由の一つにインドやASEAN、そして中国などの経済成長があります。
中でもインドの経済成長には期待が高まっていて、インドへの投資が注目を集めているようですね。

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日本人にとってインドは未知の国、アメリカやイギリスには身近な国

私たち日本人にとって、インドは未知の国といえますが、アメリカやイギリスにとってのインドは、日本に比べて身近な国と言えるではないでしょうか?

まず言語です。インドの公用語の一つに英語があります。そして、人のつながり。G7に出席していたイギリスのスナク首相のご両親はインド系です。また、アメリカのハリス副大統領は「インド系アメリカ人」だそうです。
日本とインドには、言葉も含めた人的なつながりがほとんどありません。

リシ・スナク
リシ・スナク首相は、英国で史上初となるインド系の首相
Salma Bashir Motiwala / Shutterstock.com

日本企業のインド進出

筆者が以前、「経営者の交流会」に参加した時、ナゼか「日本企業のインド進出」が話題になりかけたのですが、即、別の話題に変わりました。そして、主催者が血相変えてスッ飛んできて「大泉さん、インドの話題は禁句ですよ」と耳打ちされました。その「経営者の交流会」に参加していた企業の中には、インドに進出しようとして失敗したり、断念した企業が多数あったからだそうです。

もう10年以上も前の話ですが、2012年7月18日、インドのマルチ・スズキ(日本の自動車メーカー・スズキの子会社)のマネサール工場で、従業員による暴動が起きました。インド人の人事担当幹部1人が死亡、日本人役員2人を含む約100人が負傷し、警察は暴動に加わった作業員99人を殺人罪あるいは殺人未遂罪の疑いで逮捕しました。平和な日本では、従業員が暴動を起こすことはもちろん、想像することすら難しいのではないでしょうか?

日本企業にとって、やはりインドは未知の国であり、インド進出はハードルがかなり高いのではないでしょうか? このような事例を見ると、日本企業はわざわざインドに進出するよりも、別の国に進出することを検討した方が良さそうに思えます。

なおマルチ・スズキは上述の暴動の後にも、従業員によるストライキなどが起きていますが、現在のマルチ・スズキは現地で上場し、日本のインド株式関連の投資信託などにも組み込まれています。

マルチ・スズキ
スズキの子会社であるマルチ・スズキは、インドの自動車市場で長年にわたりトップシェアを誇る
Kiran-Sharma / Shutterstock.com

さて、起業家や大企業の経営者ではない私たちが検討するべきは、「インドに進出して事業を興す」ことではなく、インドへの投資です。
日本企業の事業進出が活発な国なら、投資に関する情報も入手しやすいのではないでしょうか? 現地の経済情勢はもちろん、現地の企業に関して、鮮度の高い情報を得ることができるはずですから。インドはどうでしょうか?

限られた情報の中から……投資先としてのインドは?

これまで投資先としても、また事業の進出先としても注目されていた新興国は中国です。ところが中国は、いわゆる「一人っ子政策」により人口の伸びが頭打ちになるとともに、日本と同じく高齢化が進んでいます。そしてアメリカとの関係も微妙なものになってきています。

中国に代わる投資先として注目されているインドは、今年中に中国の人口を上回り、世界一の人口を誇るようになると言われています。加えて、インドの平均年齢は28歳とも言われ、いわゆる「人口ボーナス」が期待されています。また、先述の通り、イギリスやアメリカとの人的なつながりもあり、中国のように「アメリカとの関係が微妙なものに」というリスクがないことが期待できます。

他にも「インドと言えばIT大国だよね」とか、「インドはゼロを発見した国だし、掛け算も19×19まである数学の国でしょ」という声を聞いたことがあります。

インドの小学生
インド人は「数学が得意」というイメージで語られることも多い

インドの経済について懐疑的な見方も?

