世界のサステナブル投資をリードするBNPパリバ・アセットマネジメントは、多様な制度や枠組みの整備が進み大きく進展を見せる一方で、懐疑的な見方や逆風も指摘されるESG投資をどう見ているのでしょうか? サステナビリティを長期のメガトレンドと捉えたうえで、将来に向けた課題と、今後進むべき道を提示します。
(本記事は、BNPパリバ・アセットマネジメントと協力し、全3回の記事として構成したものです)

1 はじめに

BNPパリバ・アセットマネジメントについて

BNPパリバ・アセットマネジメント(BNPパリバ・アセットマネジメントグループを指す。以下「当社」)は、世界有数の金融機関であるフランスのBNPパリバ・グループの資産運用部門であり、個人投資家や事業法人、機関投資家に付加価値の高いソリューションを提供しています。

当社は2002年からサステナビリティ*1に取り組んでいます。ESG(Environment, Social, Governance)を考慮に入れ、低炭素で環境的に持続可能で包摂的な経済を促進するために、私たちの野心や投資哲学、運用プロセスの強化を続けています。

*1 サステナビリティ……直訳すると「持続可能性」。私たちが暮らす社会や自然環境が、将来にわたって持続可能であることを目指す考え方です。近年では企業の経営においても、サステナビリティへの貢献が重要なテーマのひとつとなっています。

強弱入り交じった2022年以降のESG投資環境

このように長きにわたってサステナブル投資*2の分野を世界のリーダーとして牽引してきた当社においても、2022年以降はESG投資にとって強弱入り混じった時期と位置付けています。欧州では、金融機関がサステナブルファイナンス開示規則(SFDR)*3の次の段階への準備・実施に向けてセクター全体で取り組んでいるのはもちろんのこと、その多くがネットゼロ*4に関するイニシアチブのコミットメントに署名するなど、前向きな進展も多く見られます。

一方で、ESG統合やサステナブル投資の実践がどの程度まで深く行われているかについて懐疑的な見方が広がったほか、エネルギー安全保障*5への懸念が高まるなど、ESG投資の停滞、逆風が指摘されることも増えてきました。それでも、サステナビリティは長期のメガトレンドであり、運用会社としてサステナブルな社会・経済をつくっていくためにその役割を果たすべきだと当社は考えています。

以下では、当社が重要視する各論点がESG投資にどのような影響を与え、持続可能な経済への移行にどのような役割を果たすことができるのか、順に見ていきたいと思います。

*2 サステナブル投資……企業のサステナビリティに対する貢献を判断基準の1つとして投資を行う手法。

*3 サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)……金融商品に関するサステナビリティ関連情報の開示を求める規則。資産運用会社(投信会社)や保険会社、金融機関などが対象となっています。EUでは2021年に運用が始まりました。

*4 ネットゼロ……CO2などの温室効果ガスの排出量から、大気中から吸収・除去される量を差し引いた合計がゼロ以下になるのを目指すこと。2015年に策定されたパリ協定では、2050年までのネットゼロを目標としています。

*5 エネルギー安全保障……「国民生活、経済・社会活動、国防等に必要な量のエネルギーを、受容可能な価格で確保できること」と定義されています。近年ではウクライナ情勢の影響で、日本においてもエネルギー安全保障への懸念が高まっています。

2 エネルギー危機の示唆

EUでCO2排出量が減少、再生可能エネルギーの導入も加速

ウクライナでの戦争と新型コロナウイルスの感染拡大後の急速な景気回復によって加速されたエネルギー危機は、当初はネットゼロの取り組みにとって障害となるとの見方もあったようです。しかし、現時点では、炭素排出を押し下げ始めていることが明らかとなりつつあります。

気候変動分析サイト「カーボン・ブリーフ」によれば、欧州連合(EU)におけるエネルギー使用によるCO2排出量は、2022年8~10月にかけて前年同期比で5%減少したと推定されています*6。これは、化石燃料価格の上昇によって、家庭や企業が電気・ガスの使用を減らさざるをえなかったことが原因である可能性が高いと思われます。

