前回の記事では、楽天グループが運営するキャッシュレス決済サービス「楽天ペイ」について、「楽天スーパーポイント」の活用によって普及を目指す取り組みを紹介しました。今回も引き続き、楽天ペイメントの諸伏勇人さんのインタビューをお届けします。(取材日:2019年1月25日)
楽天ペイメント株式会社
楽天ペイ事業本部
マーケティング・編成部長
諸伏 勇人さん
完全キャッシュレス化への挑戦
2019年でとくに注力しているプロジェクトについて教えてください。
諸伏 2019年1月に、楽天グループは完全キャッシュレス化に向けて、「スマートスタジアム構想」を発表しました。
スマートスタジアム構想とは、以下2つのスタジアム内のすべての決済において、現金の代わりにキャッシュレスサービスで完結させる取り組みです。
●楽天生命パーク宮城:
プロ野球チーム「東北楽天ゴールデンイーグルス」(楽天イーグルス)のホームスタジアム
●ノエビアスタジアム神戸:
J1プロサッカーチーム「ヴィッセル神戸」のホームスタジアム
※所属リーグは2019年4月時点
現在各スタジアムで利用可能なキャッシュレスサービスは、5つあります。
①スマホアプリ決済サービス「楽天ペイ」
②電子マネー「楽天Edy」
③共通ポイントカード「楽天ポイントカード」
④クレジットカード……「楽天カード」および、Mastercard・American Express・Visa・JCBブランドの各種クレジットカード
⑤各種ブランドデビットカード……「楽天銀行デビットカード(JCB/Visa)」を含む各種ブランドデビットカード
キャッシュレス化は、それぞれのホーム開幕戦である「ノエビアスタジアム神戸」はヴィッセル神戸ホーム開幕戦の2019年3月2日、「楽天生命パーク宮城」は楽天イーグルスホーム開幕戦の2019年4月2日からスタートしました。
スタジアム内におけるキャッシュレス化の取り組みは、数年前からすでに始まっていました。例えば、楽天生命パーク宮城では、客席内の売り子によるビール販売サービスに楽天ペイを2018年の夏に導入しました。従来であれば、中央に座る席の人がビールを購入したい場合、現金を隣の席の人へ渡し、さらに端の席の人まで順次パスしてもらうといったリレーのような光景を見ることもあります。
QRコードが印刷されたカードなら、カードを受け取り、QRコードをスマホで読み取って金額を入力すれば決済できます。これなら中央の席にいたとしても、今までよりも気軽に注文ができるのではないでしょうか。また、QRコードなら、釣銭紛失の心配もなく安全です。
ビールの売り子からもQRコード決済は大好評です。
「クレジットカードなどの読み取り専用端末ではなく、QRコードが印刷されたカードを使用するので、機器が壊れる心配もなく安心です」(売り子)
これは、開発・企画担当者が想定していなかったメリットといえます。
飲食、美容、タクシー業界で楽天ペイ導入が増加中
消費者とサービス従事者、双方に大きなメリットが生まれていますね。スタジアム外でも楽天ペイが利用されるシーンは想定されていますか?
諸伏 飲食店はもちろん、美容業界など、近年は楽天ペイを利用できる場がどんどん広がっています。楽天グループのスマートスタジアム構想では、スタジアム内にとどまらず、ゆくゆくは街全体へと展開していきたいと考えています。
例えば、楽天ペイに対応したタクシー会社のタクシーを利用するケース。
新幹線に乗って仙台駅まで行き、そこからタクシーに乗車してスタジアムまで向かいます。降りる際に、支払いは「楽天ペイで」と告げれば、あとは助手席のヘッドレストに設置されたQRコードを利用者が読み取って、提示金額を入力し、確認画面でスライドすれば決済は完了です。楽天スーパーポイントでの支払いも選択できます。
■支払いフローイメージ
タクシーにおける楽天ペイのQRコード決済の導入は、ドライバーからも好評を博しています。ドライバーの平均年齢は60歳前後ということもあり、現金支払い以外の決済手段が少し苦手なドライバーもいるようです。
仮にクレジットカード払いを指定される場合、ドライバーは専用のBluetoothユニットを使いこなせるようにならなくてはなりません。しかし、QRコード決済であればスマホに慣れた利用者に操作を委ねるため、ドライバーが複雑な操作方法を覚える必要がありません。QRコード決済は、ユーザーだけでなく、ドライバーの利便性にも適っています。また、企業にとっても、決済手段に応じたドライバーへの教育が容易なため、オペレーションコストが下がり、タクシー業界は飲食業界や美容業界に次いで加速度的に導入数が伸びている分野です。
楽天ペイは、専用のゲートを通過するだけで決済が完了するローソンの「ウォークスルー決済」の実証実験にもサービス提供されていましたね。
諸伏 2018年10月、毎年開催される国内最大の家電・IT見本市CEATEC Japanのローソンの出展ブースにおいて、「ウォークスルー決済」が試験的に披露され、その決済手段のひとつとして楽天ペイを提供しました。
ブース内に設営された店舗の商品にはすべてRFID(電子タグ)が付いており、来場者は欲しい商品を持ったまま、ウォークスルーゲートで楽天ペイのQRコードをかざすだけで決済が完了するという仕組みです。ゲートを通過後、利用者のスマホには支払い完了画面が表示され、購入履歴と、付与される楽天スーパーポイントが確認できます。
RFIDの普及は政府が掲げる「キャッシュレス・ビジョン」の一つです。コンビニ各社はすでに一部の地域で実験店舗を設置しており、2019年度内には200店舗まで増やすことを目標としています。
2019年10月からの消費税10%増税に伴い、キャッシュレス決済サービスを利用した買い物で、ポイントが最大5%還元されるという国策や、2020年をめどに、大手各社は自社の既存のPOS(販売時点情報管理)レジを回収し、最新のキャッシュレス決済に対応する機器と入れ替えを予定するなど、キャッシュレス化拡大の動きは各所で見受けられます。
この1年で、QRコードで支払いができることを疑う人は少なくなりました。楽天ペイがリリースした当初は考えられなかった好環境です。
キャッシュレス決済の次のステップは、業界全体で、消費者が「キャッシュレス決済のほうが便利でお得だ」と認識するよう、意識レベルを引き上げていくことだと思います。キャッシュレスというと、決済の「スピード」にフォーカスされがちですが、スピードだけなら従来からある電子マネーのSuicaやnanacoも十分早いといえます。楽天は、ポイントというお得さでキャッシュレス比率の向上に挑戦していきます。
筆者の家族は楽天カードを登録した楽天ペイを愛用。「いろんなサービスのなかでもとくにポイントが貯まる!」と満悦。