豊かな人生とは何をもって言うか、その指標はお金だけでしょうか? ビジネスを成功させた人に聞くと「人に恵まれた」エピソードが必ず語られます。コロナ禍を体験し、先が見えない世の中だからこそ「人と繋がる」ことの大切さが身に沁みます。“人”という字が支え合っているように、人と出会って何を学んでいくかは、人生において大切な自己投資になります。この連載では、専門知識や経験に秀でたスペシャリストの視点で、豊かな生き方の極意を語ってもらいます。第22回のテーマは「五感を大事にしたおいしいビジネス戦略」。今回は滋賀の和菓子の老舗の経営者、居川信彦さんにお話を伺いました。(聞き手=さらだたまこ)

居川信彦さんの写真

居川信彦(いかわ のぶひこ)さん
「株式会社 菓匠禄兵衛」代表取締役。
大学卒業後、大正15年創業の実家の製菓業に入り、ほどなくして父親から事業を継承。地域の仲間たちとまちづくりを起点に、地元老舗生菓子を全国の百貨店からオファーが来るブランドに押し上げ、事業を急成長させ、地元雇用にも貢献。現在は、配信、大型LEDビジョン、音響の3本柱で営業する「匠sound株式会社」の代表取締役という二つの顔を持つ。

和菓子界のイノベーションに学ぶ「五感の使い方」

いつかは収束するだろうと思っていたコロナ禍の生活も、3年が経とうとしています。

マスク着用に象徴されるいろいろな規制の中での暮らしは、相変わらず不自由ですが、この3年足らずの間に、世の中の仕組みや生活の在り方が随分変わってきた中で、筆者も生活習慣や物の見方・考え方、ひいては人生観が随分変わりました。
そして、様々な発見があります。

リモート会議が増え、リアルに人と会う時間が減った分、家でほっこりする時間を充実させたいと思うようになりました。

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ほっこり時間のお伴は、筆者の場合「お茶菓子」です。
本来、呑兵衛なので、アルコールを注いだグラスにも惹かれますが、一人で盃を重ねると飲み過ぎになってはいけないと、一人時間は「お茶」と決めています。
実は、家に居る時間が長くて、気の緩みから最初の1年でどんどん体重が増えたので、2年目は猛反省してダイエットに勤しみました。
でも、生来、くいしん坊でもある筆者は、太らない程度に甘いものもちょっと食べたい!
しっかりセーブしながら食べているので、幸いリバウンドに至らず、ダイエット成果を半年以上維持しています。

なので、都度、ちょっとずつ食べられる一個の一口サイズのお菓子はとってもありがたい存在です。

そんな中でも、へえっと思ったのが、コンビニやスーパーでも売ってるカップ入りのみたらし団子。
カップ入りだと、みたらしのタレも全部残さず食べられるのが魅力。
みたらし団子は串だんご、という既成概念があったけど、カップから食べる方が、食べやすいものです。冷やしてもおいしいし!

そんな中で、みたらし団子のヒット商品といえば、「菓匠禄兵衛」の『福みたらし』!
タレに覆われて一個ずつ容器に入っていて、人の表情にした焼き目がなんとも愛らしい。

トラリピインタビュー

多くはニコニコ笑っているけど、その他の表情も混じっていて見た目も楽しい
アイデアが話題になっています。
そこで、製造元である「菓匠禄兵衛」の社長・居川信彦さんにお話を伺ってみました。

菓匠禄兵衛の『福みたらし』の写真
愛らしい焼き印の表情が話題の「福みたらし」

大正15年に創業した菓匠禄兵衛は滋賀県長浜市に本店を置く和菓子の老舗です。琵琶湖を囲む滋賀県は、昔は近江と呼ばれ、郷土菓子といえば『でっち羊羹』が有名です。菓匠禄兵衛でもでっち羊羹は創業当時から受け継がれる伝統の味で、さらに和菓子の定番である草餅、どら焼き、豆大福、最中、そしてみたらし団子などを扱っています。特に草餅は、自社の畑で育てたヨモギを使っている看板商品です。創業100年に近づく老舗としては、素材のこだわり、職人の技術など培ってきた伝統があり、それを守っていくのが事業承継者の役目だと考えています」と居川さんはいいます。

しかし、新たなマーケットを開拓するには、別の戦略も必要になる。
スイーツ市場は、洋菓子の勢いに押されがち。
総務庁の家計調査(2018年)によると、和菓子の消費者の年齢層は、70歳以上のシルバー世代が圧倒的に厚く、39歳以下の若い年齢層はシルバー世代の半分になってしまうという。

そこで、居川さんが力を入れたイノベーションは「見た目!」
「昔ながらの地元のお客様には『禄兵衛が一番美味しい』とか『人に贈るお菓子は禄兵衛と決めている』というお声をいただいているので、そこは変えてはならないと思っています。では変えられるのは何か? それはデザイン性ということになります。お菓子そのものは昔と変わらなくてもパッケージを変えたりデザインに凝ったりして彩りにこだわるだけでも、随分と若いお客さまにも選んでいただけるようになりました」

そして、「『福みたらし』のような遊び心を菓子そのものに取り入れることで、話題づくりにもなって、これがひとつのビジネスモデルになりましたね」というように、視覚に訴える戦略が見事に当たったのです。

味覚や嗅覚によるところは「伝統」、そして視覚に訴えるところに「革新」を、というバランスの良さがポイントといえるでしょう。

パッケージでは、滋賀県米原市の山間に拠点を置いて活躍している切絵作家の早川鉄兵氏に依頼した『オトナレモンケーキ』や、建築やインテリアデザインで活躍するデザイナーユニット「トリネコ」とコラボして商品開発を行った、はさみ最中『くう』など斬新な試みが印象に残ります。

居川さんは「伝統と革新が織り成す新しい和菓子づくりで、他にはないオンリーワンの和菓子を目指します」と次々と挑戦をし続けています。

はさみ最中「くう」の画像
デザイナーユニット「トリネコ」とのコラボから生まれた斬新なデザイン、はさみ最中「くう」

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