「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回は、地球温暖化防止など社会貢献をテーマにした投資信託について考えます。
- 投資経験者も初心者も、投資信託の基準価額は「分からない」という意見が多い
- いまだ2007年時点の基準価額に戻らない、地球温暖化防止がテーマのファンド
- 何のための投資なのかを考える。自分自身の課題解決につながることが大切
皆さん、こんにちは! 寒い日が続きますね。筆者の故郷、富山でも35年振りに1m超えの積雪で、大変な豪雪になってしまいました。かんじき(東京の方はご存知ないですよね?)を履いての雪かきも、大雪の中、汗をかいての重労働です。
そういえば、最近は夏になると「記録的な大雨」や「経験したことのない土砂降りだった」などの報道を見ることがあります。
豪雪や大雨、これらは皆、地球温暖化の影響によるものなのでしょうか?
ファンドへの投資は「見えにくい」?
さて、株式個別銘柄への投資経験が豊富な人も、投資デビューを果たしたばかりの方も、口をそろえておっしゃるのは「ファンドって、分からない!」の一言です。
(以下、本稿では、投資信託のことをファンドと称します)
では、ファンドの何が分からないのかというと、「価値(=基準価額のこと)が上下するのは分かるけど、どうして上がっているのか、ナンで下がっているのかが分からない」ということでした。
特に、日経平均株価などに連動しないアクティブファンドに「分からない」とおっしゃる傾向が強いような気がします。
もっとも、インデックスファンドでも配当貴族指数(第30回参照)やTOPIX Core30(第31回参照)ですと、やはり「分からない」とおっしゃることでしょうね。
確かに、株式個別銘柄でしたら、企業業績はもちろん、その企業や業界の話題、それにPERやPBRと呼ばれる指標もあります。ところが、ファンドはというと……。
運用報告書や運用会社のサイトなどを見れば、ファンドの決算書や過去の基準価額の動き、それに分配実績などは載っていますが、株式個別銘柄の情報に比べると、ざっくりとしていますし、載っている情報は過去の実績がメインです。
「夢」の持てるテーマへの投資
ということで、より「分かりやすい」「見えやすい」ファンドに投資する方法のひとつとして、少しでも「夢」の持てるテーマへの投資を検討することになります。具体的には、AIや自動運転などです。
「夢」の持てるテーマへの投資は、実は、筆者は過去に書いたことがあるので、そちらを参考になさってくださいませ。
「地球温暖化防止」がテーマのファンド……筆者の失敗の軌跡
今回は、社会貢献や環境をテーマとしたファンドへの投資を考えてみたいと思います。ここから筆者の経験を語らせて下さい。
SRI(社会的責任投資)や、SDGs(持続可能な開発目標)という言葉を聞いたことはあるでしょうか? SDGsは比較的、最近の言葉だと思いますが、環境問題は古くから言われていることではないでしょうか?
筆者は若かりし頃、地球環境の問題についてはそれほど熱心に取り組んでいたわけではありません。しかし、暑がりの大汗かきの筆者は、夏の暑さが特に堪えます。
そんな筆者に朗報だったのが、「地球温暖化防止に取り組む企業に投資するファンド」の発売が開始される、というもの。
筆者の場合、「夏の暑さがこれ以上、暑くならないように。何だったら、温暖化防止どころか、冷却化ファンドでも構いません」くらいな気持ちで、そのファンドにお金を投じることにしました。
とはいえ、実際には筆者とは異なり、環境をテーマとするファンドへの投資を検討されている方は、地球環境問題に対し真摯に向き合っていらっしゃる方や、ご自身の投資で得るリターンがご自身のみならず、地球環境などの問題解決に役立ってほしい、そんな方ばかりであろうと察せられます。
さて、筆者は「再生エネルギー・省エネルギー・温暖化ガス削減」に取り組んでいる企業に投資するファンド(以下「地球温暖化防止ファンド」と呼びます)を、2007年8月の発売開始と同時に10万円、投資しました。投資時の基準価額はちょうど10,000円でした。
しかし、2007年8月といえば、あのリーマン・ショックの前年です。
筆者が投資した地球温暖化防止ファンドは、2007年11月に設定来最高値の11,663円を記録して以後、本稿執筆時(2021年1月9日)に至るまで13年間、発売開始時の基準価額10,000円を回復することはありません。
また、筆者の記憶が正しければ、ファンドの設定から本稿執筆時に至るまで、分配金の支払い実績はありません。
国内外の株式に投資するファンドなので、2012年以後のアベノミクス、2016年以後のトランプラリーの恩恵もゼロではなかったはずですが、そうした株価上昇を横目に見ながら、筆者が投資した地球温暖化防止ファンドの基準価額は横ばいで推移していました。
ちなみに、基準価額の設定来最安値は、2012年6月の2,919円です。
