パソコンで仕事をする際に欠かせないアプリのひとつが、マイクロソフトの「Excel」です。表計算アプリのデファクトスタンダード(事実上の標準)でありながら、苦手意識を持つ人が多いのもExcelの特徴。そんなExcelの使い方や、近年ビジネスでの利用が急激に増えている生成AIの活用法などを教える「Training Camp」という研修サービスを提供しているのが、2018年に設立した株式会社DIK&Companyです。ExcelやChatGPTの研修のことや、Excelのスキルをプライベートでも役立てる方法などについて、同社の創業者であり代表取締役の中田元樹さんにお話をうかがいました。
DX教育サービスの需要が拡大
「Training Camp」という研修事業では、どんな研修をしているのでしょうか?
![中田元樹さん](https://mon-ja.net/assets/img/2024/11/nakata-genki-photo.jpg)
株式会社DIK&Company
代表取締役
中田 元樹さん
中田さん 主にExcelやPowerPoint、ChatGPTの研修をしています。最近は生成AIを活用する企業が増えていることを受けて、ChatGPTなどを用いた「BotCamp」(ボットキャンプ)という研修も人気です。Excelや生成AIを活用することで自分の「ボット」、つまり分身を作るような感覚で、仕事の効率化につながるような研修となっています。
これらの研修は、どのような方が対象なのでしょうか?
中田さん 個人や法人、初心者から上級者までさまざまな方を対象としていますが、やはり多いのは法人のお客さまです。特に大企業の方が多いですね。どの業種が特に多いということはなく、パソコンを使う仕事であれば、どんな業界の方にとっても役立つ研修です。
![Excel研修](https://mon-ja.net/assets/img/2024/11/excel-camp.jpg)
Excelなどの研修はウェブサイトで参加を受け付けている
近年は「DX」(デジタルトランスフォーメーション)という言葉も一般的になり、DXを担う人材の育成が、多くの企業にとって重要な課題となっているようです。最近のそうした動きについてどう見ていますか?
中田さん DXとは企業にとって全社的な取り組みで、例えば基幹システムを入れ替えるようなコストと時間を要する改善もありますし、生成AIをシステムに組み込むといった施策もあります。非常に大がかりな作業であるとともに、なかなか自社だけでは完結しないものです。
また、企業が本気でDXに取り組もうとすると、社員ひとりひとりの「DX力」が問われることになります。システムの構築と並行して、社員のデータリテラシーを高め、DX人材として活躍できるよう導いていくことも必要です。そうした背景から、会社の外でDX人材を育てるためのサービスの需要が増しているように思います。「DX教育サービス」を手がける業者も急速に増えているようです。
「DX人材」は実務に生かせるスキルが重要
今はITや情報処理に関する資格もたくさんあります。
中田さん DX人材の育成ということで、従業員にITパスポートの資格を取得してもらうとか、基本情報技術者試験を受けてもらうとか、もちろんそうした方向性もありうると思いますが、すべての方がそうした体系を身に付ける必要はないと思います。これらのIT知識に関する資格は、学習しないといけない分野がやや幅広すぎる傾向があり、現実の業務ではそこまで網羅的な知識を求められる仕事は多くありません。
それより、一般の社員の方々がすぐに実務に生かせるスキルを身に付けていくことが重要ではないかと考えています。資格取得の「お勉強」で終わらないように、実務インパクトを狙った学習を設計すべきです。
最近では、ChatGPTに代表される生成AIを活用する取り組みを多くの企業が進めています。ただ、せっかく仕組みを導入しても、社員の方がなかなか使ってくれないと悩む経営者の方も多いようです。
中田さん 成功している企業は何をしているかというと、各現場で生成AIをどう使えば効率化が図られるかという具体的なアイディアを発掘して、それをボトムアップ式に会社全体で共有していくというやり方です。そのためには、必ずしもITやデータ処理などの高度な専門性を持った人材をそろえる必要はないと思います。
むしろ、部門別の実務について細かいレベルで理解を深めることとのほうが重要です。業務の理解に加え、生成AIが得意なこと、不得意なことを理解できれば、「このような場面で活用できるのでは」という洞察が生まれてくると思います。
Excelは反復練習を通じて「手で覚える」
そのための方法論として、データを整理して扱うのに便利なExcelの使い方を身に付けるのは重要になりそうです。とはいえ、私の周りではExcelが苦手な人も多い印象で、人によっては身に付けるのが難しそうな気もしてしまいますが、いかがでしょうか。
中田さん 体系立てた研修を受けることで、誰でもできるようになります。ホームページでは「頭で覚えず、手が覚える」と書かせていただいていますが、本気でExcelでデータ活用をしようと考えるなら、操作能力を高めることが何より大切だと考えています。もちろん人によって個人差はありますが、一から学び直すつもりで練習すれば、操作感が大きく変わるはずです。
実はExcelの動作は、セルの選択と移動だけで7割以上を占めています。その操作をマスターするだけで、スキルは格段に向上します。具体的には、マウスを使わずに4つの矢印キーとShiftキー、Ctrlキーの使い方を反復練習して、セルの範囲の選択や移動をスムーズにできるようにする。そういったところから始めるのが私たちの研修です。表計算やデータ分析といった知識の前に、すぐに実務で使えるスキルを1日で身に付けていただくというコンセプトです。
ChatGPT研修では、どのようなことを教えるのでしょうか?
