テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
9月18日に創立64年を迎える日本放送作家協会。今月は重鎮作家の登場が続々と!
連載第134回は、大べテラン、小説『宇宙皇子』でもおなじみ藤川桂介さん。
ストレスのピークに
20年ほど前のことです。
映像作品と小説作品がヒットしたこともあって、仕事の依頼をこなすために、かなり過度なスケジユールをこなしていたのですが、脳梗塞を発症して、近くの国立医療センターへ入院という事態になってしまいました。
言葉がもつれ、手の力が失われてしまい、もうもの書きとしての生活も断念せざるを得なくなるのではないかと覚悟をしたほどでした。
担当医師からは当時の私の仕事のペースから判断して、完全にストレスがピークに達してしまったという宣告を受けてしまい、おまけに当時の私は片手で火のついたタバコを持ちながら、片手でコンピータのキイを打つというチェーンスモーカー状態だったので、喫煙禁止も命じられました。
残念ですがこれまでの日常はすべて放棄しなくてはならなくなってしまったのです。
幸い急所をはずれていたために、20日間の点滴だけで退院することができました。
しかし進行中であった映画の原作・脚本という作業も中止にして頂き、兎に角当たり前の日常生活ができるように努めることになりました。
年齢もすでに70歳を越えていましたから、これまでの健康な体調を取り戻すことに専念しました。
お陰様で数年ほどの休養の結果、言葉のもつれも薄れ手のしびれもほとんど解消しましたので、これからどんなことをして生活しようかと考え始めていたところ、京都の嵯峨芸術大学(現美術大学)の教務担当の方が、新しい映像に関する学科が生まれるというので、私に講義を受け持ってくれないかという依頼のためにわざわざおいで頂いたのです。
奉職と引退で新たな発見、それは…
熱心なお誘いもありましたが、結局これまでの経験が活かせるのであればということで、毎週京都の大学へ出向いて若い人たちと交流しながら、客員教授という仕事を始めました。熱心な学生たちの反応に応えるために、かなりハードなスケジュールをこなしながら、空いた時間には史跡の取材などで、あっという間に8年もの間、奉職してしまいました。
しかし時代の変化と共に気質の違った学生が入学してくるようになり、そろそろ退任の機会を考え始めた頃、大学の理事である古刹嵯峨山大覚寺から、嵯峨天皇の足跡を雑誌に連載して欲しいという依頼があったのです。
私はそれを機会に講義からは手を引き、4年かけて執筆に専念して、「新嵯峨野物語」として令和元年に出版することになりましたので、それを機会に、大学からも退任させて頂くことになりました。
思えばすでに80歳を越える高齢まで奉職していたことになったのです。
私はそれを機会にこれまでの作家としての作業もすべてきっぱりと止めることにしました。
ところがその頃から、これまで経験しない「乾燥肌」などという皮膚病に襲われてしまったのです。医師との問診の結果、これまでの忙しない作業を突然断ち切ってしまったために起こった、「逆ストレス」ということでした。
まったく思いがけないことを体験することになってしまい、新たな生活を探らなくてはなりませんでした。
その結果ようやくたどり着いたのは、物書きは高齢に達したからといって、世間とのかかわりを断ち切ってしまわずに、楽しみながら書くことに挑戦したほうがいいという結論だったのです。
結局、自分自身を励ましながら、これまで挑んでもみなかった世界を、創造してみる楽しみを持ってみようと考えたのです。
出版とは関係なく、ブログに投稿するもよし、SNSへ発信したりするのもいいでしょう。
自由な時間を獲得したのだからといって何もしなくなると、却って無為な日々と戦わなくてはならなくなってしまいます。
逆ストレスの教訓です。
楽しみながら書きましょう!
次回はミュージシャン、エッセイストの島敏光さんへ、バトンタッチ!
ぜひ、読んでください!
旧嵯峨御所大本山大覚寺・いけばな嵯峨御流『月刊嵯峨』にて連載された『新嵯峨野物語』を書籍化
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。