テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会(放作協)がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
9月18日に創立64年を迎えた日本放送作家協会。
連載第144回は、恋愛ドラマからバレエ物語まで、女性のハートに愛を灯し続ける作家、梅田みかさん。

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構成作家の先輩・さらだたまこさん

梅田みか
梅田みか
放送作家
日本放送作家協会会員

さらだたまこさんから、久しぶりにメールが届いた。原稿の依頼だった。「お金にまつわるエッセイ」、内容を考えるより先に「やります!」と返事を書いた。だって、たまこさんからの頼みを断るなんて選択肢はわたしの中にないから。

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たまこさんとは30年ぐらい前、ニッポン放送「高島秀武のおはよう! 中年探偵団」という朝の情報番組で一緒に仕事をしていた。ハッと目を引く個性的なファッションで、真っ赤とか鮮やかなグリーンなんかを派手に品よく着こなすたまこさんのまわりには、いつもどこか異国の香りが漂っていた。

最初ちょっと近寄りがたい先輩かと思いきや、気さくに話しかけてくれて、「みかちゃんの彼はどんな人なの? 私のダーリンはね……」と恋愛トークで盛り上がったり、コーナーのネタ集めを兼ねてグルメなたまこさんお墨付きのレストランやバーに連れていってもらったり……あっという間にたまこさんは大好きな先輩になった。

アナウンサーの石川みゆきさんと3人で、バリ島や済州島に取材旅行にも行った。たまこさんは旅先でその国の民族衣装を纏ったり、美容室で流行りのヘアスタイルやメイクに挑戦したりする。それがまた、もともとそういう格好でしたっけ? と思うくらい、しっくりと似合うのだ。わたしはそんな勇気がないから、きらきらと楽しそうなたまこさんを見て楽しんでいた。

3人でいると不思議と男性たちが寄ってきて、それぞれ好みのタイプがまったく違うからケンカにもならず、ひとときのアバンチュール気分を楽しんだり、それを報告しあってまた夜中までシャンパンやワインを飲んだり……ああ、なんて楽しい旅だったんだろう!

トラリピインタビュー

バリ島での旅行のイメージ
バリ島などに旅行に行くと、きらきらと楽しそうなたまこさんを見て私も楽しんでいた

お金がない!

その頃のわたしは本当にお金がなくて、財布の中に500円玉1個、なんてこともよくあった。お金に関して計画性がまったくないわたしは、勤めていた出版社を2年足らずでやめてしまったり、後先考えずに実家を飛び出してアパートを(それも代官山に)借りたりしたものだから、毎月、次の家賃が無事に払えるかどうか、綱渡りのような生活だった。

構成作家仲間たちには、「お前、小学生の財布じゃないんだから!」「あんな便利なところに実家があるのにひとり暮らしするなんてバカじゃないのか!?」と言われ続けたけど、わたしはやっと手に入れた自由を絶対に手放したくなかった。

そんなわたしがなんとか食べていけたのは、バブル景気の恩恵で、右も左もわからないド素人構成作家のわたしにも絶えず仕事があったこと、そしてたまこさんをはじめとする各方面の先輩方が、毎日毎日かわるがわる、食事やお酒をおごってくれたからだ。

500円玉1個のイメージ
財布の中に500円玉が1個で、「小学生の財布じゃないんだから!」と仲間に笑われた

昼はだいたい、みんなで打合せがてら、当時、有楽町にあったニッポン放送ビルの地下の食堂で食べた。わたしは魚介の入ったスープスパゲティが気に入りで、「よく飽きないなー」とあきれられながらそればかりご馳走になった。夕方から夜にかけて、番組のテーブルで原稿を書いていると、誰かしらが「飲みに行くぞー」と声をかけてくれて、居酒屋や何かの美味しい店でまたご馳走になる。この頃、食費はほとんどかからなかった覚えがあるから、わたしのような下っ端にとっては本当にいい時代だったとしか言えない。

慣れない仕事はとにかくきつくて辛くて、自分のふがいなさにトイレで悔し涙を流すこともしょっちゅうだったけど、出会いと刺激に満ちた新しい世界は魅力的だった。それからだんだんと担当する番組が増え、振り込まれるギャラの額も上がって、毎月の家賃にハラハラすることもなくなった。でもあの頃の、お金がなくても幸せな日々は、やっぱりわたしにとって特別な時間だったと、今でもなつかしく思い出すのだ。

次回は高橋泰源さんへ、バトンタッチ!

是非見てください!

2016年から手がけている本格バレエ物語、「エトワール!」シリーズ第1巻~12巻(講談社青い鳥文庫)が発売中です。最新刊『エトワール! 13 お菓子の国の舞踏会』は2024年2月中旬発売予定。

エトワール! – 青い鳥文庫

『エトワール 12 恋するシルフィード』(青い鳥文庫)表紙

今回、お金にまつわるエッセイを書きましたが、お金にまつわる短編小説集も書いています。『幸せの値段』(小学館文庫)は、電子書籍で読むことができます。

幸せの値段 – 小学館

『幸せの値段』(小学館文庫)表紙

脚本を手かけた連続ドラマ「カンパニー~逆転のスワン」(NHKBSプレミアム・2021年放送)は、第37回ATP賞テレビグランプリ・ドラマ部門優秀賞を受賞しました。Kバレエカンパニー全面協力のもと、ドラマの中で本物のバレエシーンが堪能できる作品です。ぜひ、一気見してみてください!

カンパニー 逆転のスワン DVD-BOX 全4枚 – NHKエンタープライズ

「カンパニー~逆転のスワン」表紙

一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。

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