あきらめない気持ちと人間の創造力

新しいマーケットを創出するとき、次の4つのうちどこを狙うべきだと思いますか?

①多くの人が合意できて、間違っているアイデア
②多くの人が合意できて、正しいアイデア
③多くの人が合意できない、間違っているアイデア
④多くの人が合意できない、正しいアイデア

一見、「②多くの人が合意できて、正しいアイデア」を選択するべきだと思われるでしょう。実際、人が集まって物事を決めると、②が選ばれます。しかし、②を選ぶということは、地球上の約70億人のうち誰かがもうすでに挑戦済みだと考えなくてはなりません。しかも、先行して取り組んでいる人が恐ろしくたくさんいるにも関わらず、世の中に出てきていない…。そこには何か大きな罠があると考えたほうが無難です。だから、②は選んではいけません。

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イノベーションを起こすためには、合意が取れていないアイデアしかやるべきではないと言われています。つまり、新しいマーケットを創出するには、「④多くの人が合意できない、正しいアイデア」を選ばなくてはいけません。誰かに話すとバカにされるようなアイデア。例えば、ぬいぐるみのようなロボットを4年かけて100億円使って製作するようなことです。選択したあとは、「できる」と信じなくてはなりません。誰からも合意を得られないとき、どうやって自分にできると信じ込ませればいいのでしょう?

リオのパラリンピックの動画を見ながら考えていきましょう。オリンピックは、健常者のトップアスリートが肉体の限界に挑む大会です。一方、パラリンピックは障害のあるトップアスリートが出場する祭典です。ロボットに置き換えると、壊れていないロボットがどれだけ早く走れるかという競争はできますが、ロボットの片足が動かなくなった時、その状態で前に進むことはできません。だけど人間だけは、たとえ片足がなくても、腕がなくても、代替手段を考えることができるのです。そういう意味で、「人間の創造力とはなにか」を考えさせられるのが、パラリンピックだと思います。パラリンピックに出場する彼らは、あきらめなかった結果、何者かになることができた人たちです。

日本は統率者よりもサポーター気質の人が多い

次は、起業家のデレク・シヴァーズ氏による研究の一つ、「社会運動はどうやって起こすか」という動画を紹介します。新しいマーケットを創出するには、「④多くの人が合意できない、正しいアイデア」を選ばなくてはいけないと先ほど申し上げましたが、そもそも合意が取れていないことに挑むことはたいへんです。最初は、周囲の人に理解されないし、当然サポートは受けられません。

デレク・シヴァーズ氏は、先駆者となるリーダーが社会を動かすとき、リーダーに追随する2番手、3番手の存在が重要な役割を担うと話します。最初のリーダーとなる人が勇気を持って行動したとき、周囲は嘲笑するか、冷めた目で見るか、無視するか、どうあっても好意的ではありません。ここに追随者(フォロワー)となる2番手3番手が加わることで、1人のバカをリーダーへと変えるのです。3人も集まれば集団であり、集団というのはニュースになります。ニュースはムーブメントとなり、社会現象に発展します。4人目以降は、躊躇なく集団に加わることができます。このタイミングで集団に参加しても、一人で悪目立ちすることも、嘲笑される心配もありません。どんどん大きなムーブメントになっていくと、もう集団に加わらないほうがかえってバカにされるほどになります。このように、社会を動かすには、リーダーだけでなくフォロワーが重要なのだとデレク・シヴァーズ氏は言います。

イノベーションでも同じことが言えます。私は40歳を越えてから自分の夢を見つけましたが、それまでは誰かの夢を支えたいと思っていました。何かをやりたいと考えているひとは世の中にたくさんいる一方で、誰かの夢を支える人は、いつの時代も圧倒的に足りません。だからもしいま夢を持っていなくても、他の人の夢を支える人になれるということです。そしてそれはとても大切なことなのです。リーダーは、2番手3番手を集めることと、その2~3人だけの意外と長い不安な期間をどう絶えしのぐかがカギです。

