700人以上所属する日本放送作家協会(放作協)がお送りする豪華リレーエッセイ。テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家、そして彼らと関わる様々な業界人たち・・・と書き手のバトンは次々に連なっていきます。ヒット番組やバズるコンテツを産み出すのは、売れっ子から業界の裏を知り尽くす重鎮、そして目覚ましい活躍をみせる若手まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜くユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第190回は、脚本家として活躍しながら、長編小説『蒼天の鳥』で2023年度第69回江戸川乱歩賞を受賞した三上幸四郎さん。

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江戸川乱歩賞を受賞してから1年がたちました

三上幸四郎さんの写真
三上 幸四郎
脚本家・小説家
日本放送作家協会会員

おかげさまで受賞作『蒼天の鳥』(講談社)が出版され、小説の仕事もはじめるようになりました。
関係者のみなさま、読んでいただいたみなさま、本当にありがとうございます。

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さて、昨年の受賞以来、怒濤の日々がつづきましたが、この夏あたりから淡々とした日常が戻ってきて、生活も落ちついてきました。
落ちつくというのはおそらく、「脚本家」の仕事と平行して「小説家」としてのタスクもこなせるようになってきたということなのかもしれません。

そこで今回は、受賞後の取材やインタビューなどでよく聞かれた質問を思い出して、もう一度答えてみたいと思います。
1年すぎると答も変わっている可能性があるし、これから別の分野にトライしてみたいと考えている方の参考になることもあるでしょう。

それではさっそく、ベーシックな質問から。

「30年脚本家をつづけていたのに、なぜ突然、小説を書こうと思ったのですか?」

この質問、すごく多かったですね。受賞直後からいまにいたるまでずっと聞かれていて、同じ答を返しています。
子どものころから江戸川乱歩賞に憧れていて、いつか応募してみたかったから。
どうしても書きたい素材やテーマがあったから。

この2つはまったく変わっていません。

トラリピインタビュー

「小説と脚本、どうやって書き分けていますか?」

これも多かった質問の1つです。
受賞直後はアイデアやストーリー構成は同じ過程で、アウトプットを小説か脚本にするだけです、と涼しい顔で答えていました。
しかしこの1年、新たな小説に取りくんでいるうちに自分のあまりの未熟さに気づいて、冷や汗をかきっぱなし。特に、小説と脚本ではテクニカルな部分でかなり違うことがわかりました。
いまはその違いを意識して、書き分けるようにしています。

小説を執筆している小説と脚本ではテクニカルな部分でかなり違う

技術的な例を1つだけ挙げます。
書き分ける大きなポイントのひとつは、「回想」と「カットバック」です。
小説と脚本という2つの表現形式において、これらはそれぞれ得意分野と不得意分野にあたります。これ以上の詳細は控えますが、このことを意識すると、どちらもかなり書きやすくなると思います。

「小説と脚本の仕事、1日の時間配分は?」

この質問もずいぶんと聞かれました。
最初のうちは、昼は脚本を書いて夜は小説を書いています、と答えていました。
しかし1年ですっかり変わってしまいました。
いまはどちらかを書きはじめたら、それが終わるまで別の仕事をしない、と決めています。小説を書きはじめたら最後まで書く。一段落したら次は脚本に集中する、という感じです。
大変さはどちらも変わりませんが、1つのことをまとめてやってしまった方が早い、と自然に学んだのかもしれません。

時間配分小説と脚本の1日の時間配分は?

ちなみに本文を執筆するのに時間がかかるのは、まちがいなく小説の方です。
脚本は枚数が限られていて文字数も少ないので、1時間のドラマ(原稿用紙6~70枚)なら2、3日で一気にこなせます。つまり、必要なのは瞬発力
一方、長編小説(原稿用紙500枚以上)となると、毎日コツコツと書いていくことになり、完成までに2、3カ月かかります。しかも長期間の孤独な戦いです。つまり、精神力と体力が必須
そのために精神と時の部屋に入って内的パワーをアップさせ、ランニングなどで体力づくりをする必要があります。

「小説の賞を取ると、どのような仕事が来ますか?」

これは、私が教えている脚本講座の生徒たちからよく聞かれる質問です。
この1年で、いろいろな依頼がきました。インタビュー、取材、エッセイ、講師、ネット動画の出演……等々、あと、もちろん小説も。
もともと脚本家は裏方作業ですので、このような依頼は少なかったのですが、乱歩賞をいただいたあと増えました。
これはおそらく、作者の名前が全面に出る小説というメディアの特性なのだと思います。
ちなみに、どれもぜんぶ引き受けています。

さて、今回はここまでです。
次回はこのエッセイの本来のテーマである「お金にまつわる質問」も交えて、答えていきます。

次回も三上幸四郎さん、「続・乱歩賞からの1年後」へ続く!

ぜひ読んでみてください

2023年度第69回江戸川乱歩賞受賞作
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『蒼天の鳥』表紙画像

24人の作家が描くショートショートアンソロジー
これが最後の仕事になる』講談社より発売中!

※「電子の赤紙」という掌編で参加しています

『これが最後の仕事になる』表紙画像

江戸川乱歩賞作家の原作小説を江戸川乱歩賞作家が連続ドラマに脚色!
NHK-FM 青春アドベンチャー『四日間家族

原作 川瀬七緒
脚色 三上幸四郎
NHK-FM 10月28日午後9時30分~ 全10話放送開始!

一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。

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