現役証券アナリストの佐々木達也さんが、株式市場で注目度が高い銘柄の強みや業績、将来性を解説する本連載。第98回は、「ウォシュレット」のブランドで有名な温水洗浄便座で知られる住宅設備機器メーカーで、近年では半導体製造装置に使われるファインセラミックス製品の製造も手がけるTOTO(5332)をご紹介します。
- TOTOはトイレや浴室などの水回りの衛生陶器の最大手。強みは技術開発力
- 衛生陶器の製造で培った半導体製造装置向け製品が今後の成長を担う位置付け
- 株価は下値を切り上げ、PBRも評価の余地がある。半導体の需要増に期待
TOTO(5332)はどんな会社?
TOTOは住宅設備機器メーカーで、トイレや浴室などの水回りの衛生陶器の最大手です。主力事業は国内向けの日本住設事業で、売上高の約7割を占めています。
近年では海外での事業に注力しており、海外住設事業の売上高は約3割弱です。さらにセラミック技術を活用した新領域事業であるセラミック事業という、3つの事業から成り立っています。
TOTOは創業者の大倉和親氏によって1912年に設立された「製陶研究所」が前身です。大倉氏は欧州視察で真っ白な衛生陶器を目にし、「いずれ日本にも衛生陶器の時代が来る」と確信しました。当時の日本のトイレは汲み取り式で衛生的にも不十分な環境だったこともあり、大倉氏は「国産の衛生陶器の普及は社会の発展に必ず貢献する」との思いを強めていきました。
その後1917年に東洋陶器株式会社を設立し、現在の社名の「TOTO」の由来となるとともに、会社の基礎としてその後の発展につながっています。
新領域のセラミック事業に注力
TOTOの強みは有名な「ウォシュレット」に代表されるように、常に新しい価値を創造する革新的な技術開発力が最大の強みです。

「ウォシュレット」は早くから欧米の市場に進出し、長く苦戦を強いられていたものの、近年になり高級ホテルなどで採用が増えてきている(写真はイメージです)
新領域のセラミック事業では、衛生陶器の製造で培った高度な技術を応用し、半導体製造装置や電子部品に使われるファインセラミックス製品などを開発・製造しています。この分野は、TOTOの未来の成長を担う重要な事業と位置づけられています。
近年需要が伸びているのが、半導体の製造装置内で用いられるセラミック製の「静電チャック」です。静電チャックは、真空・プラズマ環境下において静電気で材料となる半導体ウェハーを固定するためのセラミックス部品です。近年のAIによる半導体市況の伸びを受け、さらなる需要の拡大が見込まれています。
さらにデジタルトランスフォーメーション化やAIの導入による生産のスマート化により、利益率の拡大に取り組んでいます。
TOTO(5332)の業績や株価は?
TOTOの今期2026年3月期決算は、売上高が前期比4%増の7535億円、営業利益が8%増の525億円と増収増益を見込んでいます。
日本住設事業は価格改定やコスト削減などで増収増益を見込んでいます。海外住設事業は、不動産市況で住宅設備が不調な中国向けは今後の収益拡大に向け、構造改革を断行します。他方で米国向けはブランド知名度の認知も進んでおり、ウォシュレットの拡販などを予想しています。

9月11日の終値は4088円で、投資単位は100株単位となり、最低投資金額は約41万円です。予想配当利回りは2.5%です。株主優待は白米やトイレットペーパー、カレンダー、焼酎などのいくつかの選択肢から1つを選んで受け取ることができます。権利確定月は3月です。
主力の日本住設事業は国内の人口減少を背景に市場が縮小していることもあり、今後はリモデル需要の取り込みや高付加価値商品の展開がポイントになります。節水・省エネ性能の高い商品、デザイン性の高いシステムキッチンやユニットバスなどの需要の掘り起こしに注力します。
株価はここ10年は3000円から7000円のボックス圏で推移しています。特に21年以降は、コロナ禍の影響や中国の景気減速で下落トレンドが続いていました。
ただ日足で見ると4月の3269円の安値からは徐々に下値を切り上げており、短期のトレンドは悪くありません。新領域のセラミック事業も売上高の規模はまだまだ小さいものの、半導体の需要増で今後も成長が期待されています。
PBR(株価純資産倍率)も1.34倍と解散価値に比べてまだまだ評価される余地があり、中長期の成長を見込んで安値圏のうちに仕込んでおきたい銘柄の1つと考えています。