宮崎県延岡市で保険業や資産運用のアドバイスに携わる小田初光さんが、地方で暮らす生活者のリアルな視点で、お金に関するさまざまな疑問に答えます。今回からは、新興国への投資を勧められたという相談者に対して、新興国の現状と新興国投資の注意点を、ご自身の経験も踏まえながら説明します。

  • 「オルカン」で利益が出た投資家がさらなる資産の成長を新興国投資に求める可能性
  • 20年前にも新興国投資が話題に。当時、中国の経済成長率は10%を超えていた
  • GDPの世界ランキングでは中国やインドが上位だが、一人当たりGDPでは下位

2024年は「オルカン」にお金が集まり、利益が増えた

【質問】
これからはベトナム、インド、中国など新興国にNISAで投資するのも良いですよ~と、主に新興国市場の株式で運用する投資信託を証券会社で勧められました。確かに、今でも全世界株式(オルカン)をやっているので良いかもねと思い、考え中です。発展途上国への投資をどう思いますか? アドバイスください。

新興国市場への投資ですか~。確か20年前にも、金融機関は同じように言っていましたね!
NISAを使った運用が始まってから10年を超え、新NISAも2年目。NISA口座数の伸びは鈍化傾向でも、買い付けは順調に増えてきているとのこと。それだけに、特に初心者は複数の商品に手を出してしまい、自分に合わない商品を買う可能性が高まっていることになります。

実際に運用をしている人から、銀行や証券会社などから新興国といわれる地域(中国、インド、ベトナムなど)の投資信託を勧められたなど、最近多く聞くようになってきています。理由など聞くところによると、日本のような先進国よりは、まだまだ成長をしていく可能性が大きいなどと説明を受けているみたいです。言われてみれば、確かに「なるほどね~」と思ってしまいます。

相談者も、投資初心者にも人気のインデックス型商品である「オルカン」と言われる投資信託を、NISA口座で運用して恩恵を受けているようで、そろそろ次のステップで、さらに儲けたいといった感情が出てくるころです。
特に、三菱UFJアセットマネジメントが運用する『eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)』は外国株を中心とした投信で、2024年に買われた金額は何と2兆円超えとナンバーワンを記録し、今では、純資産総額5兆円を軽く超えています。2018年10月から運用を開始、手数料も安価です。投資先の70%弱が米国株式(米ドル建て)で、2024年は米国株の上昇と円安ドル高が続き、円換算で利益がふくらみました。

これだけドルにお金が集まるのですから、円安の進行も納得できます。6年あまりで急速に拡大した「オルカン」の純資産総額とともに、投資家の利益もふくらんでいることでしょう。今までは米国の一人勝ち状態が続いてきましたので当たり前の結果だと思いますが、相談者のように「成長投資」と言われると、これからは米国株以外にも投資して、さらに儲けたい感情が出る思いもわかります。

2006年当時、中国の経済成長率は年率10%を超えていた

ここからは新興国といわれる地域への投資についてどうなのかを、自身の失敗体験をもとに、今回、次回と続けて検証をしていきます。皆様方がこれからどうするのか、判断の参考になれば幸いです。

まずは新興国を知ることから始めてみましょう。実を言うと20数年も前から「新興国の成長はこれからだ~」と、マネー雑誌などで騒がれていました。それが今ではどうなったのか? 詳しくは次回述べるといたしますが、どんな商品であっても「金融機関の窓口で勧められたから買ってしまった」では、最初から失敗は当たり前のことです。
新興国を調べて、そして興味を持ち、なぜ成長が期待できるのか、通貨は何なのかなど、自身で情報を仕入れる。そうでないと、自分自身の行動に責任が持てません。金融機関に騙されたなど、必ず人のせいにして、批判に走っていくものです。

新興国の定義は、日欧米などの先進国と比較して、現在の経済水準は低いものの、高い成長性を秘めた国とあります。
国の規模などの詳細は割愛しますが、そもそも新興国は本当に成長し続けているのか? 今回はまず、GDPなどを参考に比較しながら見ていきたいと思います。

私が新興国の代表格である中国株、ベトナム株などの運用を開始したのが約19年前。香港証券取引所に上場している中国企業に、香港ドルで株式投資を始めたのが最初です。
当時の中国の経済成長率は何と、毎年前年比10%以上でした。今が5%ですから、いかに高い伸びが続いていたかわかります。

【図表1】中国、インド、ベトナムの実質GDP成長率
中国、インド、ベトナムの実質GDP成長率
出所:IMF World Economic Outlook database October 2024
※中国・ベトナムは2023年以降、インドは2024年以降予測値

2006年当時、世界のGDPの順位は米国、日本、ドイツに次ぎ中国が世界第4位で、ロシア12位、インド14位、ベトナムは58位でした。2024年現在では、米国、中国、ドイツ、日本と続いてインド5位、ロシア11位。中国は世界第2位の座になり、ベトナムは34位です。
ビックリするのはロシアで、紛争中、経済制裁中でも成長はそれほど止まっていないのがわかります。

【図表2】各国の名目GDP(米ドルベース)の順位の推移
2006 2011 2016 2021 2024
米国 1 1 1 1 1
中国 4 2 2 2 2
ドイツ 3 4 4 4 3
日本 2 3 3 3 4
インド 14 10 7 5 5
ロシア 12 9 12 11 11
ベトナム 58 54 44 40 34

出所:IMF World Economic Outlook database October 2024
※インド以外は2023年以降、インドは2024年予測値

日本成長の低迷の主な原因は為替にも関係して、円安ドル高(2006年当時は1ドル=110円前後)、物価高による個人消費の低迷、企業設備投資の伸び悩みなどが考えられています。

GDPとは「国内総生産」とも言い、一定の期間内に各国で生産されたモノやサービスの付加価値の合計を表します。その国の経済状況を示す指標として使われています。簡単に説明すると、その国が「いかに儲けたか」ということです。

一人当たりGDPの上位に新興国はない

さらに、一人当たりGDPのランキングを見ると面白いことに気づきます。一人当たりのGDPとは、国のGDPを各国の人口で割った数値で、国の平均的な豊かさの指標になります。ある意味で、幸福度ランキングと言えるでしょうか。
この順位を見ると、ルクセンブルク1位、スイス2位、アイルランド3位、米国6位、ドイツ17位、日本39位、ロシア68位、中国73位、ベトナム123位、インド142位です。

【図表3】各国の一人当たり名目GDP(米ドルベース)の順位の推移
2006 2011 2016 2021 2024
ルクセンブルク 1 1 1 1 1
スイス 5 4 2 3 2
アイルランド 7 12 5 2 3
米国 10 17 7 7 6
ドイツ 21 20 18 18 17
日本 22 19 25 27 39
ロシア 64 57 74 67 68
中国 124 98 77 65 73
ベトナム 153 145 136 127 123
インド 161 154 150 147 142

出所:IMF World Economic Outlook database October 2024
※インド以外は2023年以降、インドは2013年以降予測値

一人当たりGDPの上位に新興国はなく、下位にしかありません。これをどう考えればいいか?
下位だから、新興国はまだ豊かになる可能性があると考えるか? いえいえ上位だから先進国なら安心して買えるのか?
どうも上位各国に言えるのは、若い世代の労働生産性の高さが顕著であることから、出生率の低下や人口減少問題にそれほど困っていない。要は将来の経済の安定が期待されるからこの順位、ということかもしれませんが、そうとも言えないのです。

次回は私の経験談から考えていきます。