中田さん 大きく2つあります。1つはプロンプト(入力する指示・質問)の書き方を教えることです。「プロンプトエンジニアリング」の分野はややマニアックになりがちで、複雑化しています。当社の研修では「プロンプト シンプル」の考え方に基づき、生成AIから期待する回答を誰もが簡単に、短時間で引き出す演習をすることを大切にしています。業務効率化のためにChatGPTを使うと考えた場合、プロンプトを書くのに膨大な時間がかかっていたら、本末転倒ですから。
もう1つが私たちのChatGPT研修の特徴で、例えば「報告書の作り方」といった実務上の具体的なユースケースに沿って、研修内容をカスタマイズしていることです。企業ごとに研修の内容を変えています。このような生成AIの実践的な使い方も、1日で学べるのが私たちの研修です。
Excelはプライベートでも「進捗管理」に使える!
Excelを仕事だけでなく、生活でも役立てるためのおすすめの方法はありますか?
中田さん よく言われるのは家計簿ですけど、もっと簡単な活用法はWBS(作業分解構成図)、つまり進捗管理ですね。
例えば、何月何日に結婚式をすると決めたときに、式の当日までにやらなければいけないタスクをすべて洗い出してExcelに書いて、それぞれのタスクをいつまでに終わらせるという期限を記入します。
Excelが優れているのは、行と列の2次元で構成されていることです。人が直感的に理解でき、なおかつある程度複雑な情報を扱えるのが2次元です。これが3次元になると、複雑すぎて理解できなくなります。一方で、スマホや手帳のメモ書きのような1次元の情報では足りません。この2次元のわかりやすさが、Excelが世界中で広まっている理由だと思います。微妙に使いにくいアプリなどを使うよりずっといいと思います。
![中田元樹さん](https://mon-ja.net/assets/img/2024/11/nakata-genki-talking.jpg)
中田さんはかつてコンサルティングファームで勤務し、Excelを使ったデータ分析業務に従事したことが、のちの起業につながった
高価なシステムの導入よりExcelの訓練が効果的な場合も
中田さん 仕事においてもExcelをしっかり使いこなれせば、たいていのことはできると思います。多くの大企業はグループウェアを使って、全社的に情報やデータの管理をしたり業務の進捗管理をしたりしますが、大企業でなければそうしたシステムにお金をかけすぎるのは、かえって非効率になることが多いと思います。
社員の皆さんがExcelをある程度使いこなせるようになれば、グループウェアのようなツールやシステムの費用をかなり抑えられるのではないかと思います。使いこなすといっても何も難しいことはなく、計算するといっても足し算、引き算、かけ算、割り算の四則演算だけで、やりたいことの大部分はカバーできます。
個人としても、Excelを使いこなせるようになるだけでデータを扱う能力が高まり、自身のキャリアにも直結すると思います。Excelは最も基礎的なソフトウェアスキルのひとつです。まずはExcelを用いて自由自在に情報を加工、集計できるようにする。こういうアナログな訓練が意外と有効であり、企業にとってデジタル活用を検討する際の盲点になっていると思っています。個々人のデータリテラシーが低ければ、いくら新たなITツールを導入しても、結局うまくいきません。