テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第132回は、『高校生クイズ』『クイズ!ヘキサゴン』『Qさま!』などの番組を担当する、クイズ作家の日髙大介さん。

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1000万円か、0円か

日高大介さんの写真日髙大介
クイズ作家

皆さんは、1問のクイズを間違えて1000万円を逃したことはありますか? 僕はあります。2回あります。

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まずは西暦2000年。みのもんたさんの「ファイナルアンサー?」で一世を風靡した『クイズ$ミリオネア』に出場。しかし、僕は「四択並び替えクイズ」で失敗。みのさんと対峙することができませんでした。

そして1年後。ひょんなことから『タイムショック21』に挑戦できるチャンスに恵まれました。5人1組で1人ずつ1分間12問のタイムショックに挑戦し、正解数に応じて1000万円を積み立てていくルール。ただし1人でも正解数5問以下の場合は、椅子がトルネードスピン! 縦横無尽に回ってしまい、賞金は没収されます。

当時の僕は、本当にお金がありませんでした。今回の5人は「苦学生チーム」ということで、マジで生活が苦しい学生5人で出場。「クイズで生計を立てる」という意味では今と変わりませんが、あの頃は「クイズ王になりたい!」以前に「クイズの賞金を生活費に充てたい!」という状況。優勝した『アタック25』のニューヨーク旅行も換金したほどです。そして今回の『タイムショック』、1000万円を5人で等分しても200万円。これで5年は生き延びる!

いよいよ本番。
まず1人目は、僕のチャレンジ。12問パーフェクトの場合は一気に1000万円を獲得。もちろん、そのつもりでした。1問目「指揮者が使うタクト。これ何語?」「ドイツ語!」といきなり難しい問題にビビりながらも、あのタイムショックが始まりました。

トラリピインタビュー

結果は…11問正解、500万円獲得。落としたのは、
「Q. 117、119、110。かけるとお金がかかるのは?」
という電話番号の問題(正解は117)。「かけると」と聞いた瞬間、数字を「かけ算」をしてしまったのが命取りでした。でも、あと4人います!

5人のチームが力を合わせるイメージ生活が苦しい学生5人の「苦学生チーム」で挑戦した

2人目(現在は某クイズ作家)は「オリコン調べ。去年のシングル売り上げベスト12曲のアーティストを答えなさい」という多答問題。サザン、福山、宇多田と答えていくも、なかなか答えが出てこない。実は、当日のリハーサル中、僕はふと、彼に「今日出そうな、最近のヒット曲って何かあるかな?」と聞こうとしていたのです。

でも、私語は厳禁だと思い、こういう話をスタッフに聞かれたら怒られるかも、と妙に恐縮してしまったピュアな学生時代。もし、その話を彼にしていれば……。問題文の冒頭で「オリコン調べ」という言葉を聞いた瞬間、脳内にイヤな予感が走ったのを覚えています。

それでも彼は何とか6問正解。首の皮1枚つながりました。プラス50万円で、合計550万円。

3人目。クイズ研究会ではないのに10問正解と頑張ってくれました。2択問題を2つ外したのが不運。プラス400万円で、合計950万円。

なんと、1000万円にリーチ! 4人目が6問正解すれば、ゴールに到達。ただし5問以下だとアウト。5人の運命を背負う、彼のプレッシャーたるや計り知れません。我々に残された道はたった2つ。1000万円か、0円か。スタッフも全員、固唾を呑んでこちらを見守っています。

露と消えた950万円

そのときの12問はこちら(2001年時点)。○×は彼の成績。6問正解すれば「1000万円」です。

Q.パ・リーグ。福岡ドームはホークス、大阪ドームは? ○(バファローズ)
Q.宝くじのナンバーズ。抽せん日は週何回? ×(3回)
Q.インドの首都はニューデリー。インドネシアは? ○(ジャカルタ)
Q.奈良の春日大社。シンボルの動物は? ○(鹿)
Q.三井住友銀行。住友と合併したのは? ○(さくら銀行)
Q.40年ぶりの太平洋単独横断。この冒険家は? ×(堀江謙一)
Q.30日で終わる月。1年で最初は何月? ×(4月)
Q.英語で質はクオリティ、では量は? ○(クオンティティ)
Q.アジア・アフリカ・アメリカ。「ア」って何回言った? ×(4回)
Q.いま、何問目? ×(10問目)
Q.午前4時。9時間前は午後何時? ×(午後7時)
Q.困ったときの作戦。「三十六計(何)にしかず」? ×(逃げる)

見ていて、後半6問は呼吸が止まりそうでした。人間の心理を揺さぶるような12問の構成。この番組では椅子が回るトルネードスピンでスタジオが盛り上がるのですが、今回は、誰も笑っていません。僕たちの950万円は、露と消えました。

でも、誰も責められません。あと1問正解すればよかったのは4人とも同じなのです。僕が「117」を答えていれば……2人目が「モーニング娘。」を出していれば……3人目が2択を1つ当てていれば……4人目が数字問題を1つでも当てていれば……。

多額の日本の紙幣のイメージ4人の誰かがあと1問正解していれば…。誰も責められない

でも、こんなに記憶に残っているクイズはありません。「1問の重み」を知っているからこそ、その後クイズ作家になってみて、1問1問を大事に作ろうと身に沁みて思います。クイズ作家は、解答者が一生、忘れようにも忘れられないかもしれない問題を作っているのです。22年前の出来事を思い出しながら、にわかに仕事に責任感が生まれてきたのでした。

次回は脚本家の金谷祐子さんへ、バトンタッチ!

一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイズ」などさまざまな事業の運営を担う。

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