今回は、ハリケーンや地震、洪水などの自然災害によって発生する、経済的損失に連動する金融商品の市場動向について紹介します。ここ数年、世界中で大規模な自然災害が多発していますが、自然災害関連の金融商品の市場にどのような影響をもたらしているのでしょうか。

自然災害の損失に連動する投資先

寺本名保美
寺本名保美
トータルアセットデザイン
代表取締役

CAT Bond(Catastrophe Bond)という投資について耳にしたことはありますか? 日本語に訳すと「大災害債券」といい、ハリケーンや地震・洪水といった自然災害によって発生する経済的損失に連動する債券のことを指します。CAT Bondを発行するのは、このような損害を被る可能性のある事業法人や、こうした事業法人からの損害保険を引き受けている損害保険会社です。当該債券で指定された大規模災害が発生しなければ、通常の債券の数倍の利息が債券の保有者に支払われます。一方、大規模災害発生時には、債券の元本は債券を発行した事業会社などの損失に充当され、債券価値は最悪でゼロになるという仕組みです。

CAT Bondと同様の自然災害にリンクする投資としては、損害保険会社に発生した一定規模以上の損失を肩代わりする再保険型の投資スキームなども含めていくつかのカテゴリーがありますが、こうした自然災害の損失にリンクするタイプの投資を総称して損害保険リンク証券(ILS:Insurance Linked Securities)と呼びます。

2009年の金融危機後、世界的に長期金利が低下したことで、相対的に高い利息が受け取れるILSに世界の機関投資家が注目し、現在こうしたタイプの証券の発行残高は全世界で400億ドルを超える規模まで拡大しているといわれています(図表1)。

【図表1】CAT BondとILSの発行額、残高の推移
CAT BondとILSの発行額、残高の推移
出所:ARTEMISのデータを基に作成

機関投資家がILSに投資する際は、一般的に特定の地域のハリケーンや地震などの影響を受けないように、保険の対象となる地域や事象を幅広く分散させたファンドを通して投資を行います。従って、例えば大きなハリケーンが米国のフロリダに被害を与え、ILSの投資の一部に損害が発生したとしても、他の地域でのILSからの高い利息や保険料収入を享受することで、ファンド全体の年間収益がマイナスになることはほとんどないといわれてきました。

仮に年間収益がマイナスになるような年があったとしても、大きな損害のあった翌年の損害保険料は値上がりする傾向があり、前年度の損失は翌年度の保険料の上昇で埋めることができます。こうした収益の特性からILSはこれまで比較的リスクの小さい投資であるとみなされてきたのです。

2017年以降、大規模な自然災害が多発

しかしながら、この安定的だったILSファンドの特性に足元で変化が生じてきました。ILS関連ファンド全体の収益を累積したグラフ(図表2)を見てみると、2017年以降のグラフの形状がこれまでとは明らかに異なっていることがわかります。ILSに何が起きたのでしょうか。

【図表2】損害保険リンクファンドインデックス累積リターンの推移
(2005年12月31日=100)
損害保険リンクファンドインデックス累積リターンの推移
出所:Eurekahedge ILS Advisers Insurance Linked Securities Fund Index

【図表3】2011年~2018年までの世界の主な自然災害
世界の主な自然災害

この間に発生した大規模災害の一覧(図表3)と合わせてみてみると、2011年については2月のニュージーランドでの震災と3月の日本における東日本大震災が、また2012年には通常のハリケーンの規模を超える「スーパーストーム」と呼ばれるハリケーン「サンディ」が米北東部で発生しています。ニュージーランドの地震と日本の震災の時期が近かったため2011年のファンドの損失はやや大きな幅となりましたが、基本的に大規模災害の発生には数年のインターバルがあったことにより、ILSファンド全体に与える影響は比較的小さな範囲で収まってきたことがわかります。

ところが2017年以降大規模災害の間隔が狭くなり、一つの災害からの損失を回復する間もなく次の大規模災害が発生しています。同一地域でのハリケーンが重なったことによる損失の累積もあり、ILSファンドは過去にない下落が発生しました。2017年8月末にテキサス南部を襲ったハリケーン「ハービー」がもたらした洪水は500年に一度の規模といわれ、9月に米フロリダ州に襲来したハリケーン「イルマ」の洪水被害は100年に一度の規模と称されました。また、9月にプエルトリコを直撃したハリケーン「マリア」は、プエルトリコに上陸したハリケーンとしては100年に一度の規模といわれています。

つまり、500年に一度級の災害1つと、100年に一度級の災害2つが、たった2カ月間に連続して発生したということになります。さらに2018年3月には、米ニューヨーク州で史上最大の降雪が記録され、空港が4日間にわたって閉鎖される事態が起きました。同年9月に起きた日本の台風21号は、日本列島の都市部を縦断したことで、台風による経済被害としては過去最高の被害額を計上しています。

ILSの運用では、通常過去の被害や災害の発生実績から将来の災害の発生確率を予想し、その想定被害額に見合うだけの保険料収入を確保できるような分散投資を行うのですが、2017年以降の自然災害は、こうした過去の統計からはカバーできない規模の災害損失をもたらしています。逆にいうならば、ILSファンドの悲惨なパフォーマンスが、地球において過去からの統計からは想定できない規模と頻度の災害が発生しているということを我々に教えてくれているともいえるでしょう。

2019年の夏は、欧州において記録的な熱波が到来しています。2017年から2年続いた記録的な自然災害が、2019年も起きないとはもはや言い難いくなりつつあるようにも思えます。地球規模の自然の変質を、我々に数字をもって示しているILS投資は、2019年も予断を許せない状況が続きそうです。

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