予断を許さない日米TAG交渉
2019年2~3月は国内外で重要なリスクイベントが相次ぐため、海外市場の影響を受けやすい日本株は乱高下が予想される。米中通商協議の交渉期限が2019年3月1日に設定されている一方、日米間の通商協議も始まった。
日本側はサービス分野や為替相場は対象外の「TAG(物品貿易協定)」だと説明してきたが、2018年12月に米国が交渉項目として公表した22項目には、通信、金融などのサービス分野のほか、知的財産の取り扱いや為替条項も含まれており予断を許さない状況だ。
こうしたなか、トランプ米大統領のロシア・ゲート疑惑に関する捜査が終盤を迎える予定とされる。仮に窮地に追い込まれたトランプ氏が支持率回復を狙って中国や日本に対して強硬姿勢を見せることがあれば、市場が急激なリスクオフに傾くことが想定される。中国側の真意が読み取りにくいことも投資家を不安にさせ、日経平均株価は1万8000円程度まで下落する可能性がある。2019年2月は特に要注意といえそうだ。
3月も神経質な展開が続くだろう。29日に予定される英国のEU(欧州連合)離脱の不透明感が強いことに加えて、米政権との関係がぎくしゃくしているFRB(米連邦準備理事会)が利上げを実施するか、その後の利上げペースがどうなるかなどに市場の関心が高まるだろう。
FRBは市場とのコミュニケーションを強化するためにFOMC(米連邦公開市場委員会)後の会見回数を増やすとはいえ、2018年12月のようにパウエル議長からタカ派な発言が飛び出すと、再び市場に冷水を浴びせることになりかねない。2018年末に政府機関が一部閉鎖に陥るなど、混乱が目立つ米政府の債務上限問題が再燃する可能性も指摘される。
【図表】2019年は国内外で重要なリスクイベントが多い
1月 | 日米がTAGをめぐる通商協議を開始 |
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2月中旬 | トランプ大統領が2019会計年度予算教書を提出 |
3月1日 | 米中貿易交渉(90日間)の期限 |
3月中旬? | 米政府の債務上限問題が再燃? |
3月19-20日 | FOMC(会見あり) |
3月29日 | 英国のEU離脱 |
出所:各種資料よりニッセイ基礎研究所作成
米中関係はいったん沈静化か
今後の日本株市場は、米中関係の行方によってシナリオが大きく変わる。両国が歩み寄れば緩やかな上昇基調を取り戻すと見られる一方、対立激化や交渉決裂となれば日経平均株価の2万円割れが定着することになろう。予断を許さない状況ではあるが、筆者は前者の可能性の方が高いと想定している。
まず、中国は2018年11月の小売売上高が前年同月比8.1%増と約15年ぶりの低い伸び率になるなど、国内景気の減速が鮮明になりつつある。中国政府は大型減税など景気刺激策を実施しているものの、米国との通商摩擦を背景とした中国企業の設備投資抑制や、かねてから指摘される住宅バブルも先行き不透明感を強めている。2021年に中国共産党が結党100周年を控えており、「中国発の世界経済危機」を引き起こすわけにいかないという事情もありそうだ。
米国もハイテク分野の覇権争いは一歩も譲れないが、中国との関係激化で中国景気が悪化すれば、その影響が跳ね返ってくる。そもそも制裁関税を支払うのは中国から輸入する米企業なので、米企業部門から政府部門への富の移転(実質増税)に過ぎず、より直接的に米景気を減速させかねない。
また、中国が米国債を大量に保有している点も見逃せない。仮に中国側が「米国債の売却」をほのめかせば、米金利上昇が米国の景気悪化や株価急落に繋がりうる。そうなれば米国民の批判はトランプ政権に向かい、2020年の大統領選が危うくなる。
こうした双方の事情を勘案すると、貿易戦争が激化する可能性よりも、米国に対する報復関税の余地が小さいうえ各国から通信機器を排除されるなど分の悪い中国側が譲歩し、米国も強硬姿勢を緩和する可能性の方が高いのではないか。この先の長い覇権争いのなかで、いったん沈静化することを期待したい。
ただし、その場合でも日本株が上昇基調を取り戻すのは2019年5月ごろまで待たされることが想定される。というのも、日米通商協議や米景気の先行きなど不透明要因が依然として残されており、2019年度の業績予想が出揃うまで投資家心理の改善は限定的にならざるを得ないからだ。
(J-MONEY 2019年2月号より転載。記事内容は2019年1月15日時点)