自身と賛同者の不安マネジメントがカギ

「早く試して早く学ぶ」。言うのは簡単ですが、実行するのはたいへんなことです。見通しが立たないため、先の見えない航海のようなものです。不安になります。コロンブスが新大陸発見までの航海の途中で暴動が起こったという話はご存知ですか? コロンブスが大陸へ到達するまでの時間を短く見積もってしまったため、いつまで経っても大陸が見えてこないことに恐怖を抱いた船員たちが暴動を起こし、帰国することをコロンブスに迫ります。コロンブスは命の危機を感じることもあったかもしれません。その後、流木を発見したコロンブスが船員たちに「陸地が近い」と説得し、未知の新大陸にたどり着いたのです。

新しいことを試すというのは、不安との闘いになります。リーダーが2番手3番手の賛同者の不安をどうマネジメントし続けられるかどうかにかかっています。多くの企業は、やり方が決まっていて、先輩が何をすればいいのか教えてくれます。これは、見通しのいい航海です。ウォーターフォールで、今までエリートたちがやってきた方法ですね。不安があったら事前に潰し込みます。

未知なことに挑戦するときはこれとはまったく異なる労力が必要です。必要とされるのは、見通しの悪いところで遭難しない能力です。崖で喩えてみましょう。企業が失敗の再発防止策を講じると、崖の手前に、ルールという安全柵が作られます。この柵内であれば、失敗しません。この柵の中で成果を出すことが、ウォーターフォール手法で優秀とされる人です。

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しかしいまや、世界相手に競争する時代です。柵内では闘いになりません。世界で戦っている人たちは、崖のギリギリのところで戦ってます。柵の中で安全に生きていた人たちがいきなり崖のギリギリのところに向かうと、だいたい派手にダイブして落ちます。落下すると、「早く試して早く学ぶ」どころではありません。大失敗して、その火消しにずっと奔走する羽目になります。リカバリーの効くちょっとした失敗なら大丈夫です。おすすめは、崖から片足を落とすくらいの状態。もう片方の足で踏ん張っていられるくらいのイメージです。片足を落とした状態に慣れてくると、これ以上は危険だと察知できるようになります。ギリギリのエッジを歩く癖をつけることがポイントです。

「飽き」は人の能力を落とす

一般的に、会社には部門が設けられています。部門の境界はルールで決められています。AとBの部門があれば、スコープ(影響範囲)が変わっていくと、互いの守備範囲を勝手に狭め出します。ルールが決まっていないので、自分たちが確実にできる範囲しか守らないようになります。すると、ギャップが見つかるまでに長期間かかります。プロジェクトリーダーが部門間のギャップを見つけるのに、3カ月~半年はかかります。長期間かけて開いたギャップは、閉じるためにも同じくらい時間がかかります。半年分のギャップを半年かけて埋めると、作業は1年遅れます。あっという間にプロジェクトは頓挫します。開発資金も底をつくでしょう。それを穴埋めするために適当なものを作るため、組織間の壁がそのまま製品に反映されます。

セミナー全景

当社が採用しているアジャイル開発手法では、そもそも部門がありません。互いの隙間があることを気づいた誰でも指摘できます。対策も講じやすく、ギャップのないものを作りやすいです。フラット型組織とは、カオスではあるものの、新しいことに挑戦する時には適していると言えます。

企業のパフォーマンスを「2:6:2の法則」に当てはめてみると、上位2割がずば抜けたパフォーマンスを残している一方で、6割は並の成績を維持し、下位2割は極端に生産性が低いということになります。ピラミッド型組織は2:6:2の法則が効くのに対し、フラット型には効かないという面白い側面があります。極端に生産性が低い層は、ネガティブキャンペーンの影響も含めて組織にとってマイナスとなります。他方、フラット型組織は活気が出てきます。ネガティブな人がまったくいないわけではありませんが、少なくなります。ネガティブな人はポジティブな人の生産性を落としているので、それを考慮すると、フラット型組織はピラミッド型組織と比較して生産性が高いです。

ピラミッド型組織にはもう一つ問題があります。それは、パレートの法則の上位2割がいきいきと働いているときはいいのですが、最後に派閥競争に巻き込まれるということです。派閥競争となると、多数の派閥が反目し合うピラミッド型組織となります。それから私たちが懸念しているのは、飽きの問題です。仕事をしている人が「飽きた」なんて言えば、まるで悪いことのように扱われる風潮が日本にはあります。「飽きたなんて言うんじゃない」と。「飽き」は人の能力を落とします。飽きた状態のままで仕事をさせ続けると、やがてその人は他人に対して不寛容になり、攻撃的になっていくと認知科学で証明されています。そのため、当社は本人が仕事に飽きたらすぐに部署を移動できるようにしています。

日本人は不安要素が高い人種です。死亡保険の加入率はアメリカが2割であるのに対し、日本はなんと7割。圧倒的に不安を感じている人が多いということです。こういった特性を持つ国民は、重箱の隅をつつくような仕事をさせると良い成果を出す傾向があります。リスクをもともと取らないので、飽きても我慢しやすいという側面があります。しかし飽きた状態で我慢し続けると、不寛容になってしまいます。先ほど説明した脳のネットワークの話からも分かるように、1本の回路を延々と走ります。Connecting the Dotsが起こらなくなります。

飽きたことを認めて覚悟を決め、新しいことにチャレンジすることが、将来の生産性の向上につながります。1回のチャレンジで生産性が上がるかどうかは分かりませんが、何回もやっていると、徐々に生産性が上がるようになっていくのが分かります。飽きたらとにかく早めに気づいて、自分から動きましょう。これはとても大切なことです。

終わりに、「幸運の神様には前髪しかない」という欧米の有名な格言で締めくくりたいと思います。幸運とは、気づいた時には過ぎ去っているので、向かってくる瞬間に掴むしかないということです。その時に、リスクを計算している時間はありません。皆さんもチャンスがあったらぜひ掴んでみてください。

編集後記
以前MonJaインタビューにご登場いただいた石原潤一氏のご招待で、KONAKA維新塾に参加しました。会社の革命を主題にした有料勉強会ということで、平日の夜にも関わらず若年層からベテラン勢まで多くの意欲的な参加者でにぎわっていました。林要氏に続く、世界で競い合える次の起業家が現れる日が楽しみです。

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