日本とアメリカが決定的に違う点は、リーダー役とフォロワー役の比率の違いにあります。アメリカはリーダー役とフォロワー役がだいたい半々か、リーダー役の方が多い。自分でルールを作りたい派が多いと言われています。これに対して日本は、リーダー役が27%でフォロワー役が73%と、ルールに従いたい派の方が多いです。そのため新しいことに挑戦する人はなかなか増えません。

また、フォロワー役は不安を感じやすい性質を持っているということを押さえておく必要があります。不安を感じやすいため、攻撃的になりやすいということです。デレク・シヴァーズ氏の研究でも、「最初のリーダーとなる人が勇気を持って行動したとき、周囲は嘲笑するなど好意的ではない反応を示した」と説明しましたが、これは彼らが悪人だからというわけではなく、心が狭いわけでもなく、不安から攻撃的な反応を示しただけなのです。日本では、フォロワー役のほうがマジョリティであるため、新しいことを始めると攻撃されやすい特徴があります。ただし、いったんムーブメントを起こすことができれば、このフォロワーたちは心強いサポーターに変わります。こういう国で、私たちは生活しているのです。

未知なるモノの開発計画は立て直し前提で進める

林要氏講演2

日本で新しいことを始めるとき、私たちの会社はどんな工夫をしてきたのか紹介します。当社はフラット型組織でマネージャー職はありません。社長、役員、部長、次長、課長というような階層はなく、全員が渾然一体となって同じ場所で作業しています。

従来の日本企業が採用してきたピラミッド型組織は、ウォーターフォールという事業の進め方をするときに適しています。ウォーターフォールとは、最初にすべての計画を立てて事業を進めるやり方です。計画を立てて、予算を立てて、人を決めて、その通りに進めます。メリットは、計画より遅れていたり、計画よりもお金がかかっていたりするときに、それに気づきやすいことです。

一方、フラット型組織に向いている事業の進め方は、スクラムと呼ばれるようなアジャイル開発手法です。短期間で繰り返しどんどん開発をしていく手法で、予算も日程も見積もりが読みにくいのですが、新しいことをするときには確実に前進できます。

ウォーターフォールが新しいことをするときに向いていない理由を考えていきます。新しいこととは、誰もやり方が分かりません。想像がつくレベルは新しいことではありません。すると、新しいことをしようとして最初に立てた計画は、最も稚拙な計画ということになります。自分が何かを試してみて、学んで、少し前の自分よりも知識がついて、成長したあとの自分が立てる計画のほうが、最初の計画よりもマシなものになります。ただし、最後に計画があっても仕方がない。ではどうしたらいいのでしょうか。

私たちはどのくらい先の未来を見通せると思いますか? 世界中のどんな識者に聞いても、5年先、10年先は見通せないと言います。アジャイル開発では、1~4週間の単位を短期開発期間と定義しています。つまり1~4週間なら見通せるかもしれないということです。当社ではこの期間を1週間とし、1週間ごとにPDCAサイクルを回します。

LOVOTの開発は、長い歴史ある生物の進化をわずか4年で模倣すること。イノベーションではよく、「早く試して早く学ぶ」ことが大切だと言われています。学ぶと朝令暮改が起こります。すぐ方針が変わってしましますが、すぐに方針を変えないと進化なんてできません。

アメリカの宇宙開発ベンチャーのスペースXは、数年間にわたるロケットの着陸試験失敗の動画をまとめ、公開しています。私はこの動画を、「NASA(アメリカ航空宇宙局)では(着陸に失敗するなどして)こんなに爆発させることはできないだろう」というメッセージなのではないかと思っています。NASAでロケットの着陸が失敗して爆発が起こるたびに、「国民の税金を無駄にしやがって」と野党から集中砲火を食らいます。そこでNASAは失敗しないように慎重になります。すると、どんどんお金と時間がかかります。他方、スペースXはベンチャー企業です。自分たちが集めたお金を自分たちで爆発させます。投資家には怒られるかもしれませんが、少なくとも国民から怒られることはありません。そのため、スペースXのほうがはるかにたくさん爆発させることができるのです。スペースXは成功や存続が懸念されていましたが、今では世界的なロケット企業となりました。

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