また、国際エネルギー機関(IEA)の2022年の報告によると、エネルギー危機によって再生可能エネルギー*7の導入も加速しており、全世界で今後5年間に追加される再生可能エネルギーの量は、過去20年間と同じ規模になると予想されています*8。この成長は、IEAが2021年に予測していた水準よりも約30%高い水準となっています。

*6 Carbon Brief,“Analysis: EU’s CO2 Emissions Fall 5% in Three Months After Post-Covid Surge,” 3 November 2022

*7 再生可能エネルギー……資源が枯渇せず、繰り返し利用可能なエネルギーの総称。太陽光、風力、地熱、バイオマスなどが挙げられます。温室効果ガスを排出せず、その多くが国内で生産可能なため、エネルギー安全保障にも寄与できます。

*8 IEA,“Renewable Power’s Growth is Being Turbocharged as Countries Seek to Strengthen Energy Security,” 6 December 2022

炭素排出量の抑制を促す各国の法制度

各国政府の政策も、こうした拡大に貢献することが求められています。EUの「REPowerEU計画」は、EU経済圏のロシアの化石燃料への依存を減らし、エネルギー移行を加速させるものです。2022年8月に成立した米国のインフレ抑制法には、クリーンエネルギー*9の供給およびグリーンテクノロジー*10への投資を促進するため3690億米ドルのインセンティブが含まれています。また、台湾やインドなどは、2022年に炭素価格制度*11を導入しました。

平均的な炭素価格が最も高く取引されているのは依然としてEUの排出量取引システム(EU-ETS)*12となっています。2020年に1トン当たり20ユーロだった炭素価格が、2022年には炭素価格が1トン当たり95ユーロを超える最高値に達しました。長期的に、EU-ETSの価格は上昇傾向が続く可能性が高く、最近の予測では2023年に150ユーロの水準に達するとしているものもあります*13

さらにEUでは、EU外からの炭素排出量の多い特定の商品輸入に炭素税を課す、国境炭素調整措置(CBAM)に関する暫定合意に達しました。CBAMの実施が近づくにつれて、関税を回避するために、他の国々が2023年に自国で炭素価格制度を導入することも予想されます。

このように炭素排出に関する関連コストがますます内部化されるようになっているため、炭素排出量に減少圧力がかかっており、ネットゼロへのコミットメントに対する精査にもつながっていくと考えられます。

*9 クリーンエネルギー……温室効果ガスや汚染物質を排出しない、あるいは排出が少ないエネルギーの総称。再生可能エネルギーのほとんどはクリーンエネルギーでもあります。

*10 グリーンテクノロジー……地球環境問題の解決につながる技術の総称。サステナブル投資においても重要な投資対象のひとつです。

*11 炭素価格制度(カーボンプライシング)……CO2などの温室効果ガスに価格を設けることで、排出する業者などに行動の変革を促す制度のこと。

*12 排出量取引……カーボンプライシングの一形態で、温室効果ガスの「排出量」をひとつの金融商品と見立てて、企業や国が「温室効果ガスを排出できる権利」を相互に売買すること。

*13 Carbon Credits,“Left Unchecked The Carbon Price Goes to Infinity,” 21 January 2022

ESGを後押しする規制と金融機関が果たすべき役割

【著者紹介】

土岐大介

土岐大介(とき・だいすけ)
BNPパリバ・アセットマネジメント株式会社 
CEO・代表取締役社長

米国ケース・ウエスタン・リザーブ大学にて修士号取得(オペレーションズ・リサーチ)、青山学院大学大学院国際マネジメント研究科博士後期課程単位取得退学。ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント代表取締役社長、ドイチェ・アセット・マネジメント代表取締役社長を歴任するなど、金融業界で30年以上の経験を持つ。現在、一橋大学大学院および筑波大学大学院の客員教授を兼任。日本ファイナンス学会理事も務める。

藤原延介

藤原延介(ふじわら・のぶゆき)
BNPパリバ・アセットマネジメント株式会社 
投信営業本部 部長

慶應義塾大学経済学部卒業。サステナブル投資を中心としたマーケティング・コンテンツを構築している。ロイター・ジャパン、ドイチェ・アセット・マネジメント、アムンディ・ジャパンなど20年超にわたりリサーチ・投資啓蒙に従事。