設定直後に最高値を記録してから、リーマン・ショックで右肩下がりに下がって、もとの基準価額から7割減という設定来最安値を付けた後、しばらく横ばいが続きました。
筆者も、このファンドの過去の実績を冷めた目で見ているしかありませんでした……。さすが、地球温暖化防止ファンドだけあって、まず投資家の心を冷やしてくれるんですね。
その後、2013年11月6日に、地球温暖化防止ファンドの基準価額が5,715円の時に、筆者は30,000円の追加投資を行いました。
その後も筆者は冷めた目でファンドの価格を見続けていましたが、最近の市場の株高傾向は、筆者の心に、ようやく春をもたらしてくれました。ファンドの基準価額は今年に入って9,000円を超え、投資時の10,000円まであと少しです。長かったですね。
昨年12月21日に売り注文を入れました。2回に渡る投資元本の合計130,000円(=初めの100,000円と、追加の30,000円)に対し、得ることができた利益は5,312円です。
約定した時の基準価額は8,846円でしたから、最初に投資した時の基準価額10,000円を大きく下回っていますね。利益を得ることができても、譲渡所得が生じなかったため、利益には税金が掛かりませんでした。
それでも、2007年8月31日に投資をしてから、実に13年と3か月が経っています。13年間の利益の合計が、投資元本の約4%です。追加投資がなければ、今もマイナスのままでした。
「地球温暖化防止」という、世界中の誰にとっても関心の高いテーマを掲げたファンドでしたが、以上のような軌跡をたどりました。
「社会貢献」投資を考える
環境問題や社会貢献。確かに、現在そして将来に向かって、私たち人類が解決しなければならないテーマです。そして、環境問題や社会貢献をテーマとするファンドの中には、「利益の一部を投資家に代わって、慈善団体に寄付します」というファンドもあります。
しかし、環境問題や社会貢献に心を寄せることと、ファンドに投資をする目的は、全く別のこととしてとらえる必要があるのではないでしょうか?
そもそも、読者の皆さまは、何のためにファンドに投資をするのでしょうか?
本稿では、第1回から「現金のリスク」を、どのようにカバーしていくのかについて論じています。
投資や「現金のリスク」というと、後ろめたさというのか、浅ましさを少なからず感じていらっしゃる方も、おられることでしょう。
だからといって、環境問題や社会貢献のファンドを検討するというのは、本当に正しいのでしょうか?
「現金のリスク」は、外ならぬ「読者自身に関わる」将来の課題なのです。
その解決の手段の一つとして、ファンドへの投資があるのです。
ですから、「読者自身に関わる」将来の課題解決につながるようなファンドに投資をしなければ、意味がないのです。
環境問題や社会貢献につながるファンドに投資をする……そうしたファンドに組み込まれている企業が展開するビジネスは、本当に成長が期待され、株主に利益をもたらすものなのでしょうか?
ましてや、ファンドで生じた運用益の一部を慈善団体に寄付をする……なぜ、寄付をする必要があるのでしょうか?
もし、今後、市場の情勢が変化し、ファンドがパフォーマンスを上げることが難しくなった場合、それでも慈善団体への寄付を続けるのでしょうか?
寄付を続けるのだとしたら、投資家にとっては寄付をしている場合ではないでしょうし、かといって寄付を止めてしまうのであれば、今度は慈善団体の方が困ってしまうのではないでしょうか?
何のためのファンドへの投資なのか?……まとめに代えて
確かに、「ファンドは分からない」というお気持ちはよく分かります。ですので、少しでもなじみと関心のあるテーマを掲げたファンドに投資したい、という気持ちも、よく分かります。
が、やはり投資するファンドを検討するときには、「何のための投資」なのか、その視点を欠かさないでいただきたいと思います。
例えば「子どもの将来の進学資金を準備するため」に投資するファンドでしたら、「利益の一部を慈善団体に寄付」というファンドが選択肢にあがることはないでしょう。「寄付する分も、子どもの進学資金に充てたい」というのが、正直な親心ではないでしょうか?
あるいは「自身の老後資金のため」に投資するファンドでしたら、いかがでしょうか?
「自分のみならず、世界の将来を考えたら、地球の温暖化は防いだ方が良い」からと、地球温暖化防止ファンドに投資をしても、利益を得ることができないのであれば、地球温暖化防止はともかく、自身の老後の資金が枯渇することになります。
「ファンドは分からない」とおっしゃる方、まずは「何のための投資」なのか、原点に帰ってみましょう。
筆者の行ったアクション | 基準価額 | 純資産残高 |
---|---|---|
2007年8月31日 投資 | 10,000円 | 472.53億円 |
2013年11月6日 投資 | 5,175円 | 54.97億円 |
2020年12月21日 売却 | 8,846円 | 25.03億円 |
純資産残高の推移を見ても、果たして長期投資にふさわしいファンドと言えるのか……?