現役証券アナリストの佐々木達也さんが、株式市場で注目度が高い銘柄の強みや業績、将来性を解説する本連載。第57回は、JRグループの1社として九州の鉄道を担うだけでなく、ホテルや不動産、小売業など地域に密着した幅広いサービスを行うJR九州(9142)をご紹介します。
- JR九州は鉄道以外に幅広い事業を展開し、街の魅力を高める施策にも取り組む
- 半導体大手TSMCの新工場の経済効果など、九州経済の発展が見込まれる
- JR九州は今期の増益を見込む。非鉄道分野の収益拡大による成長に期待
JR九州(9142)はどんな会社?
JR九州は1987年に、国鉄分割民営化によって誕生しました。正式名称は九州旅客鉄道です。鉄道・バスの運輸網は国際都市の福岡や観光地である長崎、熊本、大分などを網羅し、九州地域の発展に大きく貢献しています。
また、豪華クルーズトレインの「ななつ星」やイベント列車の「SL人吉」「特急A列車で行こう」「或る列車」など、他のJRでは見られないようなテーマや特徴を持った列車も運行しており、九州の魅力を伝える役割も果たしています。
JR九州は鉄道事業に加えて、ホテル・不動産事業、小売り事業、建設事業も展開しています。九州には観光地や温泉地などが多くあり、各地でホテルや宿泊施設などを運営しています。
ターミナル駅周辺エリアでは、多様な住環境や宿泊施設の提供、産官学の交流拠点の整備や安全・安心・衛生な都市機能の提供といったインフラ整備だけでなく、リアルとデジタルを組み合わせた多様な消費・体験コンテンツも提供し、まち自体の魅力を高める施策にも取り組んでいます。
九州経済の活性化が期待される
JR九州には、今後活性化すると期待される九州経済の発展の恩恵が見込まれます。
台湾の半導体の受託製造大手TSMCは、熊本県菊陽町に数兆円の規模で新工場の整備を進めています。工場の研究者や従業員の住居の需要で周辺の地価が高騰し、経済が急速に活性化しています。
九州フィナンシャルグループは、菊陽町に建設中の新工場における県内への経済波及効果が、2022年から31年までの10年間で約4兆2900億円になるとの試算を発表しています。
また、九州はアジアに立地が近いことから、インバウンド(訪日外国人)による経済の押し上げ効果も続くとみられます。
日銀が10月に公表した地域経済報告(さくらレポート)では、九州経済は「緩やかに回復している」とされています。一方、個人消費については長崎の飲食店は「今後、中国人観光客の増加が期待されるが、人手不足により座席の4分の1を間引いて営業しており、対応することが難しい」としています。
北九州の運輸会社は「テナントの飲食店では、時給をコロナ禍前に比べ500円引き上げているが、それでもアルバイトの応募は非常に少なく、人手不足の状態が継続している」としました。
JR九州(9142)の業績や株価は?
JR九州の今期2024年3月期は、売上高にあたる営業収益が前期比8%増の4170億円、営業利益が33%増の457億円を見込んでいます。鉄道、ホテル、流通外食など各セグメントで緩やかな業績の回復が続きました。
12月22日の終値は3081円で、投資単位は100株単位となり最低投資金額は約31万円、予想配当利回りは3.02%です。
11月に発表した2023年4~9月期(上半期)決算は営業収益が12%増の1907億円、営業期が2.4倍の268億円と大幅増益となりました。鉄道旅客運輸収入は、定期外収入が想定よりやや弱含みでしたが、定期収入が想定より強くなり、全体として会社の計画通りとなりました。
株価はコロナ後の2020年8月に2055円の安値まで売られましたが、その後は右肩上がりに株価の戻りが続いています。2023年は3294円の年初来高値を付けていますが、相場全体が大型の外需株、値がさ株などに関心が向いていることもあり、直近では3000円前後と調整含みとなっています。
今後は九州経済の回復による恩恵が見込まれるほか、鉄道の黒字体質の安定化や既存ホテルの競争力向上、流通外食ではブランドや競争力向上などの事業構造改革も進める計画です。非鉄道分野の収益拡大も進むとみられ、今後の事業成長に期待しています。