さて、そのインドの、特に経済成長について懐疑的な見方をする文章が、時々UPされています。まず識字率です。インド人の識字率は、15~24歳の若年層に絞っても、男性で93%、女性で90%です(2019年時点。ユニセフ「世界子供白書2021」より)。インド国民全体の識字率も「7~8割ほどではないか」という話を聞いたことがあります。

ちなみに、東南アジアで人口ボーナスが期待される、でもインドほどには人口が多くないインドネシアの若年層の識字率は100%(出典同じ)です。IT大国にして、数学の国と噂されるインドも識字率が十分でないと、その豊かな人口が十分に発揮されない可能性もありますね。

ところで、インドはモディ政権になってから「メイク・イン・インディア」という政策を打ち出しています。インドは元々、地域の力が強い国で「日本の江戸時代の藩が存在したまま、近代化している」と称した人もいました。かつて日本の県知事に「廃県置藩を行うべきだ」という人がいましたが、インドの場合には税制と行政手続きとその複雑さも地域ごとに異なり、そのため外資の受け入れが進まなかったり、海外から事業の進出が進まなかったようです。

そして、産業の方も、依然として農業に従事する人が多く、その農業も近代化が進んでいないという評価もあります。決して農業を差別するつもりはありませんが、近代化の進まない農業という点を踏まえると、識字率が低いのもうなずけてしまいます。

その一方で、モディ首相が推し進める「メイク・イン・インディア」も、ある程度の効果が出ているようで、世界銀行のビジネス環境ランキングは、142位(2015年)から63位(2020年)に上昇しているようです。先述の地域ごとに異なっていた複雑な税制と行政の手続きも、オンライン化や規制緩和を進め、その効果が上がっている模様です。また、国によっては中国に代わる生産拠点をインドに設けようという動きもあるようです。

ナレンドラ・モディ
モディ首相の政策は徐々に成果を上げ始めている
Amit.pansuriya / Shutterstock.com

筆者のインド投資の経験

ところで、昨年の暮れに、インドの自動車の保有台数が日本を抜き、世界3位になったというニュースがありました。また「インド人は貯金が好き」という話も聞いていたので、ニューヨーク証券取引所に上場するインドの銀行HDFCの株式を購入しました。NY上場なので、通貨はドルなのですが、購入以来、為替はともかく、株価は横ばい、手数料分でマイナスという状況で推移しています。

【図表】HDFC銀行の株価(2018年6月~2023年5月30日)
HDFC銀行の株価(2018年6月~2023年5月30日)

投資先としてのインドはこれからか?

モディ首相はゼレンスキー大統領との会談で、「ウクライナ戦争解決のために、個人できることは何でもする」という趣旨の発言をしていたように記憶しています。ロシアから原油を買い、軍備の多くがロシア産のインドは、ウクライナ戦争解決のために、どのような行動をするのでしょうか?

【図表2】インド、インドネシア、中国の比較
インド インドネシア 中国
人口 13億7860万人
(2019年、IMF)
2億7225万人
(2021年、
中央統計庁)
14億1260万人
(2021年末時点、
中国国家統計局)
面積 329万m2
(日本の約8.8倍)
192万m2
(日本の約5倍)
960万m2
(日本の約25倍)
実質GDP
成長率
8.7%
(2021年)
5.3%
(2022年)
3.0%
(2022年)
名目GDP
総額
147,355十億ルピー
(2021年)
1,319十億ドル
(2022年)
18,100十億ドル
(2022年)
一人当たり
名目GDP
2,283ドル
(2021年)
4,798ドル
(2022年)
12,814ドル
(2022年)

出所:日本貿易振興機構(JETRO)

まとめに代えて

おそらく、インドは経済成長を遂げるとは思いますが、いずれにせよ、他に国と比べて、未知というのか、情報が入手しにくい国と言えるのではないでしょうか? インド関連の投資信託やインド企業の株式を購入するなら、情報の入手の難しさを承知で投資するべきでしょう。

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