テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第104回は、ゲーム業界のシナリオライターとして活躍する森田歩さん。
憧れはソシャゲのクリエーター
ゲームシナリオをメインの仕事にしている僕は、放送作家協会の中ではわりと珍しい部類なのではないかと思う。
そんな自分が最近の仕事の中で思うことといえば、おおげさな話だが、クリエイターの在り方とはどうすればいいのか、ということだ。
今どき、ネットに触れない人なんて、ほとんどいないだろう。
小さな子どもがスマートフォンを持っていても違和感を覚えなくなってきた昨今、ネットを通じて人々がコンテンツに触れる機会は、より気軽で幅広いものになったように思える。
映像、書籍、音楽などをはじめとした様々な配信サービスがいくつもあって、個人が創作物を多くの人に対して提供することのできる環境も増えてきた。
そうやってコンテンツが飽和し、誰もが気軽にそれに触れるようになった時代の中で急速に発展してきたもののひとつがソーシャルゲーム事業だ。
(※ソーシャルゲームとは主にSNS上で提供されるオンラインゲームのこと、略してソシャゲ)
「今月はソシャゲにいくら課金してしまった」と憂鬱になった経験のある人も、きっと少なくはないだろう。
ソーシャルゲーム市場は近年急速に拡大し、次々に新しいタイトルが生み出されている。そんな流れも関係しているのだろうか?
最近はゲームクリエイターになりたいと希望する人も少なくないと小耳に挟んだ。
ソーシャルゲームというのは数々あるゲームジャンルのひとつでしかないが、触れる機会が多い分、ゲームクリエイターとしてソーシャルゲーム制作に関わることをイメージする人も少なくないのではないだろうか。
「好きなものは仕事にしない方がいい」なんて話はよく聞くけれど、僕自身、好きじゃないことは頑張れないタイプだし、それ自体は悪いことだと思わない。
ただ、クリエイターという職業を目指してこの業界に飛び込んだ結果、後悔することがあるかもしれないとは思う。
夢がないクリエイティブなんて!
クリエイティブというのは、なんとなくかっこいい言葉ではないだろうか。
自分の感性からものを生み出して世に送り出す職種、あるいは芸術家のような印象をクリエイターに抱いている人もいるかもしれない。
けれど多くの場合、その実情は想像よりも生々しかったりする。
ソーシャルゲームに限った話ではないだろうが、様々なコンテンツにおいて、他よりも多くの顧客を集めるための工夫がされている。
ゲームを例にするのであれば、より面白く斬新なゲーム性を実現すべく大規模な開発体制が組まれ、価値の高いストーリーやビジュアルを制作するために著名なクリエイターを起用、さらに各種広告が活用される。
いわゆる、市場競争というやつなのだろう。結果として、制作予算が数億円規模、なんて話も今や普通のことになった。そして、そうやって莫大なコストを投じた分、相応の成果は求められるわけで……。
ただ、クリエイティブにおける成果とはなんだろう?
「面白いものを作った」
「お客さんが喜んでくれた」
それで終われないのが苦しい話で、製品の制作やサービスの提供において、成果というのは、どうしても売上や利益という部分で計られることがほとんどだ。
シナリオでも、あるいはイラストや楽曲でも、なんならプログラムでもいいが、自分が作り出したものが売上に対してどれほど貢献したかという数字的なところで評価されるわけだから、なんとも夢のない話だと思う。
かといって、夢がないんじゃクリエイティブなんて出来ない気もする。
コンテンツの消費が加速して、クリエイティブがそうやって価値付けされる中、クリエイターとして自分の夢や理想を追い続けるためにはどうしたらいいのか。
それはきっと人によって違っていて、取り巻く環境であったり、巡り合わせであったり、そういったいろいろな要素によって取るべき選択は変わるのだろう。
僕の場合はどうだったろう?
それらしい言葉で飾るのであれば、市場を分析して顧客が求めるものを予測し、その中で自分なりの面白さを表現できる隙間を探し続けてきた……とかになるのだろうか。
ただ、そんなのは結局のところ後付けの理由で「がむしゃらに頑張ったら、その努力がたまたま状況にハマる時がある」というのが一番正しい言い方なんじゃないかとも思う。
コンテンツ消費の時代で、クリエイティブという仕事で食べていこうと決めた人に必要なのは、ものごとに取り込む情熱と、目の前のことに全力を出す気力、そして理想と現実のギャップに折れずに挑戦し続ける気持ちなのかもしれない……と考えたところで気づいた。
多少の違いはあるかもしれないが、そういうものが求められるのは、別にどんな時代でも変わらないのでは?
手に入る情報や知識が増えたことで逆に迷うことが増えたけれど、結論はシンプルなのかもしれない。
自分がやりたいと決めたことなら、諦めずに自分なりに努力し続ける。
ただ、そういうシンプルなことが難しいから「好きなものを仕事にするのはやめたほうがいい」なんて言葉が生まれたのだろう。
なんとも泥くさい話だが、正直僕は変にインテリぶった感じよりは、これくらいの根性論のほうが好みだったりする。
次回は、原哲子さんにバトンタッチ!
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。