宮崎県延岡市で保険業や資産運用のアドバイスに携わる小田初光さんが、地方で暮らす生活者のリアルな視点で、お金に関するさまざまな疑問に答えます。今回は、リタイア後に退職金などのお金をどう取り崩していけばいいのかという悩みに対して、老後を心配せずに過ごすためのお金との向き合い方をアドバイスします。

  • 「老後2000万円問題」を心配しすぎない。65歳からでもお金は貯められる
  • 日本経済を良くするために、そして自分自身のために、老後こそお金の使い方が大切
  • 子どもや孫には投資教育も兼ねて、「残す」のではなく「使う」ことで貢献する

65歳からでもお金を蓄えることはできる

【質問】
もう60を超えて体の衰えも見えてきましたが、お金の運用で、少しは老後の生活も何とかなると思えてくるようになりました。そこで考えているのは、仕事を退職した後、資金が2000万円あれば、どのくらいずつ取り崩していけば安心した生活が過ごせるのか、ということです。何か名案などあるのですか?

金融庁が「老後資金2000万円不足問題」で国民を煽ったことで、ますます日本人の「貯金好き」な性格が刺激されて、このような質問にもつながっていると思います。老後におけるお金の不安に対して、「お金は使わずに貯めるもの」と、飛んだ勘違いを生んでしまったとも言えます。

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2019年報告書によると、夫65歳以上・妻60歳以上の高齢夫婦は毎月5.5万円の不足があり、20年間で約1300万円、30年間で約2000万円のお金を取り崩すことが必要になるとのことで、これが「老後2000万円問題」として広まりました。年金額などの具体的な数字が出たために、多くの人がよけいに焦ってしまったのが実情です。

金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」

実は、この数字の根拠はあいまいなもので、最近の物価上昇などが反映されたものでもなく、当時の平均値から取り上げた金額です。その平均値だけを取り上げても、国民の多くが当てはまるものでもありません。また、老後の生活が20年間はあるとしても、老後が30年、つまり60~65歳から90~95歳までの長生きに、多くの方は当てはまらないでしょう。老後の30年で2000万円が本当に不足するとしても、冷静に考えれば、さほど心配することはありません。

例えば、65歳から年金をもらいながら、無理のない範囲で年間120万円の仕事を5年間続けることで、680万円くらいのお金を蓄えることも十分可能です。これは月10万円を5年間積立投資して、複利5%の運用となった場合です。月10万円を10年間積み立てて、複利9%だと、2000万円弱のお金を蓄えることも可能なのです。65歳から10年間でも75歳ですので、男性でもギリギリ健康寿命として働くことができます。

働けるうちは楽しく働きながら、「預貯金で預けておくより、増やせることを意識する運用」を知ることが必要です。特に、高齢になってそのままになっている預貯金、タンス預金は、リスクを抑えた投資を心がけながら運用していくこともありです。ですから、若い年代からいろいろな我慢をしながら2000万円を作る必要はありません。自分のために「お金を使う」ことも知る必要もあります。そして、自分が生きていくためにお金はいくら必要か、不足はいくらなのかを漠然としてでも考えてみると、先の不安は取り除けるはずです。

介護のために、子どもや孫のためにお金を使う

ところで、60歳からの「お金の使い方」になると、さまざまな案件を見据えて考えていかなければなりません。

ここからは相談者のお金の取り崩し方について、「高齢になるほどリスクがある」というお話をしていきます。前回の最後に「忘れないでください。自分の老いがあることを」とした続きと考えてください。

新NISAは運用も取り崩しも無理のない範囲で

お金が足りない足りないと言って不安を煽る日本、いまだに減少しないタンス預金やお金を貯める慣習、「お金の使い方」を知らない日本人。今のこの現実と、理想とのギャップをどうすればいいのか? 日本経済を良くするには、老後世代に突入した方々の「お金の使い方」を再構築していくのが、国に果たしてもらいたい使命だと思っています。

さて、老いを感じてくる年代ともなると、自分の健康もそうですが、それ以上に親の終末期(介護など)も課題となってきます。現在では「自分の終末期は自分のお金を使って完結する」が少なからず浸透していますが、高度成長期の頃は、そうした感覚は皆無に等しいと言わざるをえません。「親の面倒は近いものが見る」という考え方が、後の遺産相続トラブルになっていきます。老老介護がその最たるものとなりますが、介護保険も含めた社会保障制度や民間のサービスを、ためらわずに使っていくことです。

そして自分の財産は配偶者に半分の権利があるわけで、その配偶者も亡くなるまで、子どもにはすべての財産は渡りません。今の平均寿命では、子どもに財産が渡るころには、子どもも60歳を超えていることから、相続があっても親からの財産を使うことなく、また次の代へ残そうとしていきます。ここに貯めることが好きな国民性も手伝って、「お金の使い方を知らない」となっていきます。

私は自分のためにも、そして子ども自身のためにも、後ろの世代にお金を残す必要はないと考えています。遺産相続のトラブルの種にもなるし、年齢的にも仕事を退職していることも多く、誰でも老後の不安を抱えているため、「少しでも自分のための蓄えがほしい」となります。また、配偶者がいれば配偶者の焚き付けも発生し、話し合いどころではなくなります。

子どもや孫に対しては、自分が亡くなってからではなく、生きているうちに何とかして貢献したいものです。そこで1つの「お金の使い方」として、子どもや孫には「投資教育」としてお金を使ってはいかがでしょうか。

祖父母と孫
お孫さんのためにお金を「のこす」のではなく、「使う」「投資する」という考え方

例えば、子どもが事業をしているならば、子ども自身ではなく、事業に出資する。孫が海外に留学するなら、費用を捻出してあげる。このように「お金を回して使う」ことで、経済を動かすこともできます。そしてこれこそが、金融リテラシーの欠如を埋める手段ともなります。たとえお金を使ったことで事業に失敗しても、その経験はお金について深く考える材料になり、社会を生き抜く力となるはずです。

そして「生きたお金」を使ったことにより、親を大事にする気持ちは心にも残っていきます。私は「お金は使ってこそ幸せになれる」と信じています。もちろん使い方にもほどほどがありますが、タンスにしまい込んだお金は、何も貢献できない無駄なお金だとも思えてなりません。

最後になりますが、60を超えたならば、お金の取り崩し方というよりは、「お金の回し方」をできる範囲でやることが、困らない老後の生活につながることを知ってください。何事も焦らずに。

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