どんな場面でも常に高いリターンを上げられる金融商品はありません。どんな金融商品にも必ず「得意な局面」と「苦手な局面」があります。現役証券アナリストの佐々木達也さんが、今人気の金融商品や注目セクターの「とくい」と「にがて」を徹底分析する新連載。記念すべき第1回は、2024年1月にスタートした新NISAをきっかけに爆発的な人気となった投資信託『オルカン』に迫ります。
- 日本を含めた世界の株式に投資できる『オルカン』。手数料の低さも大きな魅力
- 地域別組み入れ比率は米国が約6割。米国株の動向や為替が基準価額の変動要因
- 世界景気が拡大する局面が得意。短期で大きく増やしたい場合には向かない
『オルカン』はどんな商品?
近年、NISAでの積立投資で圧倒的な人気になっているのが投資信託の『eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)』、通称『オルカン』。投資をしたことがなくても、ニュースなどで名前を目にされたことのある方も多いのではないでしょうか?

出所:三菱UFJアセットマネジメント
全世界の株式に投資できる。純資産総額は国内2位
『オルカン』は、日本を含めた世界の企業の株式に分散投資を行うインデックスファンドで、先進国から新興国まで全世界の株式に投資できます。インデックスとは、日経平均株価のような株式指数を指します。
2018年に設定されて以来多くの個人投資家に支持され、直近の純資産総額は約8兆円と、投資信託全体で2位の残高となっています(2025年10月24日時点)。
| 順位 | 商品名 | 純資産(億円) |
|---|---|---|
| 1 | eMAXIS Slim 米国株式(S&P500) | 90437 |
| 2 | eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー) | 80927 |
| 3 | アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信Dコース毎月決算型(為替ヘッジなし)予想分配金提示型 | 34779 |
| 4 | インベスコ 世界厳選株式オープン<為替ヘッジなし>(毎月決算型) | 28119 |
| 5 | SBI・V・S&P500インデックス・ファンド | 24460 |
※ETF、ラップ・SMA専用、マネー型を除く追加型株式投信が対象
連動対象の株価指数は世界の時価総額の約9割をカバー
正確には、米金融サービスのMSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)が公表しているMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(MSCI ACWI)という株価指数に連動するように運用します。この指数は、先進国と新興国の大型株・中型株の時価総額の約9割をカバーしています。
『オルカン』の魅力と価格の変動要因
知識がなくても、世界の企業に低コストで投資できる
『オルカン』の魅力は、海外投資の経験や知識がなくても、世界の代表的な企業に分散効果できるという点です。またほとんどの金融機関で購入時や解約時にかかる手数料が無料、信託財産から間接的に引かれる信託報酬は年率約0.06%程度と、非常に低コストなのも魅力です。
投資信託なので、ファンドマネジャーが前述のMSCI ACWIインデックスに連動するように運用してくれます。また、インデックス自体も定期的に銘柄の入れ替えをしています。時価総額や売り買いのしやすさが下がった銘柄を除外し、上がった銘柄を新たに組み入れています。
米国株の動向により価格が変動しやすい傾向
『オルカン』の現在の株式の国・地域別組み入れ比率は米国が約6割と多く、世界景気だけでなく米国株の動向に左右されます。これは、対象のインデックスが時価総額の大きい銘柄を優先する「時価総額加重平均」で銘柄が選定されるためです。
直近の組み入れ比率が上位の主な銘柄はアップルやマイクロソフト、アマゾン・ドット・コム、エヌビディアといった、米国のハイテク株の比率が高くなっています。株式が値上がりしやすい世界景気の拡大局面では基準価額は値上がりすることが多く、逆に景気の悪化局面では値下がりするケースが多くなります。
| 順位 | 銘柄 | 比率 |
|---|---|---|
| 1 | エヌビディア | 4.8% |
| 2 | アップル | 4.1% |
| 3 | マイクロソフト | 4.0% |
| 4 | アマゾン・ドット・コム | 2.3% |
| 5 | メタ・プラットフォームズ A | 1.8% |
出所:三菱UFJアセットマネジメント
また、外貨に投資するため、為替の円高、円安も基準価額の変動要因となります。
投資対象がほぼ外国株式なので、基準価額の変動率はかなり高めです。日本の国債、海外の債券、日本株投信に比べてリスクは大きく、株式の価格変動リスク、為替リスクやカントリーリスクなどの影響を受けます。
『オルカン』の得意な局面・苦手な局面は?
世界景気の拡大局面と円安局面でメリットを享受
『オルカン』が得意とするのは、世界景気がほどよく拡大する局面です。また、現在のようなAI(人工知能)によって各国のハイテク銘柄がそれぞれ値上がりするような局面でも、分散投資のメリットを享受できます。
そのほか、現在のように日本の金利が低く抑えられる一方、米国など海外の金利が高止まりする状況も、金利の安い円を売って金利の高い外貨を買う動きで、円安メリットを享受しやすい局面となります。
景気が下押しされれば値下がりは避けられない
逆に苦手なのは、例えばリーマン・ショックのような世界の景気がなにがしかのショックで大きく下押しされるような局面です。各国に分散投資しているとはいえ、投資しているのは値動きの大きな株式なのでこうした場面では値下がりは避けられません。
短期間に大きな値上がりを狙いたい局面には不向き
また、リスクを取って短期で大きく値上がりを狙いたいような局面にも向いていません。このようなケースでは、個別銘柄への選別投資が適しています。
さらに、現在の日経平均株価の値上がりのように、特定の国の株価が大きく上昇するようなケースも同様です。『オルカン』の日本株への資産配分比率は約5%のため、基準価額の値動きは、日経平均株価の値動きなどとは全く違うものになります。
まとめ
オルカンは投資信託のため、自身で銘柄選びや情報収集をする必要がありません。世界全体の成長を期待して、長期で世界の株式に分散投資するのに適した投資商品です。NISAのつみたて投資枠を使って定期的で買い付けを行う積立投資や、投資初心者の方の長期投資にも向いています。
『オルカン』の活用法
- 世界の株式に分散投資して、長期で相対的に高いリターンを狙う
- NISAのつみたて投資枠を活用した、投資初心者の方の積立投資
『オルカン』の得意・有利な局面
- 世界景気がほどよく拡大するとき
- 為替が円安に動くとき
『オルカン』の苦手・不利な局面
- 世界の景気が大きく悪化するとき
- 短期的に大きな値上がりを狙いたいとき
次回(11月11日公開予定)は、2025年になって急激に値上がりした「金(ゴールド)」を見ていきます。

















