宮崎県延岡市で保険業や資産運用のアドバイスに携わる小田初光さんが、地方で暮らす生活者のリアルな視点で、お金に関するさまざまな疑問に答えます。今回は、止まらない物価上昇(インフレ)がこの先どうなっていくのか、国際情勢や為替、日米の金融政策などと絡めて見ていきます。

  • 物価に深く関わる為替。日本は1985年のプラザ合意以降、長く円高が続いた
  • 円高に対抗する金融緩和がバブル経済を加速させ、金融引き締めでバブルは崩壊した
  • 日銀にとっては難しい舵取りだが、インフレはまだこれからで、個人も対策が必要

物価上昇と密接な関係がある為替の話

【質問】
ハワイ旅行に行ってきました。そこでビックリしたのは、物価が高いこと! まさかの飲食代、日本で食べるラーメン一杯1000円が、ハワイは日本円ベースで約3000円と約3倍超高く、全てのモノがそうなっています。ハワイに比べたら日本の物価高なんてたいしたことがないと感じますが、日本の値上げ、これからどうなっていくのでしょうか?

さあ~令和7年度がスタートしました。まずは、明けましておめでとうございますと言わせてください。
本当に「おめでとう」と思って前進していきたいものですが、これからの日本経済はどうなる? 物価高はおさまるの? 世界に目を向けると、隣国韓国に至っては、大統領が政変を起こすなど自国の首を絞めるような行為があり、危うい状況が続くなどしていますね。うかうかできない危うい状況に変わりありません。

世界経済のキーマンともいえる米国では、いよいよ自国主義のトランプ政権が発動する年となり、大きなリスクと紙一重の状況へと変わりつつあります。紛争も含めて、何が起きるかわかりません。

その前に、物価上昇を語るうえで知っておくと良さそうな、為替の話をしていきたいと思います。
みんなで使用するお金の価値が自国の価値となり、それが為替レートとなるのが決まりです。為替レートとは、他国との外国為替の取引における外貨との交換比率(交換レート)で、相談者が言うように、今はそれだけ米国(ハワイ)の価値が強い証となります。

ハワイ
アメリカでは急激な物価上昇が大きな問題になったが、日本にもインフレの波が押し寄せている

2012年頃まで続いた円高の要因は1985年の「プラザ合意」

バブル崩壊から35年近く経った日本の現状を見ると、2011年には1ドル75円台とドルが最高値になるほどの円高基調が続き、日経平均株価も下落相場が長きにわたり続きましたが、2012年以降は、安倍内閣の経済政策による「アベノミクス相場」で円安となっています。

長く円高が続いた主な原因は、1985年に先進国5か国の協調による為替介入(プラザ合意)と言われています。
1985年当時の日本は1ドルが約230円台の円安が続き、一方の米国はインフレ(物価高)のために金融引き締め(利上げ)をしたことで、ドル高が続いていました。日本などから米国への輸出が増えると、米国内では貿易赤字が増えるので、ドル高を是正する圧力が強まるのは当たり前のこと。プラザ合意後は、1ドル約240円から、約130円に円が上昇しています。

トラリピインタビュー

円高進行から金融緩和→金融引き締めでバブル崩壊へ

これまでと逆に円高となった日本の輸出産業にとっては、たまったもんじゃありません。数年後にバブル崩壊となり、日経平均株価は下落基調が続くことになります。米国のための為替介入が、日本を円高不況に陥らせたとも言えます。まさかここまでいくとは? 考えが甘かったのでしょう。日本も円高に応じて内需拡大に向けた経済政策を打ち、日銀にも金融緩和を同時進行して景気を良くしようと試みましたが、間違いでした。

バブル前の金融緩和で起きたことは、不動産、株など一部の資産が上昇しただけで、物価上昇(インフレ)とは程遠い内容でした。プラザ合意後からの日本は、日経平均株価が1万2000円台から、4年後の1989年に3万8915円をつけて、その恩恵を得たのは主に富裕層でした。一方、同年には日銀が金融引き締めを行い、政策金利(当時の公定歩合)を約1年で2.5%から6%に引き上げます。これが結果として、バブル崩壊の要因になったのです。

円安は輸出産業に有利だが、物価上昇も招く

さて、これからの日本はどうなっていくのか?
今までの日本の政策を振り返ってみると必然的に答えが見えてきそうですが、そう簡単ではありません。

経済成長は、為替相場や株式相場と切り離すことができません。日本政府は35年前の円高不況と、その後のデフレ経済がトラウマとなり、今後の株価は製造業が中心となる輸出産業が円安によって上昇し、経済を引っ張っていくものと思っています。

しかしながら、輸出産業だけの改革では経済の発展はあり得ません。政府が目先の対応に気を取られて、その先の改革がなされなかったのが、現在の状況です。
株価の上昇とデフレ経済脱却のために長きにわたり金融緩和を続けた結果、急激な円安で物価上昇を招いて、さらには紛争などもあり、物価上昇に賃金が追いつかない状態になっています。長いデフレ経済から今も脱却している途中の中小企業にとっては、たまったもんではありません。

日本銀行は難しい舵取りを迫られる

米国中心に考えると、トランプ政権のリスクとして中国に対する60%など幅広い関税、自国企業向けの減税、さらに不法移民の強制送還、労働者不足など政治的問題が浮上することでしょう。それは米国経済のさらなるインフレ再熱(ハイパーインフレ)につながることにもなるといわれています。

当面は目先のドル高を抑えるために政策金利は利下げとなり、米国株式には上げ基調が強くなりますが、日本政府は思い切って舵を切り、利上げに転じられるか? ここにかかってきます。
日銀総裁は会見でじわじわと、今の株式相場の上昇を見誤ることなく利上げをしていこうとしています。米国との金利差が狭まらないかぎりは円安の進行に歯止めがかかりませんが、利上げの副作用としての金利負担と株式相場の下落が景気にのしかかってきますので、難しい舵取りとなるでしょう。

日本銀行
利上げは過度な円安を抑える効果もあるが、金利増・株安を招くため、日銀にとっては対応が難しい

米国は利下げ、日本は利上げと、真逆の政策に難しさが表れています。政府が躍起になっている民間企業への賃上げ要請も、物価高は避けられないとわかっての行動と認識しています。政府は株式相場を長きにわたり上昇相場に持っていきたいのです。

結論としては、景気を維持するためには物価上昇は避けられません。インフレはまだこれからですので、対策を講じておいてください。今はデフレーション(低物価、低賃金、低成長)からの反動の途中です。為替の適切な水準と、好景気に導くための円安は紙一重なのです。