現役証券アナリストの佐々木達也さんが、株式市場で注目度が高い銘柄の強みや業績、将来性を解説する本連載。第66回は、個人向けの家計簿アプリの最大手であり、会計や人事関連のシステムなど法人向けサービスも幅広く展開しているマネーフォワード(3994)をご紹介します。

  • マネーフォワードは家計簿アプリと、法人向けのバックオフィスSaaSを手がける
  • 法人向けサービスが売上の6割を稼ぐ。過去4期の売上高は年平均40%の成長
  • 今期はEBITDAベースで設立以来初の黒字。日本企業のデジタル化の余地に期待

マネーフォワード(3994)はどんな会社?

マネーフォワードは、東証プライム市場に上場する法人向けにバックオフィスSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)を手がけています。同社が個人向けに展開する家計簿アプリ「マネーフォワードME」も、プレミアム課金ユーザーが前期末で52万人と伸びています。利用している方もいらっしゃるのではないでしょうか?

マネーフォワードは2012年に、辻庸介代表取締役社長兼CEOによって設立されました。辻社長は大学卒業後にソニーグループに入社したのち、個人向けの金融機関を作りたいとの思いからマネックス証券に転籍します。その後、「お金の問題をテクノロジーで解決したい」との志でマネーフォワードを設立しました。

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設立後は個人向けサービス、法人向けサービスがともにユーザーの支持を得て、業績が成長するとともにM&A(買収・合併)を進めて、フィンテック、金融機関向けなど新たな事業領域を拡大しつづけています。

家計簿アプリ
マネーフォワードといえば家計簿アプリのイメージが強いが、法人向けサービスも収益の柱となっている

主力の法人向けバックオフィスSaaSが成長続く

同社の法人向けサービス(ビジネスドメイン)は、売上高の約6割を稼ぐ収益の柱となっています。特に中堅企業向けにサービスが拡大しており、過去4期の売上高は年率平均40%と高成長が続いています。

バックオフィスSaaSでは業務効率化を売りに、会計・確定申告から人事労務・法務・情報システムなど、幅広い領域のサービスを必要なだけ導入できる手軽さが支持されています。

企業の人手不足によるDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展に加えて、電子帳簿保存法の改正や年末調整手続きの電子化などの規制緩和も大きな追い風です。企業向けサービスは解約率が0.8%程度と低いため、一度導入されると安定的なストック収入として積み上がり、現状では売上高の7割以上がストック収入から成り立っています。また、主力の「マネーフォワードクラウド」の課金顧客数は、2月末時点で33万4000件と伸びが続いています。

マネーフォワード(3994)の業績や株価は?

マネーフォワードは4月12日に、今期2023年12月~2024年2月期(第1四半期)の決算を発表しました。

売上高は41%増の95億円と大幅増収となりました。営業利益は9億9200万円の赤字と先行投資のため前年同期に続き赤字でした。しかし、税金や減価償却費、利息などを考慮しない利益のEBITDA(イービットダー)ベースでは、設立以来初めて5億3000万円の黒字を確保しました。

法人向けサービスが中小企業、中堅企業、会計事務所向けにそれぞれユーザー数が伸びました。また個人事業主向けでは値上げ効果により、利益率が向上しました。

【図表】マネーフォワードの株価(2021年9月~直近、週足)
マネーフォワードの株価

5月10日の終値は5896円で、投資単位は100株単位となり、最低投資金額は約59万円、成長投資を優先し配当は現状では無配となっています。

株価はコロナ後の21年9月に上場来高値9190円を付けました。その後は成長一服やSaaS関連銘柄の人気が一巡したこともあり、2022年に3000円割れとなりました。しかし、増収の基調は続いていることから再度評価され、直近では底堅い株価推移となっています。

同社は創業以来開発を続けてきたサービスで、優れたUI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザー体験)を強みとしており、ユーザー層の拡大が続いています。また、経理や確定申告のサービスを軸に全国の商工会議所や金融機関、士業者と培ったネットワークも大きな財産です。日本企業のデジタル化の余地は中小企業を中心にまだまだ大きく、同社の試算によるバックオフィス向けSaaSの潜在市場規模は約2.2兆円と推定されます。

今後も業績拡大とともに株価が上場来高値を再度試す展開になると期待しています。

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