安全資産としての需要を受け、金価格は上昇トレンドを継続しています。一方、ドル/円は昨年秋から続いてきたドル安円高のトレンドが転換し、140円台まで上がってきました。貴金属と為替の市場動向について、エコノミストのエミン・ユルマズ氏に聞きました。
(取材:2023年5月30日)
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日本株も安全資産として脚光
日経平均株価は1年8カ月ぶりに3万円台を回復しました。足元の相場環境をどうご覧になりますか。
エミンさん 日本株が好調な背景として、主に2つの要因が挙げられます。
1つ目は、ドルが再び強くなっていることです。昨年秋から続いてきたドル安円高のトレンドが転換し、ドル円はまた140円台まで上がってきました。円安は輸出企業の追い風となり、日本株市場にもプラスの影響を働かせています。
2つ目の要因として、金融システム不安や地政学リスクに対する警戒感も挙げられます。金融システム不安は落ち着いたようにも見えますが、いつどこで再燃するか分かりません。ロシア・ウクライナ戦争も、終息の道筋がいまだに見えてきません。そうした背景から、リスク資産から安全資産への資金シフトが起こっていると考えられます。米国株指数は堅調のようにも見えますが、好調なのは一部の限られた銘柄に限られ、この先の動向は読みにくいのが現状です。日本株も一般的にはリスク資産と捉えられますが、むしろ今は安全資産として注目されているのではないでしょうか。米国株はすでに大きく上がり、経済の不安もあります。ドイツや中国も景気が減速しているなかで、日本経済は相対的にまだ元気です。さらに、多くの日本企業の株価が割安に置かれている状況ですから、その魅力が意識されやすい市場環境と言えます。
金に望ましい環境は「ほどほどのインフレと低金利」
リスク資産から安全資産への資金シフトは、貴金属の値動きからも見て取れますね。
エミンさん シリコンバレー銀行やクレディ・スイスの破綻は市場関係者にリーマン・ショックを思い出させ、地政学リスクの高まりも相まって金が買われる要因となりました。
金が強い理由はそれだけではありません。FRB(米連邦準備制度理事会)が利上げの打ち止めを示唆していることに加え、今後インフレ率が下がってきそうなことも金の需要を下支えしています。
よくインフレになれば通貨の価値が下がり、金価格が上がると言われますが、必ずしもそうではありません。金にとって一番望ましい環境は、ほどほどのインフレと低金利です。インフレ率が高すぎると利上げが進みますので、金利を生まない金は買われにくくなります。一方、通貨の価値が高まるデフレ下では金が買われにくいのは一般的な認識の通りです。
来年以降、この「ほどほどのインフレと低金利」の環境になる可能性があります。景気悪化に伴ってインフレ率が落ち着き、各国の中央銀行が利下げに転じるシナリオは十分考えられるでしょう。さらに、米中対立などの中長期的な地政学リスクも引き続き意識され、金価格のサポートとなりそうです。長期ポートフォリオの一部として、金商品を持っておくのは非常に賢明な選択の一つではないかと思います。6~7月は1920~1980ドル、秋口までには2100ドルに達すると見ています。